歴史あるジュエラー、ショーメがハイジュエリーの新作を発表
創業1780年のショーメにとって今年はメモリアル・イヤー。今年2月には大規模な改装工事を終了し、新たな時代の幕開けとしてヴァンドーム本店をお披露目しました。その後、新型コロナ・ウイルス禍により一時閉店しましたが、現在は新しい生活様式の下、再開しています。
そのショーメが、オンラインでの新作発表を敢行! コロナ禍でも揺るがないメゾンであることを印象付けました。
「ショーメがほかのメゾンと違うのは、まず240年という歴史の長さです。そして、二つ目は軽やかさのなかに存在感があるショーメのスタイルです」とマンスヴェルト氏。
ショーメは、ナポレオンやジョゼフィーヌのお抱えジュエラーであり、特にディアデム(ティアラ)をはじめとするハイジュエリーのピースにその技術を遺憾無く発揮してきました。
また、世界で初めてジュエリーウォッチをローンチしたメゾンでもあり、そのエレガントなDNAは「オルタンシア」シリーズなど現行の時計にも受け継がれています。
天才時計師アブラアン=ルイ・ブレゲが創設した、同じくヴァンドーム広場に店を構える「ブレゲ」のムーヴメントを搭載していたこともあるというエピソードも時計好きの間では有名です。
ヴァンドーム本店のリニューアルが今回のコレクション「ペルスペクティブ ドゥ ショーメ(ショーメの展望の意味)」にも影響を与えています。
「本店は貴族の邸宅を改築したもので、また本店があるヴァンドーム広場は多様な建築様式が凝縮された象徴的な場所です。その特別な場所にある店を改築したことを記念して“建築”をテーマに選んだのです」とマンスヴェルト氏は建築をテーマにした理由を説明します。
建築をテーマにした新コレクション「ペルスペクティブ ドゥ ショーメ」のアイテム10選
今回の新コレクション「ペルスペクティブ ドゥ ショーメ」では、創業時のテーマが再解釈され、イタリアのルネサンスから現代の脱構築主義まで世界の建築様式にオマージュを捧げたピースが披露されました。
ヴァンドーム本店グランドオープンの際、ショーメは限定リング「トレゾール ダイユール」をローンチしましたが、このコレクションは、フランス、日本、中国など、各国の建築物をモチーフにとった独創的なシリーズでした。「ペルスペクティブ ドゥ ショーメ」はその同じ流れのうえにあります。
■1:日本の建築物の特徴、黒い瓦をモチーフにしたリング
■2:フランスの国立グランパレ美術館をモチーフにしたリング
ショーメは、複数の貴石がひとつに見えるほど近接したセッティングや、貴石が浮かんでみえる繊細なメタル・ワークなど、熟練の職人だけが実現できるさまざまなテクニックを誇ります。今回のコレクションでも、このショーメの類い稀な職人技は見どころです。
「『フィルクトー(ナイフエッジ方式)』という職人技はまさにご覧いただきたいものです。
これは伝統的に、ダイヤモンドなどのストーンをどうやってつなぎ合わせているのか見えないようにするショーメ独自の技術であったわけですが、ところが今回は、『ラシ』のなかで、この技術を使いストラクチャー(構造)を生み出しました。
技術にとらわれるのではなく、逆にその技術を使って新たな効果を出させて逆説的な表現をしたのです」
■3:ジュエリーが織りなすレースのような、ラシ ネックレス
「ラシ」はマシュラビヤ(アラビア建築の展示窓)を想起させる、レースのような構造です。
「フィルクトー」は、プレシャスストーンを際立たせ、まるで浮いているように見せるために、地金のメタルをできるだけ細く形成し、構造を隠す技術でした。
ところがこの「プレスペクティブ ドゥ ショーメ」の「ラシ」はまったく逆です。構造が前面に出されて、メインストーンはうしろに隠されています。「フィルクトー」でつくられた細いメタルによる構造自体がグラフィックかつエアリーな美しさを放っているのです。
伝統的な技術による効果を別の方法で解釈し、新しい美を表現した、革新的なアプローチなのです。
1月のヴァンドーム本店オープニングの際に、ショーメ史上、初めてプレス向けにアトリエが公開されました。このアトリエの真ん中に、100年ほど前に制作された木製の大きな道具がありました。
これこそ、「フィルクトー」を実現するための、メタルを挟み、細く伸ばすための道具。この100年前の道具を使い、伝統的な方法で卓抜した職人が手でジュエリーを製作しているのです。機械ではこうした精密な作業は実現できないそうで、人間の無限の力を感じさせます。
■4:しなやかなゴールドメッシュが見事な、オンデュラシオン ネックレス
また、ゴールドの使い方にも注目です。脱構築主義の建築から着想した「オンデュラシオン」では、ゴールドメッシュの技術によって、セカンドスキンのようなフィット感、しなやかさを備えています。
■5:エメラルドが煌めく、スカイライン ネックレス
「ペルスペクティブ ドゥ ショーメ」では、資産価値が高い見事なプレシャスストーンにも目が引かれます。
「ヴァンドーム広場に店を構えるハイジュエラーであるショーメが、資産価値が高いプレシャスストーンにオマージュを捧げないはずはありません。まず『スカイライン』のネックレスの16.06ctのコロンビア産のエメラルド。メゾンを象徴する洋梨型のカットです。
まるで浮いているように見える効果をご覧ください。そしてもうひとつは、同じく『スカイライン』の7.34ctのダイヤモンドです。このように『ペルスペクティブ ドゥ ショーメ』は類まれな貴石を集めたコレクションとなっているのです」
■6:見事なダイヤモンドに息をのむ、スカイライン リング
■7:カラーストーンをモダンに仕上げたセンスが際立つ、リュクス リング
最近、ハイジュエリー界のトレンドとして、プレシャスストーンとファインストーンをミックスして使うデザイン・コンシャスなピースが登場していますが、「ペルスペクティブ ドゥ ショーメ」でもデザイン性を重視したクリエーティブなピースが用意されています。
「それもまたショーメが重要視している点なのです。貴石を中心としたよりクラシックなチャプターがあり、また別のチャプターではモダニティを表現して、カラーストーンを使って色のアートを楽しませています。
『ペルスペクティブ ドゥ ショーメ』の『リュクス』は、まさにメゾンの特徴であるカラーパレットを使って表現されています」
「リュクス」は、イタリア、ルネサンスと、そのフレスコ画へのオマージュ。
中央にはカボションのストーンが置かれ、その周りを数種類のカラーストーンが囲んでいます。
■8:青と緑の調和が美しい、リュクス ネックレス
■9:グラフィカルなデザインが視線を引き付ける、ラビラント ネックレス
また、ロシアの構成主義やイタリアの未来派のような抽象的な美を追求したグラフィックなデザインの「ラビラント」のリングではエメラルドやダイヤモンドとオニキス、アゲートを組み合わせて、モダンな色のアソシエーションをつくり上げています。
■10:モダンな配色とシェイプに心惹かれる、ラビラント リング
接客への繊細なこだわりも、ショーメというメゾンの伝統
プロダクトが素晴らしいだけでなく、接客にも同様に繊細に取り組むのは240年間続いたショーメの伝統です。ショーメは改装したヴァンドーム本店にいくつものサロンを設置するなど、新しい接客方法を試みています。
こうした伝統的な接客だけではなく、新型コロナ・ウイルスの影響により、デジタル技術を利用した新しい方法で対応も開始しました。
「ショーメは、改築の機会を利用してヴァンドーム本店にサロンをつくるなど、接客方法を向上させる試みをいたしました。コロナ禍により一時的な閉店を余儀なくされ、これまでの接客方法を変えなくてはいけなくなりましたが、一方で、この危機が新しいものをつくるいい機会だとも考えています。
SNSを活用したり、LINEやZOOMなどで接客するという方法も新たに始めました。私はジュエリー業界がeコマース主体になっていくとは考えていませんが、伝統的なサロンでの接客だけではなくて、新しい方法を取り入れて関係性をより豊かにしていくのが知恵だと思います」。
伝統と革新。ハイジュエリーのコレクションのみならず、接客方法を含めメゾン全体がこの展望に向かって進んでいます。「ペルスペクティブ ドゥ ショーメ」は、まさにそれを印象付けるコレクションといえそうです。
※掲載した商品はすべて税抜です。
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- TEXT :
- 安田薫子さん ライター&エディター