9月8日、英国国王・エリザベス女王(エリザベス2世)がスコットランドのバルモラル城にて崩御されました。在位70年を記念するプラチナ・ジュビリーを祝ってからわずか3ヶ月。体調不良が報じられてはいたものの、5月17日に行われたロンドン最新の地下鉄「エリザベス・ライン」の開通記念式典や、6月の祝賀行事にも登場。自分の足でしっかり立ち、笑顔を浮かべる朗らかな様子に、別れがこんなに近いとは想像しておらず、ショックを受けている人も少なくない印象です。
享年96歳。フランス国王・ルイ14世に次ぐ70年間の在位期間を誇る、史上最年長の君主はファッショニスタとしても世界中の注目を集めました。その小柄な姿を遠くからでも確認できるよう、公務の際は鮮やかな色をまとい、高さのある帽子。雨の日は透明な傘をさして、しっかりと顔が見えるよう配慮し、国民に近い君主としてのスタイルがアイコニックです。しかし実は、プライベートな装いにこそ、その類い稀な品格が光っており…。
今回は、この秋もマストハブであるタイムレスな「ジャケット」にフォーカスし、女王の新たな一面を感じる意外性がありながらも、その揺るぎないエレガンスが滲みでたスタイルを紐解いていきましょう。
■1:柔らかでフェミニン!珍しいパンツのセットアップ
2003年1月14日、膝の怪我のため入院したロンドンのキングエドワード7世病院から退院した際のスナップです。ライトグレーのセットアップは足捌きのよいパンツ。センタープリーツが入り、きちんとした印象を高めます。シングルのジャケットはボクシーなシルエット。ゴールドボタンが効いたオーセンティックなデザインで上質さが際立ちます。インナーはジャケットよりも一段ライトな同系色を選んで、シックかつ明るく。バッグと足元はブラックでキリッと引き締めて。ふんわり巻いたシルバーカラーのスカーフの光沢と、パールのまろやかな艶めきが顔まわりに優美さを添え、マニッシュなスタイルをエレガントに昇華しています。
■2:注目のツイードで周りを笑顔にする華やぎを
2013年6月10日、ロンドンのクリニックで腹部の手術を受け入院中の、エジンバラ侯爵フィリップ殿下を見舞った際の装いです。ホワイトトーンのツイードジャケットに膝丈スカートのセットアップは、上品な華やかさが魅力。悪目立ちすることなく柔らかなムードを授け、明るい空気を醸します。トレードマークであるブローチはゴールドトーンをセレクト。パールのネックレス&イヤリングと合わせて、色ではなく輝きを添えてツイード素材の洒落感を引き立てて。長年愛用のロンドンブランドのハンドバッグをこの日もリピート。足元もエナメル素材で揃え、艶めきがドレッシー感を後押ししています。
■3:女王のベーシック!小粋な乗馬スタイル
乗馬をこよなく愛する女王の定番といえる、ジャケットにヘッドスカーフ、ジョッパーズにロングブーツのコーディネート。背後には4WDが映り込み、車の運転も得意な女王のアクティブな面が表れた1枚です。オーバーサイズなシルエットのジャケットからブーツまで、ブラウントーンでまとめて、洒脱な印象に。頭に巻いた深みのあるグリーンのスカーフが洗練されたアクセントを添えています。装いを個性的に仕上げているスカーフですが、ポイントを上につくることで、バランスアップにもつながります。
21歳の誕生日にラジオで「自分の人生を英国民に捧げる」と誓ったエリザベス女王。その言葉通り、死の2日前となる9月6日にリズ・トラス新首相の任命も済ませ、散り際まで公務に心血を注いだ姿に、働く大人として感銘を受けずにいられません。
そんな真のキャリアである一方、ロンドンオリンピックではジェームズ・ボンド、祝賀コンサートでは「くまのパディントン」と共演し、お茶目な魅力を発揮。最期を過ごしたのは、初恋の相手であり昨年先立ってしまったフィリップ殿下にプロポーズされた、お気に入りのバルモラル城…というのもハートウォーミングで人間味あふれ切なく、好感を抱いてしまいます。英国王室を画期的に改革した「国民の母」の華麗なるスタイルレガシー、これからも末長く人々の心に君臨し続けていくことでしょう。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- Getty Images(エリザベス女王)
- WRITING :
- 神田 朝子