新型コロナウイルスの流行は、人々の働き方にも大きな変化をもたらしました。感染拡大防止のため、テレワークやオンライン会議が推奨され、対面でのコミュニケーションの機会が少なくなったことから、「自分の言いたいことが相手に伝わっていない」「相手が何を考えているのかわからない」といった苛立ちや不安を感じている人も多いのではないでしょうか?

こうしたオンライン中心の働き方で、特に問題が起きやすいのが後輩・部下とのやりとり。ただでさえ、人を指導する、育てることは難しいものですが、テレワークで直接対面しないことによって、より意思疎通が図りにくく「そんなつもりじゃなかったのに!」というトラブルが発生しがちです。

そこで今回は、コンサルタントの安達裕哉さんから、後輩や部下をテレワークで指導するときのNG対応についてお話をうかがいました。

後輩や部下を「テレワークで指導するとき」にNGな対応4選

■1:チャットやメールだけでコミュニケーションを済ませようとするのはNG

画面越しでも顔が見えるほうが安心
画面越しでも顔が見えるほうが安心

「テレワークでチャットやメールでコミュニケーションを図る際には、相手との関係性に応じて、本当に文字のみで大丈夫なのか検討する必要があります。

ある程度、お互いの人となりがわかっているくらい親しい間柄であれば、文字のみのやりとりでも、ニュアンスは伝わるでしょう。ところが、新人の指導など、まだ浅い関係においては、表情や声色が伴わないことから、思わぬ誤解を招いてしまうおそれがあります。特にチャットのような短文メッセージではその危険性が高いです。

たとえば、部下の作成した報告書の内容で疑問点があり、上司が『これどういうこと?』とメッセージを送ったとします。上司は、具体的な内容を知りたいだけで、フラットな気持ちで書いたとしても、文字のみでは部下の側が『ヤバい、責められた』と萎縮してしまうことがよくあるのです。

実際、新人社員のかたからの相談で、『先輩からのメールが怖いんです』という声はかなり多く聞かれます。文字のみのやりとりでは、上司にそのつもりはなくても、言葉不足のために部下を怯えさせている可能性があることは肝に銘じておくべきでしょう。

こうした誤解を生まないためには、説明を尽くすことも大切ですが、文字だけではやはり限界があります。ちょっとした用件でも、チャットばかりで済ませようとするのではなく、特にまだ気心の知れていない部下に対しては、できるだけ対面(オンラインでもOK)か電話でフォローを入れるようにしましょう。

表情や口調、声色があれば、同じ『どういうこと?』でも、怒っているのではなく純粋に疑問点を解消したいだけだということが伝わり、部下も答えやすくなるはずです」(安達さん)

チャットやメールで部下に質問したのに、その返事がなかなか来ない場合、もしかすると相手は「上司を怒らせてしまった、どうしよう」と対応に悩んでいるのかもしれません。その際、さらに文章で「あの件、どうなった?」と追い打ちをかけるのではなく、面倒でも対面か電話で確認するようにしましょう。

■2:「わかんなかったら聞いて」と部下からの質問を待つのはNG

上司からのレス待ちで業務がストップ
上司からのレス待ちで業務がストップ

「仕事の指示を部下に出したあと、『何かわからないことや困ったことがあればいつでも言ってね』と報連相を部下任せにしてしまうのは、テレワークでは特に弊害が大きいです。

そもそも、通常のオフィスワークにおいても『困ったらいつでも声かけて』は、上司の対応として望ましくありません。『いつでも』と言われても、常に忙しなく働いている上司に部下は声をかけづらく、結局、報連相が遅れて、かなり事態が深刻になってから問題が発覚するケースはよくあります。

これがテレワークだと、リアルタイムのコミュニケーションがとれない分、余計に厄介です。

部下の側で何か疑問が生じた場合、オフィスワークでの対面の質問であれば、上司がその場ですぐに対応や返答ができなくても、「じゃあ、その点は一旦ベンディングにしておいて、別のこれをやっておいて」などと何らかの指示を出すことはできるでしょう。

ところが、部下がメールやチャットで疑問点を発信した場合、上司の側がそれに気づかなければ、事態は動きません。部下の側はわからないまま勝手に仕事を進めるわけにもいかず、上司から何らかのレスがあるまで、パソコンの前で手持ち無沙汰な時間を無駄に過ごすことになります。

つまり、部下からの報連相待ちにしてしまうと、テレワークではオフィスワークよりも仕事が渋滞するリスクが高いのです。

『えっ、あの案件そんなところでストップしていたの!?』なんて事態を避けるためには、テレワークではより一層、きめ細やかに上司のほうから部下に進捗を確認するようにしましょう」(安達さん)

■3:「今日は何をやっていたの?」と行動をチェックするのはNG

チェックするのは「行動」ではなく「仕事の成果」
チェックするのは「行動」ではなく「仕事の成果」

「さきほど上司から部下に進捗を確認することの重要性をお伝えしましたが、質問の仕方には注意が必要です。

進捗の確認でNGな質問は、『今日(昨日)は何をやっていたの?』と行動にフォーカスすること。進捗の確認の目的は、あくまで仕事がどこまでできたのかという成果の確認にあります。それなのに、『何をやっていたの?』は、成果ではなく部下の行動にフォーカスするもので、この質問の仕方では、部下の側に監視されているような印象を抱かせるおそれがあるのです。

『何をやっていたの?』ではなく、『昨日作成をお願いしていた資料を見せてもらせますか?』と成果物にフォーカスする、あるいは、予め部下との間で具体的なタスクリストを共有しておき、『どこまで進みましたか?』と仕事の状態を確認するようにしましょう」(安達さん)

ちょっとした言葉のニュアンスの違いですが、本当は仕事の成果を聞きたいのに、「何をやっていたの?」と行動の報告を促してしまう人は意外と多いのでは?

この質問の仕方では、場合によっては部下が「まずAをして、Bをして、それからCをして……」と、仕事の成果とは関係のない行動まで冗長に語り出し、なかなか成果にたどりつかず、「で、結局それがどうなったの?」と上司がイライラさせられることも往々にしてあります。

部下に進捗の確認をする際は、行動ではなく成果を尋ねることを意識するだけでも、無駄な軋轢を起こさずスムーズにコミュニケーションを図ることができそうです。

■4:部下に与える仕事量が少なすぎるのはNG

暇すぎると部下を不安にさせるおそれも
暇すぎると部下を不安にさせるおそれも

「テレワークにおいては、どれくらいの仕事量を部下に任せるのかという調整が非常に重要です。特に、新人に暇を与えてはいけません。少し負荷がかかるくらいの量を割り振るようにしましょう。『まだ慣れていないだろうから、あまり無理をさせないように』とミニマムな仕事しか与えないのはNGです。

テレワークだと上司の監視の目が届かないから、部下がサボらないように……というわけではありません。実は、テレワークで仕事が少ないと、新人は『サボれてラッキー』というより、『こんな調子で大丈夫なのか』と不安になってしまう人のほうが多いのです。

オフィスワークであれば、自分が担当している仕事が少なくても、職場にいること自体で仕事をしている感がある程度は得られますし、また、他の新人などまわりの状況を見られるので安心感があります。

ところが、テレワークで暇ができると、新人は『自分だけ干されているのでは?』、『こんな調子ではスキルアップできないのでは?』、『自分は職場で役に立っていないのでは?』、『クビになっちゃうかも!?』などと、ネガティブな疑念が次々とわいてしまうのです。

ちょっと語弊があるかもしれませんが、テレワークで新人には余計なことを考えさせないくらい忙しくさせたほうがいいでしょう」(安達さん)

どのくらいの量の仕事をこなせるのかは個人差があります。暇を感じさせない適度に負荷のかかる仕事を割り振るためにも、上司が部下にこまめに進捗を確認するのが大事だといえそうですね。

「テレワークで部下とうまくコミュニケーションが図れない」と悩む人は多いですが、部下のほうこそ対面でやりとりできないことに大きな不安を抱えているのかもしれません。コミュニケーションのズレから仕事に大きな支障が出たり、ある日突然、部下から「仕事やめたい!」などと言い出されたりしないように、今回ご紹介したNG対応に心当たりのある人は、この機会にぜひ改善しましょう。

安達裕哉さん
コンサルタント
(あだち ゆうや)1975年東京都生まれ。筑波大学環境科学研究科修了。世界4大会計事務所の1つである、Deloitteに入社し、12年間コンサルティングに従事。在職中、社内ベンチャーであるトーマツイノベーション株式会社の立ち上げに参画し、東京支社長、大阪支社長を歴任。その後、起業して、仕事、マネジメントに関するメディア「Books&Apps」を運営する一方で、企業の現場でコンサルティング活動を行う。著書に『すぐ「決めつける」バカ、まず「受けとめる」知的な』などがある。
この記事の執筆者
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WRITING :
中田綾美