世の中いたるところに“ギャップ”が転がっている。仕事をしていれば、上司や部下との考え方に違和感を覚える。海外に出れば、お辞儀の仕方ひとつをとっても文化や慣習の違いはあたりまえだ。そんなあたりまえに転がっているギャップのなかで、だれもが遭遇するいちばん深い溝といえば…男女関係。そう考えさせられたのが、映画『さざなみ』である。
土曜日に結婚45回目の結婚記念日パーティを予定しているケイト(シャーロット・ランプリング)とジェフ(トム・コートネイ)。子供はいないものの、互いを思いやり、愛情をもって平穏に暮らす夫婦だ。ところが、月曜日にジェフのもとにスイスからある手紙が届く。それは、ケイトと知り合う前にジェフがつきあっていた恋人の遺体が、アルプスの氷河の中から発見され、遺体確認に来てほしいという知らせだった。目の前の妻の存在を忘れ、一気にかつての恋人と過ごした過去へと浸っていく夫。夜中にベッドを抜け出し、屋根裏に上って元彼女の写真を探し出す。そんな夫にいらだち、その写真を手渡すように声を荒げる妻。水曜日、ケイトはスライドを発見し、ある事実から激しい嫉妬に駆り立てられていく…。
思い出に浸ることで、再び若き日々を取り戻すことができるかのように過去に執着する夫。恋人の写真を見たことで、了解していたはずなのに自分の写真が一枚もないことに怒りを覚える妻。夫が過去の余韻に浸れば浸るほど、「出会う前のことに腹を立てることなんてできない」とわかっていながら、夫の裏切りを感じて不信を覚え、嫉妬に取り憑かれていく。そんな妻を、ランプリングが、表情ひとつで鮮やかに見せる。美人女優は年を重ねるほど、主役を張るのは難しい。だが、ランプリングは『まぼろし』『スイミング・プール』などでも魅せたように、本作でもますます円熟した演技で魅了する。疑念を抱き、嫉妬にとらわれ、軽蔑に至る男に対する女の視線。多くの女性が共感するはずだ。どんなに懸命な夫婦であっても男と女の溝は深い。その事実に改めて気づかされる。
結婚45周年パーティを土曜に控えたケイトとジェフ。月曜に、ある手紙が届き、夫婦間の信頼が揺らいでいく。シャーロット・ランプリングは本作でベルリン国際映画祭銀熊賞ほか受賞、アカデミー賞主演女優賞など多数ノミネート。監督:アンドリュー・ヘイ 出演:シャーロット・ランプリング、トム・コートネイほか。
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※この情報は2016年4月7日時点のものになります。
- TEXT :
- 坂口さゆりさん ライター
- クレジット :
- 文/坂口さゆり