福岡のセントラルパーク、大濠公園。

福岡の街の中心部にありながら素晴らしい開放感と豊かな水をたたえているのが大濠公園。緑に囲まれた1周2キロという水面は、静かに風に揺れるだけ。緑の向こうにビルが覗く様は、さながらニューヨークのセントラルパークのようです。長閑な景色を見渡せばアヒルのボートを漕ぐ親子、木陰のベンチで読書にふける人、湖の辺りには軽快なウェアでジョギングやウォーキングを楽しむ多くの人たちも。このように市民に愛されているオアシスに福岡のフレンチを支えてきた老舗レストランがあります。いつのころからか「記念日はこの店で」と、やはり市民が愛してきたレストラン。秋の気配も感じられるこの時期に、心地よい風と水辺の景色も楽しみながら優雅なフレンチの時間へとご案内したいと思います。

福岡のフレンチの始まり

大濠公園にある老舗レストラン「花の木」外観

「花の木」の歴史は1953年に誕生した「ロイヤル中洲本店」に始まります。戦後からの復興を突き進むころ、東京で活況を見せはじめた本物のフランス料理を福岡でも提供したいと「ROYAL」の創業者、故・江頭匡一氏の強い想いから生まれたレストラン。賑やかな中洲の場所にありながら、クラシカルな様式とシンプルな美しさを纏ったシャンデリアや調度品に彩られ、最高級の料理とサービスを提供したこの店は多くの著名人に愛されたそう(新婚旅行中のマリリン・モンローとジョー・ディマジオ夫妻が来店した逸話も)。さらに日本一のフランス料理店へと飛躍すべく、1972年に店名を「花の木」に変えて極上の料理とサービスを提供、1989年に今の大濠公園の中に移転したという経緯を持つ本格フレンチの老舗です。その「花の木」が一昨年、大規模なリニューアル。クラシカルな伝統を受け継ぎながら新時代の正統派フレンチへ、装いも新たに歴史を刻み続けているのです。

安心で贅沢なひととき

このような経緯で培われたスピリッツが、料理やサービスに脈々と継承されているのは何と心強いことか。王道であること、それが当たり前としてベースとなっていること。美味しさの背景にある、積み重ねた時間の確かさに触れるのはうれしい限り。料理の味わいにある「花の木」らしさやサービスマンの些細な気配りが「安心」の時間を支えています。

そしてもうひとつの喜びは、誰もが笑顔になれるこの店だけのロケーション。湖の畔りから公園を見渡す広い視界を手にできるのは、福岡で唯一「花の木」だけ。目の前に広がる水と緑、ぽかんと開いた空の開放感は、街の真ん中にいるという驚きの裏返し。だからこそ、ここで食事をする時間が余計に贅沢な気分を醸してくれることにもなります。この景観を眺めながら食事をすると考えただけで、予約の連絡も楽しい行為になるのです。

水と緑のランチタイム

さあ、時間になったらどうぞ1階のレセプションへ。準備が整えば階上のレストランフロアへ進みます。最初にハッと驚くほどの開放感は、片側の壁を全面ガラス張りとした大胆なデザイン。以前のクラシカルな雰囲気から一転、すっきりとしたレイアウトが新鮮です。「昔の面影を惜しむ声もありましたけれど、未来を見据えて大胆な変身となりました」と黒木昭博支配人。リニューアルを経て様変わりしたとはいえ、想いは継承されて進化は続きます。昔を知る客にとって、新しさの中に昔ながらの「花の木」らしさを見つける楽しさと、そこに加えられていく新たな彩りに喜びがあるに違いありません。

この日、アミューズが盛られたプレートは大濠公園の湖のカタチを正確に再現した有田焼の特注品でした。白い磁器プレートに並ぶひと口サイズのアミューズにこそ、大濠公園のロケーションに感謝して訪れる客を喜ばせようという、新しい「花の木」の姿勢を見せてもらった気がします。そして前菜、本日のスープ、メインの肉料理と続く流れも会話を楽しみながら料理と向き合えたのは、大きな窓から眺める水と緑の落ち着いた風景が目の前にあったから。十分な明るさは料理の色を鮮やかに伝えてくれるし、この景色の中にいる優雅な時間がいっそう味わいを豊かにするのです。

ランチコースの終わりには、期間限定で復活させたというデザートが登場しました。これは2007年に人気だったという、絵の具パレットに見立てたデザートプレート。今回、復活を希望する声に応えてランチでのみ提供したそう。笑顔のために最後の一品まで手間を惜しまないのは、昔も今も変わらないようです。このように新しい試みもかつての再現も、同時に織り成すことができるのは歴史ある「花の木」ならでは。市民に愛されるこの場所で新たな歴史を刻むレストランだからこそ、福岡のフレンチを牽引したプライドを持って新たな「らしさ」を創造していくその過程を、これからも大いに楽しみたいと思います。

 ランチメニューBコース(¥5,300)より。アミューズは鹿ミンチのハンバーグ、ツブ貝のマリネ、冬瓜、トウモロコシのエスプーマ。それぞれが1スプーンで楽しめます。プレートは大濠公園の湖のカタチを正確に再現した有田焼。
本日の前菜は、甲イカのタルタル レフォールソースとチリソースを添えて。
かぼちゃ(バターナッツ)の冷製スープ。豊かな甘み。
メインの肉料理。有田牧場より国産牛のロース レフォール風味のソースで。西洋ワサビがほんのり香るソースがよく合う!
期間限定のデザートパレットは6種類。左上よりアールスメロンと巨峰、マンダリンジュレとパッションスープ、フロマージュムースと桃のコンポート、トンカ豆のクリームブリュレ、パイナップルソルベ、プティフール。
マリリン・モンロー、ジョー・ディマジオ夫妻が来店した際のテーブルと椅子は、Room1953という個室にて今でも現役。

問い合わせ先

  • レストラン 花の木 TEL:092-751-3340
  • 営業時間/12:00〜15:00、18:00〜22:00
    定休日/月
    メニュー/ランチ:A コース¥3,800、Bコース ¥5,300、Cコース ¥6,800 
    ディナー:エレガントコース¥7,500、セゾンコース ¥12,000(税・サービス料別)
    住所/福岡県福岡市中央区大濠公園1-3

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この記事の執筆者
TEXT :
鳥越 毅さん 編集家
2017.12.16 更新
熊本で情報誌の編集・制作に携わり、1990年に福岡へ。発展する街で人気タウン誌の編集・営業ディレクターなどを経て、2010年よりグルメマガジン「ソワニエ」制作チームとして福岡の「食」の魅力を発信中。2014年、『ふくおか手みやげ自慢』を発行。好きなもの:九州旅、路地散策、古民家、隠れ家、コーヒー、ウイスキー、日本酒、陶磁器、短距離走
WRITING :
鳥越 剛
EDIT :
安念美和子