兜町にオープンした複合商業施設「K5」は、インテリアのヒントにあふれた空間

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北欧の夕暮れ時「ブルーアワー」のような藍色のカーテンと月明かりのような照明。大きな植栽が印象的なベッドコーナー。

日本橋兜町の証券取引場のほど近く、2020年2月1日にオープンした「K5(ケーファイブ)」内覧会へ行ってきました。

「K5」は、地上2階~4階が、デザインコンシャスなホテル「HOTEL K5」。地下1階~地上階には、宿泊者以外でも利用できる飲食店「CAVEMAN」(レストラン)、「B」(ビアホール)「青淵(AO)」(バー)、「SWITCH COFFEE」(コーヒーショップ)からなるマイクロ複合施設です。

築97年の歴史的建造物の外観・躯体はそのままに、内部を丁寧にキュレーション&リノベーションすることで、重厚さと先鋭的な時代の空気感を併せもつ、唯一無二の空間体験と心弾む時間を与えてくれます。

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国内初の銀行別館として大正時代に建てられた躯体は、細部に歴史の重みを感じさせるつくりをしています。

建築・空間デザインを監修したのは、スウェーデン・ストックホルムを拠点に活躍する建築家パートナーシップ「CLAESSON KOIVISTO RUNE(以下CKR)」。

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CLAESSON KOIVISTO RUNEの3人とエントランス前にて

本記事では、「HOTEL K5(ホテル ケーファイブ)」の部屋の内観、建物内観、廊下や各施設などのインテリアを中心に感想などをまとめています。たくさんの美しい写真と共に、建築や家具をデザインしたOla Rune氏と、「K5」とCKRを繋いだ黒崎輝男氏からの「自分らしい暮らしをつくるヒント」もお楽しみください。

「K5」で過ごし「Hotel K5」に宿泊するという、兜町の新しい楽しみ方

金融の街として知られる日本橋兜町、社会科見学で訪れたことがあるという方も多いはず。「K5」は、感度の高い人が集まる拠点となり、周辺にさまざまな施設が増え、兜町の再活性化を目指してつくられたマイクロ複合施設です。

2020年2月にオープンした「ホテル K5」は、日本橋駅から徒歩4分の非常に便利な立地にあるハイエンドブティックホテルです。4つのカテゴリー(スタジオ、K5ルーム、ジュニアスイート、K5ロフト)に分けられた、3フロア20室の客室。

お部屋の広さは、21〜80㎡。宿泊費の目安は、¥20,000〜¥150,000。上質で独自性のある小規模ラグジュアリーホテルの世界的なネットワーク「Design HotelsTM」に加盟しています。

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最上級スイートルーム「K5 LOFT」。80平米の広さと4.5m超えの天井高。客室内には大きなダイニングテーブルとキッチンも配され、存分にリラックスしたプライベート利用からパーティー利用まで可能。

ホテルの宿泊客以外も楽しめる、日本初上陸のビアホールや、話題のレストランにコーヒーショップ、ライブラリーバーなど魅力的な飲食店があることで、感度の高い人が集まり、交差するのも楽しみのひとつです。

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朝食は、1階の「caveman」にて。日本、フランス、デンマークなど多様な文化によって創発された東京・目黒の人気レストラン「Kabi」の新しいレストランです。
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「caveman」と植栽で緩やかに区切られた「switch coffee」目黒、代々木八幡に店舗を構える人気コーヒーショップの3店舗目です。朝から夕方まで何時に立ち寄っても手軽に質の高いコーヒーを楽しむことができます。
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B1Fにあるビアホール「B」。ニューヨークのクラフトビールメーカー「Brooklyn Brewery」の世界初のフラッグシップ店です。
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1Fにあるライブラリーバー「青淵(あお)」。本棚に囲まれた室内では、夜はアジアのお茶や漢方をベースにしたカクテルなどを提供。日中はティーサロンに。

色数を絞り質感を重ね、透ける素材や段差、植栽で曖昧に区切る「HOTEL K5」のセンシャルな客室インテリア

客室に入るとまず目に入るのは、微細な風に揺れるカーテン越しに見える月明かりのような灯り。カーテンは藍色にグラデーションで染められ、まるで北欧の最も美しい時間といわれる夕暮れどきのブルーアワーを思い起こさせます。

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大きな植栽の木陰が、リビングコーナーとベッドコーナーを優しく仕切ります。

部屋全体は、躯体のコンクリートに床に、カーテンのかけられた大きな窓、濃色の木材の建具で囲まれた大きなひとつの空間。

そこに、天井からグラデーションに染められたカーテンが、円を描くように吊り下げられています。天井まで高さのある建具は、日本建築のようなディテールや、淡色の木をところどころに効かせ、なじみあるスケール感におとしこんであります。

視線は繋がりながらも、大きな植栽や、灯りの陰影、段差等の効果で、過ごし方の異なるコーナー毎に緩やかに分かれているのが居心地のよさをつくり出していました。

アクセントカラーとして藍色や、深みのある赤、植栽の緑が映え、シックで遊び心の感じられるインテリア。

色は抑えられながらも、蚊帳を思わせるカーテンの風合いや、織の質感を際立たせる藍色のグラデーション染め、和紙から漏れるやわらかな灯り、起毛感のある赤い生地で張られたマシュマロのようなソファ、ツヤっとしたリラックスチェアの革の静けさ、廊下の手すりと同じターコイズブルーのマットなタイル、鈍く光る銅の扉など、幾重にもテクスチャーの異なる素材が重なり、空間に奥行きと豊かさを感じさせてくれます。

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一部がヘッドボードになっているオープンシェルフのベッド裏デスク。アナログレコードプレイヤーは、全クラスの部屋に設置されています。ベッド横の小さなスツールも、CKRデザイン。
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段差で変化をつけた水廻り。床のタイルは廊下と同じものを異なるパターンで貼っています。バスタブもCKRデザイン。
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バスルームの鏡に取り付けられた赤い照明をつけると、異空間のようなバスタブに変わる仕掛けも。
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廊下と室内で同じタイルを用いることで、境界線を曖昧にする効果があります。貼り方のパターンで変化をつけていることにも注目。

北欧の灯りと、日本の陰翳礼讃を思わせる心地よい客室のあかり

北欧の人は、照明計画で心地よさをつくることや自分らしい空間を演出することに非常に気を配ります。HOTEL K5で感じたのは、部屋全体に「広がり」と「おこもり感」の両方を共存させる照明づかいの巧みさでした。

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布越しの灯りで狭さを感じることなく、安心してこもることができるベッドコーナー

人間の目は明るい方を追う習性があるので、部屋の奥を照らすと奥行きを感じ、高いところを照らせば天井の高さを、低いところを照らせば安定感を感じます。また、布や和紙、植栽の大きな葉などに照明をあてて、やさしく光を拡散させたり、影を落としたりするのも、インテリアの雰囲気を盛り上げてくれていました。

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窓辺のカーテン越しに、イサム・ノグチのAKARIが優しくカーテンの襞に陰影をつくります。
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天井からの落ちるカーテンの陰影で高さを、ローテーブルの低い位置で安定感を、フロアランプで手元の明るさを感じさせる、きめ細やかな照明計画。

ダイナミックに部屋を変化させる静かな建具と、遊び心あふれるプロダクトで、新しい日本と再び出会える客室インテリア

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静と動。和のディテールと北欧のプロポーションが空間に新鮮さを与えていることに気がつきます。

建具は、指物師の仕事を思わせるディテールをもった引き戸だったり、障子のようなガラス板だったり物静かなつくりをしています。一部分に注目すると、見たことがあるような気がするのですが、そのプロポーション(タテヨコ比)が、日本の見慣れたものよりもずっと「縦長」であることで、とても新鮮な印象をもちます。

そのプロポーションの効果に圧巻したのは、空間のダイナミックな変化でした。スムーズに動く大きな引き戸を、開けたときの微細な風にカーテンがふわりと揺れ、心地よい空気の流れを視覚的にも感じさせてくれます。全身の映るミラーのクローゼット棚の扉は、部屋全体の景色を大きく動かすようなトリッキーな効果がありました。

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CKRデザインの竹を思わせる脚のソファ、フリンジも効いています。畳の縁のようなラグのグラフィックにも注目。
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「K5のために20アイテムほどの家具をデザインしたよ。歩き入れるプライベートな空間にしようと、すべての居室にカーテンをつけました」と、CKRのOla Rune氏。座っているベンチやソファ、ラグや大きな和紙の照明も今後リリースされる予定だそう。

設計に主に携わったCKRのOla Rune氏は、「兜町のビルも、ストックホルムのビルも石造りではあるけれど、プロポーションが違っていて、まったく異なった印象をもちます。プロポーションに、とても日本的なものを感じます」とのこと。

そのヒントを元に、どこの国のスタイルでもない「K5」のインテリアを紐解くことで、自分らしい部屋づくりに生かせるかもしれません。

大人の女性が自分らしいインテリアをつくる一番はじめの一歩についても教えてくれました。「沢山のアドバイスができるけれど、自分が心地よく感じるものを、多すぎず、ひとつひとつそろえていくこと。ほかの誰でもなく、自分の心地よさを。ひとつそれがあると、お家に帰りたくなるひとつから始まる、僕はそう思っています」

ピリッとアクセントを効かせた廊下や階段室も楽しい「K5」

実は、客室に向かうまでのエントランスから物語は始まっています。銅板で包まれたエレベーターを降りると、一昔前の応接室のような落ち着いた木の壁が迎えてくれます。

ほっこりした気分になるも束の間、壁のカーブの形状に促されるように歩くと、外の明かりに照らされた銅の扉がキラリ光り美しさにハッとします。木と銅が同じ色にそろえてあることが、かえって光の反射具合で質感の違いを際立たせ、窓の外の明るさを感じさせてくれました。

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寺社建築内に設置された仏像に、光が当たったようななじみ深い質感の対比が新鮮。方向性のあるタイルのパターンが動線を促す廊下の風景。
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障子のような色ガラスの重なりが美しい、各部屋の銅扉のきらめきも心踊る廊下の風景。
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階段室を歩いていると、ときどきトリックアートのように映し出される自分に出会うことがあるのも新鮮です。

「K5」とCKRを繋いだ黒崎輝男氏にも、自分らしい暮らしのつくりかたのヒントをうかがいました。

「自分が本当に好きなものを選んで。好奇心をもっともっともって、色々見て、色んな人に会って『感じる』ことが大事。勉強したら上手くなるとか、そういう時代じゃない。もっと感度をあげて、それぞれの豊かさをみつけていい時代だよね。楽しんで!」

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イデーのファウンダーで、現在はファーマーズマーケットや自由大学などを手がける黒崎氏(写真左)と、CKR。

つくり込みすぎてなくて、細部まで気が利いていて、おいしい食べ物と、魅力的なスタッフが迎えてくれる「K5」。館内のいたるところに、インテリアのヒントが散らばっています。

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「B」の壁に張り巡らされたフック。コートはもちろん、照明器具やスツールがかけられます。気取ってなくて機能的。スツールは客室のミニサイズと同じくCKRデザイン。

コンクリートの多いオフィス街のなかに身を置きながらも、より自然を感じられる「K5」は、それぞれの空間に合わせて厳選された植物がいたるところにふんだんに配されています。

多くのスタイリッシュな植栽のセンスも真似したいところ。

今度、兜町を訪れるなら、魅力的なインテリアとコンテンツのそろった「K5」で過ごす時間を楽しんでみませんか?

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この記事の執筆者
イデーに5年間(1997年~2002年)所属し、定番家具の開発や「東京デザイナーズブロック2001」の実行委員長、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。 2012年より「Design life with kids interior workshop」主宰。モンテッソーリ教育の視点を取り入れた、自身デザインの、“時計の読めない子が読みたくなる”アナログ時計『fun pun clock(ふんぷんクロック)』が、グッドデザイン賞2017を受賞。現在は、フリーランスのデザイナー・インテリアエディターとして「豊かな暮らし」について、プロダクトやコーディネート、ライティングを通して情報発信をしている。
公式サイト:YOKODOBASHI.COM