リネン独自のシワさえ風合い豊かな味となり、上品に映える
年齢を重ねてよかったと思えることのひとつ。それは食においてもお洒落においても、素材のよしあしを見極められるようになったことだ。そんな自分にとって、あたかも極上の素うどんのような存在が、マーガレット・ハウエルのリネンシャツである。決して派手さはないが、とにかく生地がいい。その上質さは1日に3回実感できる。朝、そでを通した瞬間のひんやりとした感触。夕方、灼熱の日中を過ごしたシャツにどっぷりと刻まれた美しいシワ。夜、アイロンをかけたときの心地よい滑り……。それは着るものの心を鎮めるリネンという生地の、まさに本質的な魅力を表現している。
近年、そんな名品リネンシャツの仲間にTシャツが加わった。デザインこそ究極に寡黙だが、すそをパンツにタックインして着ると、リネン特有のシワがドレープとなり、たまらなく豊かな表情が描かれる。そのささやかながら滋味深い充足感は、さながら美味い素うどんを平らげた瞬間と同種のものだ。この幸せ、若造にはわかるまい。
- TEXT :
- 山下英介 MEN'S Preciousファッションディレクター
- BY :
- MEN'S Precious2016年夏号「麻」名品の猛き風格より
- クレジット :
- 撮影/戸田嘉昭・小池紀行(パイルドライバー/静物) スタイリスト/石川英治(tablerockstudio) 文/山下英介(本誌)