結婚式も葬式も1着で済ませてきたのが、悲しいかな日本のフォーマルウエア文化。冠婚葬祭用のブラックスーツの、ネクタイの色を変えるだけで対応していた時代もあった。いくらなんでもそればどうなの? ということで、最近はようやく着分けが定着してきたが、次に問われるのはそのフォーマルウエアのクオリティ。一生着続けられるフォーマルウエアとなると、世界的に評価の定まった、一流ブランドの名品から選ぶのは当然だ。ここでは最低限、どれか1着は押さえておきたい、名門のフォーマルウエアを8ブランド紹介する。
礼装のなかでも、特に活躍の場の多いタキシード。大人の男にとって、礼儀を表すのはもちろん、ダンディな装いを決めるのはイブニングのフォーマルだ。名門ブランドの既製とパターンオーダーから厳選したタキシードをここに集結させた。
Brioni ブリオーニ
極上の仕立て技が生きる厳粛かつ気品ある礼服
世界最高峰のスーツを仕立てるブリオーニにとって、フォーマルウエアは特別な存在。幾度となく映画『007』に登場したタキシードは、同ブランドの服づくりの英知と品格を伝える極上の礼服である。フォーマルウエア本来の伝統的なスタイルは、重厚感のあるシルエットながらも、巧みな手縫いや裁断技術によって、やわらかな着心地を実現する。
タキシードは、フルオーダーと既製の両方で対応。既製のタキシードのデザインは、ピークドラペルのシングルとダブル、そしてショールカラーのシングル、計3タイプを常時そろえる充実ぶり。生地は、礼服の王道といえるコシのあるウールを使用。軽い素材が好みであれば、オーダーで対応が可能だ。創業当初から展開し始めたブリオーニのタキシードは、エレガントな男を演出してくれる。
Kiton キートン
フォーマルウエアでさえも色気際立つナポリの逸品
シンプルなスタイルにこだわるのがキートンのフォーマルウエアの哲学。写真のタキシードのコーディネートでは、本来スタッズボタンのドレスシャツを着用するところを、黒蝶貝のボタンをデザインしたシャツを合わせ、シンプルな礼装を表現。これがキートンのタキシードスタイルの真骨頂である。
タキシードはフルオーダー、パターンオーダー、既製品とも対応可能。既製のタキシードについては、ピークドラペルのシングルとダブル、ショールカラーのシングルの計3タイプが常時そろう。キートンの人気スーツモデルの『KB』と『AD』がタキシードのベースになっているため、着心地のよさは抜群だ。生地は、なんとスーパー180sの極薄ウールを使用。どのタキシードも、やわらかな仕立ての、ツヤのあるスタイルだ。
Ralph Lauren ラルフローレン
アメリカ上流社会の品格、ダンディな大人の礼装
英国の服飾文化を咀嚼し、上流階級の気品を築き上げるラルフ ローレン。1970年代の映画『華麗なるギャツビー』に代表されるように、エレガンス極まる洒落者のスタイルを提案してきた。「ラルフ ローレン表参道」では、『パープル レーベル』のほか、『ブラックレーベル』『ポロ』の計3ライン、すべてのタキシードのオーダーを常時受け付けるという、うれしい対応。なんでも、同ブランドが展開する最高峰の『パープル レーベル』では、ピークドラペルのシングルとダブルの2タイプの既製のタキシードを常時用意する。生地は、タキシード用のコシのあるウールを使う。伝統的な仕立て技術を使った、モダンでエレガントなタキシード。フォーマルウエアでも、究極のラグジュアリーを体現できるのが、ラルフ ローレンの実力だ。
Tom Ford トム フォード
礼装をモダンに解釈する天才デザイナーの実力
メンズファッションに革命を起こしたトム フォード。本場、英国のサヴィル・ロウの仕立て技術とスタイルを研究し尽くし、男のスタイルの核となるスーツをモダンにつくりあげた。
フォーマルウエアにもその感性が息づいており、毎シーズン発表されるコレクションには、必ずといっていいほどタキシードがラインナップされている。ピークドラペルのシングルとダブル、ショールカラーのシングルとダブルをそろえるほか、映画『007 スカイフォール』でジェームズ・ボンドが着用したのと同じデザインのタキシードも用意されている。
よりパーソナルなタキシードは、オーダーメイドで対応。オーダーでは、フォーマルシャツの注文も可能だ。トム フォードは、メンズブランドのなかでも、飛び抜けてタキシードが充実している。
Ermenegildo Zegna エルメネジルド ゼニア
100年を超える伝統を生かした、礼服の真髄
イタリア随一のメンズブランド、エルメネジルド ゼニアがフォーマルウエアで大切にしていることは、「着心地を追求した、ベーシックなデザイン」。まさに、同ブランドの服づくりの根幹であり、スーツやジャケットのように、タキシードにも一貫している。
既製で展開しているタキシードは、ピークドラペルのシングル1ボタンと2ボタンがあり、それぞれのモデルに合わせた生地を使用。パターンオーダーでは、ショールカラーやノッチドラペルのデザインにも対応している。シングルでは1~3ボタン、ダブルでは4、6ボタンから、より自分に合ったフォーマルスタイルを選択できる。
エルメネジルド ゼニアのタキシードは、決して奇をてらったデザインではなく、洗練された男らしさを表現する。
Dunhill ダンヒル
厳粛な英国フォーマルをスマートに形づくる名門
ダンヒルのタキシードは、英国発祥のフォーマルウエアを踏襲する。フォーマルである限り、デザインを大きく変えず、時代を超えたスタイルを生かす。タキシードの時代性をフィッティングで表現するのがダンヒル流だ。
フォーマルの国のブランドだけに、タキシードは、常時フルオーダー、パターンオーダー、既製品と最大級の取り扱い。既製のタキシードに関しては、ピークドラペルのシングル1ボタンと2ボタンの2種類。生地は、前者にモヘア&ウール混、後者にウールを使用。タキシードのシルエットを決める、2種類のフィッティングも用意する。そのひとつが、写真のタキシードの、ややゆったりとした『セントジェームス』というモデルである。ダンヒルは、伝統的なタキシードを繊細に進化させている。
Lanvin ランバン
まさにパリのエスプリ華やかに見せる大人の礼装
男らしく威厳のあるフォーマルスタイルでも、しなやかな雰囲気のランバン。レディースから展開し始めたオートクチュール・ブランドというだけでなく、パリ特有のエレガンスが宿る。
タキシードは、パターンオーダーか既製での展開で、既製のタキシードは、ピークドラペルのシングル、ショールカラーのシングルのふたつのデザイン。人気のピークドラペルは、2種類のフィッティングを用意する。生地は、ウールのみだが、黒地のほかにネイビーをそろえているのが、ランバン一流の美意識を感じさせる。既製のタキシードでは、ジャケットのすそを流れるようなカッタウェーにし、丸みのあるラインを魅力的につくる。厳格なスタイルが主流となるフォーマルウエアのなかで、ランバンのタキシードは、異彩を放っている。
Isaia イザイア
フォーマルも楽しくなる南イタリアの軽快な仕立て
厳格、静粛、重厚といったイメージのフォーマルウエアにあって、着ていることを楽しくさせるのがイザイアのタキシード。しかし、タキシードのデザインはあくまでも正統派だ。
イザイアのタキシードは、すべてパターンオーダーのみの展開。デザインは、ピークドラペルのシングルとダブル、ショールカラーのシングル、ラペルにパイピングを配した、パーティに最適なノッチドラペルのシングルなど、豊富にそろえている。タキシードのベースになるのが、モデル『グレゴリー』。シャープなシルエットが魅力のイザイアで最も人気のモデルだ。オーダーなので、フィッティングを追求し、より凜々しいタキシードスタイルを楽しみたい。軽快な着用感を味わえるイザイアのタキシードは、南イタリア特有の香りも格別だ。
圧倒される名門ブランドのフォーマルウエアのクオリティはいかがだったろうか? ここで紹介した8ブランドの特徴を知り、あなたに合った、一生に一着のフォーマルウエアを選んでいただきたい。
※価格はすべて税抜です。※価格は2012年冬号掲載時の情報です。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2012年冬号「必読!フォーマルの強化書」より
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- クレジット :
- 撮影/小池紀行(パイルドライバー) スタイリスト/武内雅英(code) 構成・文/矢部克已