ファッションの流行やマインドの変化と密接に関係する下着の歴史。「下着の歴史は女性の歴史」と語るランジェリーライターの川原さんが、4回にわたり下着の歴史を紹介しながら、その変容の行方を探ります。

第三回は、皆がひとつの流行にいっせいにのる時代は終わり、ファッションもライフスタイルも、そして下着も多様化した2000年代を振り返ります。

物質的な豊かさより、心の豊かさを大切に。アメリカ同時多発テロ事件後に変化した、人々の欲求

21世紀となったお祝いムードも束の間、人々の心を大きく揺さぶり、それまでの人生観や価値観を大きく変えるきっかけとなったのが、2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件。その後、人々は物質的な豊かさより心の豊かさを求めるようになり、家族やパートナーと共に過ごす時間を大切にし、その時間にお金をかける傾向が強くなりました。

日本のファッションの世界ではお嬢様的なフェミニンスタイルが支持され、「モテ系〜」「愛され〜」などの言葉が飛び交うように。雑誌『CanCam』のエビちゃん(蛯原友里)やもえちゃん(押切もえ)が大人気となったのも2003年ごろです。

エビちゃん・モエちゃん
エビちゃんともえちゃんは、当時のOLのカリスマ的存在に。

段差ケア、防寒、エイジングケア…。夢だけでなく、下着に機能性を求める時代へと突入

■2003年:背中の段差をなくしてフラットに。ワコール「NAMI・NAMI」発売

海外のランジェリーでは「セカンドスキン」という言葉が流行し、肌と同化するようなパウダーカラーや薄い生地が人気となるなか、2003年に日本で誕生したのがワコールの「Tシャツブラ NAMI・NAMI」。ボンディング(圧着)加工した生地を使用した画期的な商品で、背中のベルトにテープやゴムを使わず、波型にカットしたため、段差ができずフラット。ボディーと一体化するようなブラジャーでした。

2003年には、バストに貼り付けて使う「ヌーブラ」も発売されて話題に。フェミニンスタイルが支持される一方、当時は海外アーティストを参考にしたセクシーで露出度も高いカッコイイファッションも人気で、「ヌーブラ」が大活躍しました。

「NAMI・NAMI」
ワコールから2003年に発売された「Tシャツブラ NAMI・NAMI」。女性達の意識をバストだけでなく背中にも向けました。(C) Wacoal

■2003年:あったか肌着の代名詞となるユニクロ「ヒートテック」発売

ブラジャーではありませんが、2003年は今に続くエポックメイキングな下着が発売されます。それがユニクロの「ヒートテック」です。その後、「ヒートテック」はあったか肌着の代名詞的存在に。当時、すでに各下着メーカーからババシャツ、腹巻、毛パンといった数々の防寒アイテムが販売されており、それらが若い女性の間に広がりました。2005年には環境省の呼びかけでウォームビズがスタートしたこともあり、おしゃれな防寒アイテムは生活に定着しました。

「ヒートテックUネックT」
2003年にメンズ、2004年にウイメンズが誕生し、今では世界での累計販売枚数10億枚を突破したユニクロの「ヒートテック」。写真は今冬に発売された「ヒートテックUネックT」。(C) Uniqlo

■2008年:ユニクロからブラトップ発売、これ1枚でOKの快適さが浸透

もう一つ、ユニクロが浸透させた下着といえるのが、2008年に発売されたブラトップです。ブラカップ付きのキャミソールはそれまでもありましたが、有名タレントを起用した広告やお手頃な価格で、ブラトップ=ユニクロと認識され一気に広まります。これを機に、オンタイムでもブラジャーをつけないという新たな下着文化が始まったといえるでしょう。

「エアリズム シームレスVネックブラキャミソール」
2008年に発売されたブラトップ。その楽なつけ心地が話題となり人気商品に。写真は現在発売されている商品。エアリズムシームレスVネックブラキャミソール ¥1,990(税抜)

■2009年:「ラブ、エイジング。」を提案するワコール「胸もと年齢マイナス5歳をめざすブラ」発売

2006年にはユーキャン新語・流行語大賞に「アンチエイジング」という言葉がノミネートされ、それをうたう化粧品や美容法が人気となりました。人口の多い団塊ジュニアが30代後半に差し掛かり、消費欲旺盛なバブル世代が40代となり、年齢を意識し出したことも関係しているのかもしれません。

そして2009年には、とてもキャッチーなネーミングのブラジャー「胸もと年齢マイナス5歳をめざすブラ」が発売されます。

「胸もと年齢マイナス5歳をめざすブラ」
ワコールのキャンペーンスローガン「ラブ、エイジング。」を代表する商品となった2009年発売の「胸もと年齢マイナス5歳をめざすブラ」。 (C) Wacoal

これは40代の女性をターゲットにした商品ですが、決して若づくりを推奨するものではなく、「20代では出せない40代の美しさをめざす」ことを提唱したもの。ポスターにも記されている「ラブ、エイジング。」は当時のワコールのキャンペーンスローガンで、「年齢を重ねたからだにあったブラジャーを選ぶこと」そして「今の私のからだを愛すること」を提案するメッセージ。年齢を重ねることにアンチ(対抗)するのではなく、そのときの美しさを引き出すというコンセプトは心に響き、それは今の「ボディポジティブ」の流れにつながります。

2000年代は、1990年代の谷間メイクブラのように、時代を代表する商品群は生まれませんでしたが、それぞれに機能やデザインに個性があるアイテムが充実していました。それは、ライフスタイルやファッションに個性が発揮されるようになった時代を反映しているようです。

次回は、ブラジャーの選択肢がさらに広がった2010年代を振り返ります。

【参考文献】

・『30 YEARS NBF 〜ボディファッション市場の変遷〜』社団法人 日本ボディファッション協会
・『PEACH JOHN』2017 Spring vol.100
・『繊研新聞』2015年11月2日号

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この記事の執筆者
文化服装学院卒業後、流通業界で販売促進、広報、店舗開発を約10年経験した後、フリーランスとして独立。下着通販カタログの商品企画などを経て、現在はランジェリーを中心に、雑誌、新聞、ウェブサイトなどで執筆・編集を行なう。モットーは「ラグジュアリーからプチプラまで」。国内外の展示会・店舗を幅広く取材する。
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WRITING :
川原好恵
EDIT :
石原あや乃