コロナ禍でも業績アップ。注目の「DX」領域を推進する女性管理職にインタビュー
2016年に設立され、電通でデジタルマーケティング領域を一手に担っている電通デジタル。設立からわずか5年間で従業員数は倍増、急成長を遂げています。その電通デジタルの中でも、現在成長が加速し、注目領域であるのが「DX」です。このDX領域を推進する部署で部門長をしている安田裕美子さんに、業務、キャリア、マネジメントなど、詳しくお話をお聞きしました。
1974年石川県生まれ、神戸の大学に進学し、在学中に1年間フランス・パリへ留学しファッションを勉強。大学卒業後、1998年に新卒で電通に入社。電通の職位はGM(ゼネラル・マネージャー)。現在は電通から出向し、電通デジタルでビジネストランスフォーメーション部門長職に従事。
「日々の生活を彩る仕事をしたい」と思い広告会社に入社
――安田さんが新卒時に電通に入社を決めたのはなぜでしょうか?
昔からファッションが好きで、大学生のときにフランス・パリに留学をしてファッションを学んだのですが、「好きなことを仕事にすると嫌いになっちゃうんじゃないかな」と思い、悩んだ末にファッション業界ではなく、広告会社を選びました。
ちょっと性格が飽きっぽいので、1つのことだけをするより、さまざまなクライアントや業種に関われる広告会社は面白いと思いました。広告は日々新たな情報をくれますし、自分を元気にしてくれるところが、ファッションと似ていると思ったんですよね。
日々いろいろなファッションに身を包むと元気になれるとか、新たな自分の魅力を発見できるとかいうことと同じように、日常を彩ってくれるという存在の広告って素敵だなーと。
電通入社から14年間は営業をしていました。クライアントさんの広告のキャンペーンやブランディングの支援ですね。
――大学で広告関連の勉強をされていたのですか?
国際文化学部という学部で広告とは関係なかったのですが、当時からマーケティング、人、文化、カルチャーに興味がありました。広告会社なら電通か博報堂かと思い、応募したら運よく電通にご縁をいただきました。前のめりな性格でガッツがあったのと、物おじしない性格が功を奏したのでしょうか。面接のときは緊張もまったくせず、面接官の方とおしゃべりしているつもりで話していましたね。
同期は180人くらいで当時は女性は少なく、2割くらい、30人程度でした。
営業にとどまらず、プランニングやプロデューサー業も向いているとデジタルの世界へ
――現在なぜ電通から電通デジタルに出向しているのでしょうか?
2012年にデジタルの前身であるBIプランニング局が電通内で立ち上がったのですが、実はその5年くらい前からデジタルをやっていました。
電通入社から14年間、広告キャンペーンやブランディングなどを主に手がけましたが、広告以外の仕事もいろいろしていたんですよね。例えば、大手素材メーカーさんと日本唯一のダイヤモンドブランドのECサイトを立ち上げました。「大人の女性がほしいダイヤモンドジュエリーってなんだろう」と、著名な専門家の方にデザインを依頼したのですが、そうしたらそれがとてもヒットして。プロデューサー業ですね。
他にも、大手自動車会社に2年くらいほぼ常駐している感じでCRMプロジェクトのマネジメントを行っていました。広告キャンペーンを実施しておしまいではなく、その後にもクライアントさんとともに、イベントやオンライン、その他のところで「エンドユーザーさんとのコミュニケーションをどうするのか」など、プランニングやプロデュース的な業務など幅広くいろいろやっている自分の働き方を見ていた上司が「営業以外の仕事も向いているかも」と考えてくれて、当時新しくできたBIプランニング局で働くこととなりました。
――電通デジタルという会社になったときには、すでにデジタルの仕事に長く従事されていたのですね。
BIプラニング局で働き始めた4年後の2016年7月に、電通デジタルが立ち上がりました。BIプランニング局からも多くが電通デジタルに出向することに。電通デジタルという会社ができた2016年には従業員数777人だったのですが、現在は全部でおよそ倍の1500名になりましたね。
――現在の詳しい業務を教えていただけますか?
現在は「DX」デジタルトランスフォーメーションの領域の仕事で、部門長をしています。
最近DXという言葉が、単にデジタルに置き換えたというように意味合いが変わっているようで違和感を覚えます。デジタルを通して、事業、会社の組織の競争力をあるものに変革するということがDXの定義です。
私が統括しているデジタルトランスフォーメーションの部署では、ビジネスモデルをお客様に合うように変えていき、通常の事業モデルであってもマーケティングを変えるとか、社内の仕組みを変えるなど、デジタル部門におけるコンサルティング部隊なようなものです。
電通デジタルはマーケティングを得意領域としているので、マイナスをゼロにするような業務改善ではなく、価値をゼロからプラスにし、新しいサービスや体験を生み出すことに注力しています。
コロナ禍でも業績は上向き、2021年はさらに忙しく
――コロナ禍で広告会社の業績が厳しいと聞いていますが、電通デジタルさんはいかがでしょうか?
業績はいいですね。2020年も目標値を達成しました。以前の広告会社の在り方とはバランスが変わってきています。電通デジタルでも、デジタル広告の割合は年々増加しています。また、我々のDX領域に関しては売り上げを伸ばしており、コロナ禍でも加速しました。
――逆にコロナ禍で業績が伸びたということでしょうか?
コロナでデジタル化、DX化が進んだのは確かなのですが、コロナ禍直後は各企業様がその判断をするのに時間がかかっていたように思います。2020年の夏くらいまではクライアントさんも迷いがあったようですが、夏以降は「DXを進めないと」と、積極的に動き始めたように見えました。
クライアントさんも、今までリアルで相対していたお客さまが急に来店しなくなったりと、コミュニケーションが取れない状態になったので、いろいろと痛感されたのだと思います。足元の改善だけでなく、中長期的に、「自分たちのビジネスを見直さなければいけない」というニーズをも高まって、2021年に入ってからはさらに多くの依頼をいただいています。対応しきれないくらいの案件を抱えています。
今までにはない非連続の変化を起こしていくこと、つまり、今までと同じことをやっていては成長していかない、そういう中でどういう変革をしていけるのか?ということなのです。
――仕事のやりがいはどこにありますか?
勢いのある市場で、日々新しい課題に向き合えているというのがやりがいですね。目下の課題は、これまでのビジネスモデルを変えて、デジタル経営をいかにクライアントさんと伴走していけるか。個人企業などは割合やりやすいですが、大企業などはなかなか難しいんです。その難しいことを一緒に取り組んでいること自体が楽しいですね。
――部門長という立ち位置だと、クライアントさんと直接作業レベルの話はしないですよね?
いえ、します。もちろんチームはあるのですけれど、やっぱりこの領域って日々変化が激しいので、完全にマネジメントだけやっていると業務がわからなくなることも多くあります。マネージャー兼プレーヤーです。
マネジメントのモットーは「ひとりひとりの自己成長と会社のマッチング」
――マネジメントしている人数は?
全部で約70名です。部門長補佐や各部の部長の6名をダイレクトマネジメントしています。
――マネジメントのコツはありますか?
チームメンバーに常に伝えていることは、自己成長しながらいかに世の中に価値を出していくか?自分のやりたいことと仕事がいかにマッチしていて、ベストのバランスを電通デジタルで作れているか?ということです。
個人面談は頻繁に行い、仕事をアサインされて、結果がどうだったか?などはもちろん見るのですが、その個人が、理想のキャリアに近いことができているか?短期的だけでなく、中長期的な視点でそれができているのか?個人の市場価値はどうなのか?などを常に考えるようにしています。
人の移り変わりが多い業界なので、自己成長と会社の成長がマッチできるように心がけています。話を聞き、本当はその人がやりたいと考えている領域の仕事をやってもらうとか、個人が出しているちょっとしたシグナルも見逃さないように努めています。
急激に成長している会社にみられる成長痛みたいなものがあって、人材の入れ替わりが多い時期がありました。辞める人は突然辞めていくので、そういう経緯から、その人が「やりたいこと」と、「やらなければいけないこと」をやってもらって、win-winな形で続けてもらい、電通デジタルにいることに価値を感じでもらいたいと思っています。一期一会ですので、ひとりひとりとの出会いとご縁を大事にしたいですね。目下の課題でもあります。
ありがたいことに、最近は会社の知名度が上がってきたのもあり、人材確保ができるようになりました。2020年10月に東洋経済で掲載された『コロナ禍の中で評価を上げた会社』ランキングで高い評価をいただいたのも、知名度が上がった要因の一つかと思います。
変化を恐れず、学びを止めないことがキャリアアップの秘訣
――順調なキャリア形成の秘訣は?
変化を恐れないこと。です。
求められることに対して、できないと思わないこと。今までも実は心の中ではできないと思っていても、課題に対してバリューアップして答えていくということを続けてきました。クライアントさんが求める領域に、変化を恐れずに対応していくことです。
――新しい領域の業務でわからないことはどのように学んでいますか?
仕事をしてきて思うのですが、物事の本質って、「課題にあわせて必要な人材やスキルを合わせてどんなチームを作るか」なんです。テーマがどんなものであっても。ただ、現実のスキルとしては、もともとコンサルティング的なアプローチやデジタルも好きでその領域に興味もありました。
いままでも多くの業種のクライアントさんと仕事をしてきましたが、課題を解決したいという気持ちが大きいので、勉強もしますし、その領域の課題をどう解決するかを考えます。それまで我々が担ってこなかったことであってもやるようになってきています。
「日本を元気にしたい」今後の野望と座右の銘
――安田さんの座右の銘は?
「迷った時は困難な方へ」。進路やキャリアの決断をするときは、心に素直になり判断している気がします。簡単なこと、やったことがあることより、やったことのないこと、新しいこと、難しそうなことに取り組むことが多い気がします(笑)
――今後の目標を教えてください
今はDX領域で主にコンサルティングをやっていますが、今後はクライアントさんと一体となってDXを実践していくことに注力していきたいです。クライアントと支援側という構図ではなく、一体化してデジタル変革をしていきたいですね。先日、トヨタ自動車さんとも一緒に会社を設立したのですが、新しい組織を作ってよりDXを推進したい、その先に、エンドユーザーが幸せになるようにしたいです。
そして更なる野望的なことをいえば、日本の企業がなかなか変われない現実を見ているので、日本全体が元気になる手伝いをしたいです。今までの成功体験から「変わる必要がない」と思っていた企業や、コロナ禍で弱くなった企業、強いては、日本という国を、デジタルを使って変えていって、より便利で元気な国にしていきたいなと思います。
以上、電通デジタル・デジタルトランスフォーメーション領域の部門長を務めている安田裕美子さんに、キャリアとマネジメント、DX領域での業務のやりがいなどについてお話をお伺いしました。
変化を恐れず、新たな課題に果敢に取り組み続け、会社の成長だけでなく、部下ひとりひとりの市場価値とニーズを的確に捉えることに尽力していらっしゃることがよくわかりました。
明日公開の第2回では、1年近くリモートワークを続けてきた安田さんの「リモートワークで結果を出すコツ」についてお伝えいたします。
- TEXT :
- 岡山由紀子さん エディター・ライター
公式サイト:OKAYAMAYUKIKO.COM