「五月蠅い」は「うるさい」の当て字です。蠅は「ハエ」。「うるさい」に、なぜこの漢字が使われることになったのか、ご存じですか? 今回は「五月蠅い」を深掘り! その意味と由来、「煩い」との違いや言い換え表現など、大人として押さえておきたい言葉の知識を解説します。

【目次】

五月蠅いとは?蠅(ハエ)がうるさいのはわかりますが、なぜ五月?
蠅がうるさいのはわかりますが、なぜ五月?

【「五月蠅い」「読み方」「意味」など「基礎知識」】

■読み方

「五月蠅い」は「うるさ-い」と読みます。

■意味

『デジタル大辞泉』で「五月蠅い」を検索してみましょう。

1)物音が大きすぎて耳障りである。やかましい。
2)注文や主張や批評などが多すぎてわずらわしく感じられる。細かくて、口やかましい。
3)どこまでも付きまとって、邪魔でわずらわしい。また、ものがたくさんありすぎて不愉快なさまにも言う。しつこい。
4) イヤになるほどにすぐれている。
5)イヤになるほどに、こまごまと行き届いている。
6) 技芸が優れている。

現在では主に1〜3の意味で使われていますが、古くは「行き届いて完璧である様子」を「煩わしく感じる(嫌になる)」意味合いと、「素晴らしい」と評価する意味の両面を「うるさい」で表現していました。現在でも「彼はワインにうるさい」などと使われますが、前後の文章や状況次第で、ほめ言葉にもけなし言葉にも受け取れますね。

■由来

「うるさい」の語源は、「心」や「内面」を意味する「うら」が「うる」に変化し、形容詞の「さし」がついて、「うるさし」→「うるさい」になったといわれています。形容詞「さし」は「狭し」と記し、「狭い」という意味です。

では「五月蠅」という漢字は何に由来しているのでしょう。ご存じの通り、蠅の活動期は夏。陰暦の5月ごろにあたります。古くは、この時期に群がり騒ぐ蠅を「五月蝿(さばえ)」と言いました(後世は「さわえ」とも)。「サ」は「五月(さつき)」や「五月雨(さみだれ)」の「サ」と同じで、五月を意味します。「五月蝿」は『日本書紀』にも記載がある古い言葉で「暴れて騒ぐこと」も意味しますが、一説によると、明治期に「うるさい」の当て字として使われ、一般に広がったといわれています。


【「煩い」との「違い」は?】

「うるさい」は「煩い」とも表記しますね。このふたつに、違いはあるのでしょうか。

■「煩」とは

「煩」の音読みは「ハン・ボン」、訓読みは「わずら-う」「わずら-わす」。「煩」の文字は「熱があって頭痛がする」を表し、「うるさい。面倒な。煩雑」といった意味のほか、「病気」「苦しむ」などの意味をもちます。

■「五月蠅い」と「煩い」はどう違う?

『日本国語大辞典』や『デジタル大辞泉』の「うるさい」の項には、「煩い/五月蠅い」と併記されています。このふたつの使い方に区別はなく、同じ意味で用いられています。ただし、実際に使用されているニュアンスとしては、「煩い」は「面倒だ」という意味合いが強く、「五月蝿い」のように「物音が大きすぎて耳障りである。やかましい」という意味合いではあまり使用されません。両者の使い分けのポイントとして、覚えておくと便利です。


【「使い方」がわかる「例文」6選】

■1:「会議室から聞こえてくる声が五月蠅くて仕事にならない」

■2:「彼はグルメとして知られ、ワインにもなかなか五月蠅い」

■3:「払っても払っても、ハエが五月蠅く付きまとってくる」

■4:「この写真、人物の表情はすごくいいけれど、バックが少し五月蠅くない?」

■5:「いい加減、五月蠅くつきまとってくるのはやめてもらえますか」

■6:「親切心からとはわかっていて、部長の小言が五月蠅くてたまらない」

例文を読んで、「五月蠅い」は「うるさい」と「平仮名表記のほうがすっきり見えるし適切なのでは?」と感じる方は多いかもしれませんね!


【「類語」「言い換え」表現】

・喧(やかま)しい

「ブルドーザーの音がうるさい(やかましい)」のように、不快に感じる声・物音・騒音などについては、「五月蠅い」と「やかましい」のどちらも用いられます。ただし、「蚊のブーンという羽音がうるさい」など、「必ずしも大きな音ではないが、わずらわしく感じられるとき」は「うるさい」が用いられます。また、「親がうるさい(やかましい)」「味にうるさい(やかましい)」「時間にうるさい(やかましい)」など、どちらも「あれこれ言う」の意味では共通していますが、「やかましい」のほうが「がみがみ言う度合いが強い」ニュアンスです。

・騒々(そうぞう)しい
・騒(さわ)がしい

「騒々しい」「騒がしい」は、客観的な形容に用いられることが多く、世の中などが不安定で落ち着かないといった意味もあります。また、「人の声」について言う場合、「うるさい」「やかましい」は、ひとりの声についても用いられますが、「騒々しい」「騒がしい」は、複数の人の声について使用するのが普通です。

・煩わしい

「煩わしい」は、事柄が込み入っていて、解決するのに手間がかかりそうな状態を指します。

・邪魔

・しつこい

・不快

・面倒臭い

・厄介

面倒で手がかかることを意味します。

・詳しい

「ワインにうるさい」「ワインに詳しい」では、同じ意味を表していても、だいぶ印象は違いますね。


【「英語」で言うと?​】

「音がやかましい」ことを表す英単語は[noisy]あるいは[loud]です。「わずらわしい」ならば[troublesome]。「ワインにうるさい」といったニュアンスならば[particular]。このように「五月蠅い」はその意味合いでいくつかの単語を使い分ける必要があります。

・The TV is too noisy.(テレビの音がうるさい)

・a troublesome child(手のかかる子ども)

・John is so hard to please.(ジョンは好みがうるさい)

・She is particular in her tastes.(彼女は味にうるさい)

***

「ハエ」を表す文字として、「蠅」のほかに「蝿」を見たことはありませんか? 「蝿」は「蠅」の「異体字」とされています。「異体字」の明確な定義は難しいのですが、「標準的な字体とは異なるが、意味・発音が同じで一般に通用する漢字」を言います。「ハエ」の場合、正式(標準的)な表記は「蠅」のほうです。ですから、「五月蝿い」と書いても間違いとは言えませんが、標準的な表記は「五月蠅い」です。「うるさい」と、平仮名で書かれることが多い言葉ですが、“大人の語彙力”として、語源と由来を知り、読めるようにしておきたいですね。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『プログレッシブ和英中辞典』(小学館) /『新選漢和辞典Web版』(小学館) /『角川類語新辞典』(角川書店) /『すぐに使える! 教養の「語彙力」3240」(西東社) :