現代の若者は、他人から注意されることに慣れていない、とはよく聞く話ですよね。そんな時代の流れもあって、部下を叱る際にパワハラにならないように気をつけている上司の方は、近年増加傾向にあるようです。
また、男性の上司の場合、女性の部下に対して、自分では褒めたつもりがセクハラと言われてしまうケースも……。このように、若手の部下との接し方に悩んでいる上司の方は、少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
『部下を動かす! 超一流の伝え方・三流の伝え方』の著者でキャリアコンサルタントの大岩俊之さんは、部下の叱り方に関して、まず「怒る」と「叱る」の違いを理解しておくことが必要だと言います。
そもそも「怒る」とは、感情的に自分の腹立ちをぶつけること。一方の「叱る」とは、相手に改善してもらえるように注意やアドバイスをすることです。
以下では、一流の上司なら絶対にやらない、よくない褒め方と叱り方を紹介します。もしあなたが、部下がミスをしたときにいつも怒ってしまっていたなら、これからは叱ってあげてください。
それから叱ったあとに限らず、よくできたときはしっかり褒めてあげることもお忘れなく。
デキる上司なら絶対やらない、ダメな褒め方&叱り方5選
■1:感情的にダラダラ怒るのはNG
怒ると叱るの違いは、先述のとおりです。いくら部下がミスをしたり、トラブルを起こしたりしたからといって、怒りに任せて自分のイライラをぶつけてしまうのは当然NG。相手(部下)によくなってもらいたい、改善してほしいという気持ちがなければ、叱ることはできません。
とはいえ、人間なら誰しも怒りがこみ上げてくる場面はありますよね。そんなときの対処法として、大岩さんがおすすめするのは「怒りをこらえて、6秒待つ」こと。
「人の怒りのピークは、最大6秒だと言われています。6秒待てばイライラが収まるので、冷静に叱ることができるようになるでしょう。
怒ってしまうと、相手は必ず反発します。仮に反論してこなくても、相手の心の中には怒りがこみ上げているため、いくら注意やアドバイスをしても伝わりません。だからこそ、一流の上司は決して怒らず、冷静に相手を叱ります」(大岩さん)
部下を叱る際に、相手の過去の失敗や悪かったところを引き合いに出して、ネチネチと責めるのもいけません。たったいま起こった事実だけを指摘するようにしましょう。
■2:信頼関係を築けていない相手を叱るのはNG
上司が部下を叱るのは、相手のためを思ってのこと。ですが、大岩さんによると「一流の上司は、叱る相手を信頼関係のある人に絞っている」のだとか。
「まだ信頼関係のない部下を叱ると、相手は叱られたことを悪く解釈してしまう可能性があるので、注意しましょう。『なんで自分が叱られなきゃいけないの?』『やってられない!』などと感じてしまうのです。
反対に、信頼関係のある部下であれば、そのときは落ち込んだとしても、叱られたことに意味があることがわかり、『これから頑張ろう』と前向きになることができます。
部下との信頼関係を築くときに要注意なのは、無理やり飲みに誘うこと。なぜなら、現代の若手は、『飲み会で、職場の人に気を遣いたくない』『仕事以外の時間は自由に使いたい』と感じている人も多いからです」(大岩さん)
部下を叱るのは、それだけの信頼関係を築いてから。まずは、話しかける回数を増やす、一対一のミーティングの機会を設けるなど、日々の何気ないコミュニケーションから始めてみてください。
■3:部下本人を直接褒めるだけなのはNG
部下がうまく仕事をこなせたり、よい結果を出したりしたとき、きちんと褒めてあげていますか? このとき、本人を直接褒めるのもよいのですが、他人によい噂を流し、間接的にも褒めてあげると、より効果的です。
「部下を褒める場合、相手を直接褒めるのが普通。ただ、この方法だと部下は1回褒められただけで終わってしまいます。さらに褒めて部下をいい気分にさせてあげるには、他人によい噂を流しましょう。
1つ目の方法は、誰かに会うたびに『○○さん(部下)、素晴らしいよね』などと言い続けること。すると、これを聞いた人のなかの誰かが、褒めたい部下本人に『○○課長が褒めていたよ』と話をしてくれます。他人を通じて褒められれば、部下本人はうれしいはずです。
2つ目の方法は、多くの人が集まる場所で表彰すること。部下本人が褒められていることを多くの人に知ってもらうには、人前で褒めるのがいちばん。本人は恥ずかしいながらも、きっと気分がいいでしょう」(大岩さん)
悪い噂は勝手に広がりますが、よい噂は意識して流さなければ、なかなか広がりません。それだけに、よい噂には価値があるのですね。
■4:能力や才能を褒めてしまうのはNG
自分が一生懸命努力したことを、誰かに褒めてもらえるとうれしいですよね。それは、そこに至るまでの苦労があったからこそ。部下を褒めるときも同じで、能力や才能よりも、日々の努力や過程を褒めてあげるのが◎。
「仕事は、誰かに勝つためにやるわけではないので、部下の能力や才能ではなく、努力やその過程を褒めてあげてください。そうすることで、部下に新たな挑戦意欲が湧きます。
褒めるときは、簡単でいいので、ひと言声をかけてあげましょう。例えば、上司の指示通りに動いてくれたときには『○○してくれたおかげで助かった』、仕事でよい結果が得られたときは『○○さんにつくってもらった企画書、評判が良かったよ』といった具合です」(大岩さん)
普段の軽いお礼に、ちょっとした褒め言葉を加えるだけで、部下が思うように動いてくれるようになるはず。部下がよく動いてくれれば、上司の評価も上がりますね。
■5:主語が「あなた」の言葉で注意するのはNG
言っていることは同じでも、言い回しひとつで伝わり方はガラッと変わります。例えば、部下に頼んだ書類が期日になっても提出されなかったとしましょう。
それを指摘する上司のセリフが「あなたは、もう期日が過ぎているのに気づかないの」と「わたしは、○日までに提出と伝えていたと思うのだけど」では、部下が受ける印象は異なります。前者の「あなた」が主語のセリフのほうが、より厳しく責められているように感じるはずです。
「主語が『あなた』になっている伝え方を『Youメッセージ』、反対に、主語が『わたし』の伝え方を『Iメッセージ』と言います。
Youメッセージで部下を注意すると、相手にはキツい言葉として伝わり、嫌な印象を与えてしまう可能性大。これをIメッセージで伝えると、表現がやわらかくなるのです。部下のミスを指摘するときや何か注意するときは、必ずIメッセージを使うようにしてください」(大岩さん)
このYouメッセージとIメッセージは、心理学の分野にもある考え方です。日常的に意識して、主語が「わたし」のIメッセージを使う習慣を身につけましょう。
部下を褒めることに気恥ずかしさを感じたり、叱ることを躊躇してしまったりする方も、なかにはいらっしゃるかもしれません。ですが、上手に褒める・叱ることで部下の動きがよくなる、前向きに努力してくれるといったプラスの効果が得られます。本記事を参考に、部下との良好な関係を築いてみてはいかがでしょうか?
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 上原 純