昭和30年代まで、日本のビジネスマンの間では、スーツ(背広)はあつらえるのが当たり前だった。全国津々浦々の町にはテーラーがあり、顧客の注文を取って、ハンドメイドで仕上げていた。吊るし、と呼ばれた既製服が一段低く見られていた時代である。
翻って現代。デザイナーの創造力や、それぞれの既製服ブランドの考え方などが加味されて、既製服は注文服と同様の地位を得るに至った。背景には、服作りの省力化=工業化という技術革新もあった。
いっぽう、注文服の世界では、既製服にない魅力をより追求することとなる。顧客にジャストフィットする丁寧な採寸。何年たっても修理をきちんと行う態勢つくりなどがそれだ。
一般に、注文服の初期投資額は既製服のそれより高額なことが多いが、長く着られる注文服のほうが結果的にコスパが良くなるのは道理なのである。
古典的技術と現代のスタイルが融合したイギリスのスーツ!
2016年、エリザベス女王陛下の90歳を記念し、英国の伝統的なクラフツマンシップを保護する、クイーン・エリザベス・スカラシップ・トラスト(QEST)が誕生した。同じ頃、自国ブランドの矜持を叫んだのは、ジェレミー・ハケット氏だった。職人気質のこだわりの仕事を見つめ直す思いは、ハケット ロンドンの最高峰となるオーダーメイドスーツに込められた。
数少なくなった英国有数の縫製工場で生産するフルキャンバス仕様のオーダースーツは、ハンドの工程が充実した職人技が光る。肩のラインを整えた構築的なスタイルは、伝統的でエレガントだが、もうひとつの利点は、職人の手を通して修繕しながら、長い間着られることにある。
ハケット氏曰く、「ジェントルマンには時代に影響されることなく、信念を貫いたスタイルがある」。現代のジェントルマン・スタイルそのものを生み出しているのが、このスーツである。
英国の本店同様、瀟洒な室内デザインを採用したアジア最大規模の旗艦店「ハケット ロンドン 銀座」では英国にわざわざ行かなくても、銀座で本流のスーツを手に入れることが可能だ。店内2階奥には、パターンオーダー専用のスペースを設けていて、そこでオーダーすることができる。この機会にあつらえてみてはいかがだろうか。
●オーダー方法
事前のアポイント→スタイルを決定→英国製の上質なファブリックや付属を選択→採寸→約半年後に完成。
問い合わせ先
- ハケット ロンドン 銀座店 (TEL:03-6264-5362)
- TEXT :
- 矢部克已 エグゼクティブファッションエディター
- BY :
- MEN’S Precious2016年秋号 紳士の心を昂ぶらせる「英国名品」のすべてより
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- クレジット :
- 撮影/戸田嘉昭・唐澤光也・小池紀撮影/戸田嘉昭・唐澤光也・小池紀行(パイルドライバー/静物) スタイリスト/武内雅英(code) 文/矢部克已(パイルドライバー) スタイリスト/武内雅英(code) レイアウト/矢部克巳(UFFIZI MEDIA) 構成/兼信実加子、山下英介(本誌)