Nancy Pelosi(ナンシー・ペロシ)。民主党の議員。アメリカ合衆国初の女性下院議長であり、イタリア系アメリカ人としても、初めての下院議長を務めた。

下院議員として11回当選を果たした大ベテランのナンシーだが、人気の秘密は、パワフルな行動力にある。最も、知られているのは、ドナルド・トランプ大統領の移民排除政策に対して、とことん「NO」の姿勢を貫くところだ。

10センチヒールで8時間演説した、政界のファッションアイコン「ナンシー・ペロシ」下院議長って?

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クリーンな白いテーラードのパンツスーツに身を包んだナンシー

昨年2月の議会では、アメリカ議会始まって以来という、演説の最長記録を打ち立てた。

演説は、何と前代未聞の8時間7分という長さ。午前10時過ぎに始めた演説は午後6時過ぎまで続き、演台の前で水しか口にせず、話して話して話まくったのである。しかも10センチのハイヒールを履いて。

それだけでも、同じ女性としてお見事、脱帽せざるを得ないパワフルさだ。内容は子供の頃両親に連れられて、不法入国する形でアメリカに来た移民の若者たち、いわゆるドリーマー(Dreamers)たちの国外撤去を回避する目的での、予算合意に反対する演説であった。

この日に着ていた白いテーラードのパンツスーツは、女性の参政権のシンボルカラーとして知られ、ヒラリー・クリントンが大統領候補を受諾したときなど、重要なタイミングで身に付けられることが多い。

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いつでもヒール姿で颯爽と現れる姿は、多くの女性の憧れに

トランプ米大統領の一般教書演説でソーシャルメディアが注目したのは「ペロシ下院議長の拍手」

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SNSでは、ナンシーの強気な言動が話題沸騰

白のパンツスーツはお気に入りのようで、よく議会風景に登場する。

「#ペロシ拍手」でも話題になった、トランプ大統領の一般教書演説のときも、赤と黒の大振りのネックレスを付けた白のパンツスーツ姿で、皮肉たっぷりに、まるで赤ちゃんに送るような「ゴルフクラップ」を送るナンシーの映像が、SNS上に一気に拡散した。

ファッションアイコンとしても注目される“おしゃれ”な女性議員

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大振りのパールをコーディネートのアクセントに

シンプルな服が多いので、アクセントになるネックレスがアクセサリーではお気に入りだ。

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オールホワイトでまとめてエレガントに

特に、カラフルで大粒のパールはグレーなど抑え気味の服のときに愛用、他にも大粒のゴールドパールや、白いパールなどがあり、ファッション誌は、価格まで調べて紹介するというナンシーのトレードマーク的な存在だ。

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コーディネートに合わせてネックレスを合わせるのが、ナンシー流の仕事スタイル

ファッションで注目される政治家はとても珍しい。批評の対象になることはあれど、肝心の政治に対する姿勢や実績が評価されなければ、装いに対する関心は国民からは湧いてこないのが普通だ。

ところが、ナンシー・ペロシは、果敢な行動や発言が広く支持され、そのときいったいどんな服装で現れたのかなど、ファッションや着こなしも常に注目の的という稀有な政治家なのである。なかでも、ナンシーを一躍ファッションアイコンにも似た存在にしたのが、あの有名な「勝ちに行く時に着るコート」だ。  

SNSで話題沸騰したあの「マックスマーラのコート」

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「勝つ」ために着るナンシーの真っ赤な勝負コート

「#nancycoat」のハッシュタグでソーシャルメディアで騒がれた赤いコート。その鮮やかなカラーから「ファイヤコート」ととも呼ばれるコートはナンシーがここぞというときに愛用するコートである。

2018年12月に開催された下院の過半数奪回後に初めて行われたトランプ大統領との会談では、メキシコとの国境沿いに作る壁の予算をめぐってトランプ大統領と激しい口論になったと報じられた。

だがその後、ホワイトハウスを後にする、サングラスをかけて、赤い膝下丈のコートを羽織ったナンシーの姿は堂々とした余裕を漂わせ、「ボスっぽい」と評判になった。

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ナンシーの着用後、瞬く間にSNSで話題にのぼ理、急遽追加生産されたマックスマーラのファイヤーコート

この会談に出かける時、「負けてはいられないわ」というセリフをとともにこのコートを身につけたという説もある。ナンシー・ペロシにとって験を担ぐにふさわしいコートが、この赤のコートだったのである。

このコート姿が報道されるや否や、映画監督のバリー・ジェンキンス(ムーンライトなど)が、「このコートがどこのコートかわかった人いる? カラーが最高だし、知る必要がある」とツイート。

続くように、コートに関して詳細を知りたがるSNSユーザーが続出したという。この写真に因んで、「素敵なコートを着て苛立っている女性の姿」を投稿するインスタグラムのアカウントまで創設されている。

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日本では、写真左の復刻版のアイボリーカラーのコートが展開中。コート「ファイヤーコート」¥315,000(税抜)

ブランドは、イタリアのマックスマーラであった。2012年の秋冬コレクションで発表されたウールカシミアのコートで、ナンシーは2013年1月のオバマ大統領の就任式でも着用している。まさに「勝つ」にふさわしいコートなのだ。

シンプルで実用的、上質で品の良いコートは、働く女性にとって心強い友人のような存在で、はおれば暖かく包み込んでくれ、見せたくないものが中にあっても隠してくれる。

「ファイヤーコート」はシルエットがシャープで美しく、知的な感じもあり、責任を担い、主導権を握る女性を暗示するかのようである。ナンシーは、下院議長就任などの節目では赤やコバルトブルー、ホットピンクなどカラフルなカラーをよく身につける。

華やかな顔立ちのナンシーをさらに引き立てる「印象効果」の高い用い方や、着こなしがうまい。

女性議員が史上最多となったアメリカ連邦議会では、ナンシーを始め、民主党の女性議員たちが揃って「ホワイト」を身に付け、女性参政権への賛同と純潔ののメッセージを発し、紺やグレーの多い男性議員の中では、際立つ存在となっていた。

ファッションの政治力を積極的に活用する時代になった今、そのリーダーは8年ぶりに下院議長に返り咲いたナンシー・ペロシであろう。1940年生まれ。まだまだ女としての魅力がたっぷりあって、その意味でもお手本にしたい女性ナンバーワンだ。

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この記事の執筆者
1987年、ザ・ウールマーク・カンパニー婦人服ディレクターとしてジャパンウールコレクションをプロデュース。退任後パリ、ミラノ、ロンドン、マドリードなど世界のコレクションを取材開始。朝日、毎日、日経など新聞でコレクション情報を掲載。女性誌にもソーシャライツやブランドストーリーなどを連載。毎シーズン2回開催するコレクショントレンドセミナーは、日本最大の来場者数を誇る。好きなもの:ワンピースドレス、タイトスカート、映画『男と女』のアナーク・エーメ、映画『ワイルドバンチ』のウォーレン・オーツ、村上春樹、須賀敦子、山田詠美、トム・フォード、沢木耕太郎の映画評論、アーネスト・ヘミングウエイの『エデンの園』、フランソワーズ ・サガン、キース・リチャーズ、ミウッチャ・プラダ、シャンパン、ワインは“ジンファンデル”、福島屋、自転車、海沿いの家、犬、パリ、ロンドンのウェイトローズ(スーパー)
PHOTO :
Getty Images
WRITING :
藤岡篤子
EDIT :
石原あや乃