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「あの上司から嫌われているかも」「あの人とはどうもソリが合わない」という苦手な人物が、あなたも職場にひとりやふたり、いるのではないでしょうか? とはいえ上司は、職場でのあなたの評価を左右するキーパーソン。上司が苦手だからといって、避けて通るわけにはいきませんし、ここで対応を誤ると、上司との関係がこじれ、将来の昇進、昇給などにも悪影響を及ぼしかねませんよね。今回は、1,000社以上を訪問し、8,000人を超えるビジネスパーソンと共に仕事をしてきたコンサルタントの安達裕哉さんから、「上司との関係に悩んだときの正しい対応」をうかがいました。

■1:「私、上司に嫌われている!」と勝手に思い込まない

「上司に嫌われているかも」は勘違いであることがほとんど
「上司に嫌われているかも」は勘違いであることがほとんど

上司に対して、うっかり失言してしまったり、仕事のミスで迷惑をかけたりすると、「もしかしたら嫌われてしまったかも」と冷や冷やしますよね。「そういえば、あれ以来、何だか上司の態度が冷たいような……」なんて、いつも以上に上司の顔色をうかがってしまう人も多いはず。しかし、自分が上司から嫌われているかもしれない、と過度に気に病むのは、かえって職場の人間関係をこじらせる元凶となりかねないようです。

「まず、大前提として、部下が上司に対して抱く『ひょっとして私、嫌われているかも……』という懸念は、十中八九は勘違いです。というのも、仕事を多く抱えて忙しい上司であれば、部下のミスや失言をいちいち根に持つほど、暇ではありません。部下のほうが『ひょっとして……』と独りで気に病んでは、上司への態度がぎこちなくなり、上司がそれを不審に思い、ますます関係がおかしくなるという悪循環です。

ですから、もし、『私のあのミス(失言)で、上司を怒らせてしまったのでは?』という心当たりがあれば、思い切って上司に『すみません、実はちょっと気になっていることが……』と、懸念事項を打ち明けてみましょう。おそらく、上司から『えっ、そんなこと気にしていたの!? いや、自分のほうは全然かまわないけど』と拍子抜けするような反応が返ってくることが、ほとんどだと思います。自分から飛び込んでみることで、『そんなことより、僕こそ言いたかったことがあるんだけど』と、上司の意外な本音を聞ける機会にもつながるかもしれません」(安達さん)

上司の不機嫌そうな表情や態度から、「私、嫌われているかも!?」とネガティブなメッセージを読み取るのは、百害あって一利なし。その日はたまたま上司の体調がすぐれなかったり、あなたとは無関係なところで仕事の悩みを抱えていたりするせいかもしれません。勝手に被害妄想をふくらませるのではなく、気になることがあれば、上司と積極的にコミュニケーションをはかるほうが、よほど生産的といえそうです。

■2:苦手な上司との関係改善には親しい人物を間に挟む

上司を取り巻く人間関係に注目する
上司を取り巻く人間関係に注目する

前項では、自分の悩みを思い切って打ち明けることをおすすめしましたが、「ちゃんと話せばわかり合えるはずだ」と、正攻法でぶつかることばかりが得策とは限りません。特に、「あの上司だけはどうも苦手だ」とずっと敬遠していた人物に対して、いきなり腹を割って話すというわけにはいきませんし、無理に距離を詰めれば、相手の目にも不自然に映るおそれもあります。この場合は、どのように対処すればよいのでしょうか?

「苦手な相手とうまくやっていくには、相手と直接関わるよりも、まずはお互いにとって、親しい人物を間に挟むほうが効果的なこともあります。苦手な上司(仮に“A氏”とします)の人間関係をよく観察しましょう。A氏が懇意にしているなかに、あなたが比較的関わりやすい人物はいないでしょうか?

たとえば、自分の同期に、A氏がかわいがっている部下B氏がいるとします。このB氏と仲良くなれば、B氏を介してA氏があなたに抱く印象もよくなり、A氏との関係も自然と改善する可能性が高いです。人間関係に悩んでいるときには、視野が狭くなっていることが少なくありません。苦手人物と仲良くなりたいときには、対象人物ばかりに焦点を絞るのではなく、周辺に目を向けることで、意外と解決策が見つかることがありますよ」(安達さん)

将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、の精神ですね。苦手意識のある人物といきなり仲良くなろうとするのはハードルが高すぎますし、またあえなく撃沈したときのダメージも大。苦手人物の周辺を、まずはターゲットにしましょう。

■3:上司の嫌味や小言には耳を傾ける

上司の言い分にも一理あり
上司の言い分にも一理あり

いつも同じような嫌味や、小言ばかりの上司にはいいかげんウンザリ……。「また、その話か」と思えば、聞く気も失せますよね。しかし、その態度こそが、上司との関係改善を阻んでいるのかもしれません。

「上司が何度も同じようなことを言ってくるということは、その上司なりのロジックがあるはずなのです。そこをきちんと理解して対処しないと、上司から『あいつはまだ全然わかってない!』と思われて、事態は一向に解決に近づきません。ですから、同じお説教を何度も聞きたくなければ、相手の言い分がどんなに荒唐無稽に思えても、『またいつものアレか』と聞き流すのではなく、まずは耳を傾けて、相手がなぜそんなことを言うのか、本当はどうしてほしいのか、上司の立場から考えてみることをおすすめします。

先ほどの話でも出てきましたが、人間関係の悩みを解決するには、視野を広げることが大事です。自分視点からだけ物事をとらえるのではなく、上司の目線に立てば、相手の言い分にまったく利がないわけでもない、という何らかの気づきがあります。そのように、相手の意図や要求が少しずつわかってくれば、ただその場をやり過ごすという以外に、いろいろ行動の選択肢が広がり、“いつも同じような嫌味や小言を言われる”という、厄介な状況を打開できるのではないでしょうか」(安達さん)

自分にとって尊敬できない上司からのお説教は受け入れがたいものですが、ただ聞いているふりをするだけでは堂々巡りです。上司の発言を「くだらない」と思えばこそ、そんなお説教に時間や気力を削がれないためにも、敢えて“上司の立場から考える”のが得策かもしれませんね。

■4:会社以外にあの居場所を確保する

「会社人間」ほど問題をこじらせやすい
「会社人間」ほど問題をこじらせやすい

上司との関係について夜も眠れない、食事も喉を通らないほど、深刻な悩みを抱えていませんか? そんなふうに悩んでしまうのは、自分にとって職場の存在価値が大きすぎることも、一因であるようです。

「仕事一筋の会社人間ほど、職場の人間関係の悩みをこじらせてしまう傾向があります。というのも、『この会社にしか自分の居場所がない』『会社を辞めると生活をやっていけない』と、心の余裕がなくなれば、視野が狭くなって解決のヒントを得にくいからです。経済的にも精神的にも会社に依存している人は、『自分が会社で生き残るには、嫌いな上司ともうまくやっていかなければ』というプレッシャーを感じながら人付き合いをします。こうしたネガティブな姿勢では、嫌いな上司のマイナス面ばかりが目につき、それでもうまくやっていかなければと、ますます自分を追い込み……という負のループに陥りがちです。

他方、会社に依存しないタイプの人は、職場の人間関係で少々いざこざがあっても、『別に嫌われてもいい』という開き直りから深刻に悩みませんし、職場外に気軽に相談できる相手がいることも、少なくありません。もちろん、副業を禁じている会社もあるので、経済的に会社に依存しないのはなかなか難しい面もあるかと思いますが、『この会社が自分のすべて』という発想は、その会社でうまくやっていくうえで、かえって足かせになりやすいです。職場の人間関係の悩みに押しつぶされないためには、会社だけに自分の存在意義を見出すのではなく、せめて精神的には、会社以外での居場所を確保しておくことをおすすめします」(安達さん)

会社に対する思い入れが強いほど、職場での人間関係につまずきやすい、というのは皮肉ながら納得できる話ですよね。職場の人間関係に悩んだら、「何とかしなければ」と解決を焦るのではなく、敢えて、仕事以外の楽しみを見つけるほうが、解決の近道かもしれません。

■5:生理的に合わないならその場を離れるという判断基準をもっておく

どうしても合わない上司もいる
どうしても合わない上司もいる

ここまで、職場の苦手な上司とも何とかうまくやっていう方法をお伝えしましたが、「生理的に無理!」なレベルの上司であれば、無理に合わせようとせず、転職を視野に入れるのも一考だと安達さんは主張します。

「『生理的に無理!』とはどういうことかというと、仕事とは無関係なことでその上司を許せない、嫌悪してしまうという状態を指します。たとえば、上司が職場外で不倫していることを知り、その上司の下で働くのが苦痛になってしまった、というような場合です。職場内ならばともかく、職場外での不倫であれば、完全に個人の領域の問題だといえます。それを『仕事の成果とプライベートは無関係』とまったく気にしないか、『いや、そんな上司は最低!』と嫌悪感を抱くかは、人それぞれの価値観なので、折り合いがつきません。

上司に対して生理的に無理だと感じた場合、大規模の会社であれば、異動もあるのでちょっと我慢すれば済む話ですが、小規模の職場だとその上司とはずっと縁が切れず、かなり悲惨です。仕事の進め方で納得できない、気に入らないというのであれば、まだ対処のしようがありますが、『生理的に無理!』は致命的な問題なので、自分がその場を離れることが、自分にとっても会社にとってもプラスだと思います。

それに、『どんな上司ともうまくやっていかなければならない』と自分を追い込むのではなく、『上司が生理的に合わない場合は、もう会社を辞めたほうがいい』というひとつの判断基準をもっておくことは、心の余裕を持つことにもつながるでしょう」(安達さん)

ちょっと上司と合わないからといって、仕事を投げ出して職場を転々とするわけにはいきませんが、我慢にも限界があります。「この上司のもとで働くのが辛い」と感じたとき、その原因が仕事上のものなのか、人格に関わる問題なのか、冷静に見極めましょう。

上司との人間関係は、職場の最大の悩みといっても過言ではありません。上司との関係を改善し、仕事のパフォーマンスを上げるためにも、今回の正しい対応を心得て、この機会にぜひ改善しましょう。

安達裕哉さん
コンサルタント
(あだち ゆうや)1975年東京都生まれ。筑波大学環境科学研究科修了。世界4大会計事務所の1つである、Deloitteに入社し、12年間コンサルティングに従事。在職中、社内ベンチャーであるトーマツイノベーション株式会社の立ち上げに参画し、東京支社長、大阪支社長を歴任。その後、起業して、仕事、マネジメントに関するメディア「Books&Apps」を運営する一方で、企業の現場でコンサルティング活動を行う。最新刊は『すぐ「決めつける」バカ、まず「受けとめる」知的な人』。
この記事の執筆者
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WRITING :
中田綾美
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