エイジレスな魅力で人々を魅了し続ける永作博美さんがAudibleで、12年前に上梓された湊かなえさん初の短編集『サファイア』の朗読を務めました。1日4〜5時間、約7日間に渡るスタジオ収録期間はご自宅で事前準備を行い、リハーサルを重ねたという永作さん。7つの短編を肉声だけでどのように構築していったのか、舞台裏を直撃しました。

俳優の永作博美さん
ワンピース¥41,800(ハウス オブ ロータス 二子玉川店) ・ピアス¥33,000(ドゥエドンネ)
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永作博美 さん
俳優
(ながさく・ひろみ)1994年、ドラマ『陽の当たる場所』(CX)で女優デビュー。以降、映画、ドラマ、舞台で活躍中。映画『腑抜けども、悲しみの愛をみせろ』(07年/吉田大八監督/ファントム・フィルム)、映画『八日目の蝉』(11年/成島出監督/松竹)、映画『さいはてにて〜やさしい香りと待ちながら〜』(15年/チアン・ショウチョン監督/東映)、映画『朝が来る』(20年/河瀬直美監督/キノフィルムズ)、連続テレビ小説『舞いあがれ!』(22年/NHK)、Amazon プライム『モダンラブ・東京』(22年/黒沢清監督)などの作品に出演、多くの受賞歴がある。

「自宅でのセルフリハーサルでも本番同様、作品を一気に読み上げました」永作博美さん

―――永作さんが朗読された「サファイア」ですが、まるで耳で活字を追っているような新鮮な感覚がありました。性別や世代や性格も異なる登場人物のイメージが、音声からなだらかに広がっていく様子も印象的でした。

「朗読のレコーディングは、ディレクターの方とディスカッションをしながら作業したのですが、たとえば“今の、ちょっとお父さんっぽくないな”とか、“少し若さが足りないかも”などという場面でサジェスチョンをいただき対応しました。女性が2人で会話しているシーンも難しかったですね。読んでいくうちにどうしても2人のキャラクターの差や違いがだんだん薄れていってしまうので、気になる部分はあとで改めて集中して録り直して仕上げました」

―――パズルのピースをひとつひとつ当てはめていくような緻密な作業ですね。

「そうですね。書籍一冊をまるごと読むので、繊細な作業になりました。自分でも“これは気の抜けない仕事だぞ”と心したほどです。Audibleの作品は、聴いているうちにいつの間にか自然と物語の世界に没入できることが望ましいので、そのためには、まずはよどみなく読めること。さらに、言葉が流れるように耳に入ったほうがよい箇所と、いったん止まって少しためが欲しい箇所では、緩急が効果的につくように留意することなどにも注意を払いました。

俳優の永作博美さん
「書籍一冊をまるごと読むのは、繊細な作業。自分でも“これは気の抜けない仕事だぞ”と心したほど」(永作さん)

小説の朗読は以前にも経験があって、事前にすべてを把握することが難しいのは、はっきり分かっていたので、いつも以上に全体の流れをしっかり自分でつかんでおこうと考えたのです。スタジオで録音する段階ではディレクターの方と細部のご相談ができるように、下準備はほぼ自宅で行いました」

―――具体的にはどのように準備されたのでしょう。

「まず最初に書籍を黙読しました。次に声を出して読んで、音声にしたときに気になる文言を録音をしてみて、録った音声をチェックしてみたり。自分の声を自分の耳で聞くって、とても大切なことなんですよね。そもそも小説は“読む文章”にはつくられていませんから、いざ読んでみると、本来の自然な会話のリズムとは異なる部分が気になったりするのです。それを聴く方に心地よいテンポでお届けできるよう、文章の切れめのバランスなども微調整しなくてはなりません。また、実際のレコーディングはひとつの短編を一気に録音しますので、気持ちが途切れないよう集中できるよう、務めていただきましたし、私も空になれるように努めました」

「実は役者ってふだん、あまり情報がない中で自分の芝居を組み立てているんです」永作博美さん

俳優の永作博美さん
書籍を読んでもっていたイメージと、自分の声を出して音読してみたときの印象では、受け取るものが違った(永作さん)

――『サファイア』に収録されている「ムーンストーン」は2016年にドラマ化され、永作さんが主演をされました。時を経て改めて再会した湊作品の印象はいかがでしたか。

「これまで湊かなえさんの作品には個人的に“鋭利な印象”をもっていたんです。描かれる出来事が衝撃的で、少し怖さもあるじゃないですか 。“作品を読むにはけっこう覚悟が必要だぞ”という先入観もありました。

けれども書籍を読んでもっていたイメージと、自分の声を出して音読してみたときの印象では、受け取るものが違ったんです。印象がガラリと変わりました。声を出して物語を追ってみたら、湊さんが綴る作品の優しさをとてもよく感じとることができたのです。言葉ひとつひとつが繊細であたたかく、難しい表現は使われていない。“本当はこの優しさを表現したくて書いていらっしゃるんじゃないか”と思えてきたのです」

――『サファイア』には悲劇的な顛末の作品に加えてカタルシスや光が見える作品も納められているので、聴いてみるのが楽しみです。

「私は役者なので、朗読が結果的にアクティング寄りになる傾向をもっているのですが、『サファイア』に対しても、芝居の色を感じさせたり積極的に抑揚をつけながら世界を形づくってみた部分があります。

実は役者って、ふだん芝居をするときにあまり情報がない状況で演技を組み立てているんです。脚本にはそこまで細かな情報は書かれていないんですよ。でも、小説にはとてもたくさんの情報が盛り込まれている。登場人物が何色の服を着ていて、どんな表情や声で話しをするのかなど、全て説明してあるじゃないですか。 それだけの情報がある中で役を演じることができるという、うれしさや面白み。こんなにもヒントをいっぱいいただけて、状況もよく見えて、匂いまで書いてあったりするのはすごくありがたいと思いながら取り組みました。


黒目がちの瞳をキラリと輝かせながらひとつひとつ言葉を選び丁寧に語ってくださった永作さん。Vol.2でもオーディオブック『サファイア』のさらなる魅力に迫ります。

■オーディブルにて配信中!  湊かなえ・著『サファイア』朗読:永作博美

湊かなえ・著『サファイア』朗読:永作博美
湊かなえ・著『サファイア』朗読:永作博美
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2024年4月25日(木)よりAudibleで配信中。
人間の不思議で切ない出逢いと別れを、己の罪悪と愛と希望を描いた珠玉の物語。表題作他「真珠」「ルビー」「ダイヤモンド」「猫目石」「ムーンストーン」「ガーネット」全七篇。

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問い合わせ先

  • ハウス オブ ロータス 二子玉川店 TEL:03-6431-0917
  • ドゥエドンネ https://duedonne.net/
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