各メゾンがその年の新作を発表する時計界の祭典の中でも、限られた招待客のみ入場を許されるラグジュアリーなエキシビジョン『ウォッチ&ワンダー ジュネーブ』。
2021年1月に延期された『バーゼルワールド2020』からの電撃撤退を表明した4社5ブランド、パテック フィリップ、ロレックス、チューダー、ショパール、シャネルが、新作発表の場を2021年4月開催予定の『ウォッチ&ワンダー ジュネーブ』に移す予定であることを明らかにし、早くも注目と期待が集まっている。
残念ながら2020は主にオンラインでの発表となった『ウォッチ&ワンダー ジュネーブ』だが、そこから紳士の手元に相応しい新名品をブランドごとに新作をお届けする「メンズプレシャス新名品時計録2020 ウォッチ&ワンダー ジュネーブ」。
第2回目は「ドイツ」の至宝と謳われる「A.ランゲ&ゾーネ」。長い歴史の間に、大きな悲劇に襲われ休眠を余儀なくされた年月もあったが、華麗に蘇り確固たるステイタスを築き上げた孤高の名門から発信されたのは、明日へのエールが込められた2モデルのタイムピースだ。
ホワイトゴールドケースで、新たな表情を得た現在進行形の名品2本
2本の新作時計の情報とともに、ドイツ・グラスヒュッテから、その豊かな自然を背に佇む「A.ランゲ&ゾーネ」の本社社屋が写ったカードとメッセージが届いた。
「NEVER STAND STILL」
「STAY TOGETER」
ブランド再興から25年の歳月が過ぎ、世界有数の技術力とステイタスを誇るラグジュアリーメゾンへと昇り詰めた今でも、このブランドには温かな血が流れている。
2020年の『ウォッチ&ワンダー ジュネーブ』でのこの発表を、「たったの2本?」と捉える人も多いかもしれない。
しかし私はそれこそが「A.ランゲ&ゾーネ」の矜恃であり、ホスピタリティだろうと想像し胸が熱くなった。
全てのブランドが年に1度の、スイスでの新作発表会に間に合わせるよう、何年もかけて新作を製作する。しかしそこに間に合わなかった場合、或いは、あくまでも商談や取材用と割り切って最初からそのつもりで、実機ではなくサンプルを手にする機会も少なくない。
しかし「A.ランゲ&ゾーネ」は、まず、サンプルでお茶を濁すようなことをはせず、実機をきっちり用意して迎えてくれてきた。そこに「本物を手に取って見てください」という矜恃とホスピタリティを感じ、年を追うごとにその美学に惹き込まれていった。
2020年の『ウォッチ&ワンダー ジュネーブ』について、こんな事態になることなど想像もできなった2019年の晩秋、本社のヴィルヘルム・シュミットCEOは満面の笑顔でこう予告した。
「素敵なサプライズをお届けします」
正式なコメントを取れたわけではないのであくまでも想像ではあるが、結果オンラインでの発表になった今回は発表数を抑え、また敢えて既存のモデルのラインエクステンションに留めたのは、我々メディアや商談相手に、なるべく実機を見せたいという思いからだと確信している。
そんな「A.ランゲ&ゾーネ」が今回、おそらく熟考を重ねて発表した時計は、2モデルそれぞれとてもニュース性が高い魅力的なものだ。
超絶機構を組み合わせたコンプリケーション『ツァイトヴェルク・ミニッツリピーター』に、ホワイトゴールドの限定モデルが登場!
3枚のディスクにより、瞬間的に表示が変わる「瞬転数字式時刻表示」と、10分ごとに重複音を鳴らすことができるユニークな「十進式ミニッツリピーター」をカップリングさせた、世界唯一のコンプリケーション。
2015年にプラチナケースで発表されたこのモデルが、ホワイトゴールドケースとディープブルーのダイヤルで表情を一新した。
製作本数わずか30本というリミテッド・エディションは、世界の時計愛好家の心を余計に掻き立てる。
ブランド初のラグジュアリースポーツウォッチが、ホワイトゴールドケースでエレガンスを加速
「A.ランゲ&ゾーネ」のレギュラーモデルとしては初のステンレススティール製の時計、そして2009年の『ツァイトヴェルク』以来10年ぶりの新コレクションとして2019年秋に発表された時には大きな驚きをもたらした『オデュッセウス』。
2作目となるこの新作は、120m防水、最長50時間というスペックを継承しつつ、ケースにホワイトゴールド、そしてレザーかラバー製のストラップを採用し、アクティヴな魅力はそのままにエレガンスを加速させた。
ダイヤルは洒脱なニュアンスを醸すスレートグレー。早くもブランドのアイコンのひとつになった、3時位置と9時位置に配した大きな日付、曜日表示が若々しい躍動感と迫力を添える。
1845年に創業し、ドイツ最高の時計メーカーとして名を轟かせたものの、第二次世界大戦の影響で長い間休眠。
しかし東西ドイツの統合を機に、半世紀余りの長い眠りから目を覚まし華麗に蘇った「A.ランゲ&ゾーネ」は、半永久的に時を刻み続けるそのムーブメントのように、どんな困難が襲っても「NEVER STAND STILL」――決して立ち止まることはない。
問い合わせ先
- TEXT :
- 岡村佳代 ウォッチ&ジュエリージャーナリスト