手がかかることを恐れないで。そう言いたくなる鍋と出合いました。それがこの、小さな銅鍋モヴィエルというフランスのお鍋です。
銅という金属は、繊細に熱を伝えます。たとえば砂糖もバターも、弱い火力でスーーーーッと溶ける。さっと引き上げれば、ぱっと加熱は止まる。保温性のいい鍋と違い、熱の強弱を瞬時に反映してくれる。そんなところが製菓職人たちから愛されてきたのです。
そのなかでも「ファースト・モヴィエル」としては、直径14センチの片手鍋がおすすめです。両手鍋や四角いロースターなど料理人仕様のお鍋はいろいろ出ているのですが、やはり最初は「小さくて扱いやすい」サイズがお手ごろかも。
ハンドルは、握るとくぼみにすっと親指が収まります。ミルクを沸かすとジュジュッと縁がこげるように、あっという間に沸いてしまうので、使っているとドキドキします。それくらい繊細で、気難しい…。
でもひとつくらい、小さい気難しい鍋をもっていていいのだと思います。便利で簡単で手入れもいらないものばかりでは、鍋の中の熱がどうかなと感じたり、その中で踊る食材の様子をじっと見つめたり…といったこともなく、五感が磨かれないような気がします。ほっておけばいい簡単料理もいいですが、それだけではなんだか心が渇いてしまうかも。使った後も、鍋を手洗いする時間に、なんだか意味があるような気がするのです。塩と小麦粉を混ぜたペーストで、優しく磨くと余韻がありますよ。お肌みたいですね。
さて、私は…と言いますと、そんな偉そうなことを書きながら、まだまだ全く使いこなせず、なんですが。このお鍋のいいところは、出しっ放しでも様になるところ。うちのオープンキッチンにとりあえず置いてあると、なんだか絵になるんですね。銅はインテリアの世界でも、最近、トレンドの素材です。
もちろんたまには、これでじーっくり、じーっくり熱を通す料理をしてみたいと思います。
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- TEXT :
- 本間美紀さん キッチン&インテリアジャーナリスト
- BY :
- 『Domani7月号』小学館、2016年
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- クレジット :
- 文/本間美紀