栄光と葛藤を抱えたビュフェの画業を振り返る『ベルナール・ビュフェ回顧展 私が生きた時代』

1928年、パリに生まれたビュフェは、幼いころから絵を描くことが好きで、早くからその才能を発揮し、15歳という若さで国立美術学校に入学する。第二次世界大戦が終結したとき、17歳だった彼は、荒廃したパリで不安と虚無感を抱えながら絵を描いた。

細く鋭い線とグレーを基調とした抑制された色彩で描き出される世界はどこか悲しく、それでいて強く、観る者の心に深く突き刺さる。

そんな彼の絵は、当時のパリの人たちの心を掴み、20歳になるころには、パリ国立近代美術館が作品を買い上げ、個展を開催するようになる。瞬く間のうちにビュフェは人気画家として活躍するようになっていく。

展覧会_1
ベルナール・ビュフェ《ピエロの顔》1961年、油彩·カンヴァス ベルナール·ビュフェ美術館所蔵 ©ADAGP, Paris&JASPAR, Tokyo, 2020 E3886

本展は、20世紀後半のフランスを代表する画家、ビュフェの作品を初期から晩年までを年代を追いながら紹介するもの。

研ぎ澄まされた空間表現が際立つ《キリストの十字架降下》(1948年)や、美しき妻を描いた《夜会服のアナベル》(1959年)。《ドン・キホーテ 鳥と洞穴》(1988年)のような大作など、その都度、少しずつ作風を変化させていく作品と向き合ううちに、彼の置かれた立場や環境、人間関係など人生の変遷そのものがじわじわと伝わってくる。

人気作家としての栄光とともに、常に画家としての葛藤を抱えながら生きたビュフェ。

晩年はパーキンソン病を患い、絵を描くことができなくなり自ら死を選んだ彼の胸中はいかなるものだったのか。時代に翻弄されながら画家として生きたビュフェの人生と作品にじっくりと向き合ってみたい。

Information

  • 『ベルナール・ビュフェ回顧展 私が生きた時代』 
  • 20世紀後半のフランスを代表する具象画家のひとり、ベルナール·ビュフェの作品世界を、ベルバール·ビュフェ美術館(静岡県)が所蔵する約80作品で振り返る回顧展。黒く鋭い描線、抑えた色彩が特徴的で、抽象絵画が主流となる時代において批判されながらも自らの道を貫いたビュフェ。彼の油彩を中心に、初期から晩年まで順を追って展覧する。
  •  
  • 会場/Bunkamura ザ・ミュージアム
  • 会期/開催中~2021年1月24日(日)
  • ※1月16日(土)、17日(日)、23日(土)、24日(日)の4日間に限りオンラインによる入場日時予約が必要です。
  • 開館時間/10:00~18:00(入館は閉館の30分前まで)
  • 休館/1月1日(金)
  • 観覧料/一般¥1,600、大学・高校生¥1,000、中学・小学生¥700、未就学児は無料
  • TEL:03-5777-8600
  • 住所/東京都渋谷区道玄坂2-24-1

 

この記事の執筆者
TEXT :
林 綾野さん キュレイター・アートライター
BY :
『Precious2月号』小学館、2021年
美術館での展覧会の企画、絵画鑑賞のワークショップなどを行う。画家の創作への思いや人柄、食の趣向などを探求、紹介し、芸術作品との新たな出会いを提案。絵に描かれた“食”のレシピ制作や画家の好物料理を自ら調理、再現し、アートを多角的に紹介している。近著『なにを食べているの? ミッフィーの食卓』ほか、『フェルメールの食卓 暮らしとレシピ』『セザンヌの食卓』『モネ 庭とレシピ』『ぼくはクロード・モネ絵本でよむ画家のおはなし 』(すべて講談社)、『浮世絵に見る 江戸の食卓』(美術出版社)など著書多数。
EDIT :
宮田典子(HATSU)、喜多容子(Precious)