人生を重ねた大人だからこそ見えてくる、豊かな暮らしとは?をテーマに、雑誌『Precious』編集部が総力取材する連載「IE Precious」。
今回は、建築家の半谷仁子さんのご自宅をご紹介します。
「変化する葉、切った枝、朽ちた花びら。どんな状態でも、どう扱い、どう楽しむかで植物との暮らしはぐっと豊かになります」
玄関のレモンの木が目印。27年前、家を建てたときに植えた苗木は今、3階に届くほど成長し、季節になると鮮やかな黄色の実でいっぱいに。
「植物は生き物ですから、日々変化します。その成長を一緒に楽しめることが醍醐味です。若い頃は切り花や枝ものを市場で大量に購入していましたが、歳を重ねるにつれ、植物の『自然のあるがまま』の姿を楽しみたいと思うようになりました」(半谷仁子さん、以下同様)
「ジャングルみたいだね、と子供たちに言われています」と笑う建築家の半谷仁子さん。部屋中に眩しいほどグリーンがあふれ、まるでリゾートのよう。
6年前、屋上を本格的なガーデンに改造。もともとあった天窓を出入り口にして階段を取り付け、信州の造園業の方から送ってもらった苗木を中心に数十種類の植物を搬入。
「別荘が欲しいと思っていたこともあり、屋上に小さな小さな森ができればと(笑)。デイベッドに寝転んで、月明かりに照らされた植物を眺めながら飲む、冷えた水とワインは最高です」
ダイニングには、そこかしこにガラスの花器を使った涼しげなハンギンググリーンが。
「吊るして育てているものもありますが、部屋の観葉植物の葉をカットしてそのまま入れたり、自由にアレンジしています」
「育てたり増やしたり。自らの手を使って『扱う』楽しさを実感しています」
また、家を建てた当時は事務所だった1階は、ギャラリーに改装。
「北側に小さな庭をつくりました。ムベの木と南天とハラン、昔あった桜の木の枝を置いて、静かにグリーンを楽しむ場所に。翳りのある北の光の中、雨音を聞いていると落ち着きます。燦々と光が降り注ぐ明るい2階のテラスとはまた違った趣が」
時間の余裕ができた今、植物との付き合い方は変化中、と半谷さん。
「飾ってただ愛でるのではなく、育てたり増やしたり、自らの手を使って『扱う』楽しさを実感しています。
変化する葉や切った枝から根が生える姿には生命力を感じますし、朽ちた花びらもガラスの器に入れればほのかに香りが残っていて驚きます。どんな状態でも、どう扱い、どう楽しむかで植物との暮らしはぐっと豊かになる。奥深き世界です」
「夜のライトによって、晴湖の勢いある墨絵に緑の影が重なりなんとも幻想的。陽の光の中でいきいきと輝く緑はもちろん素敵ですが、植物の描く緑のシルエットも絵画のような美しさがあります」
「グリーンは花器に飾らなきゃいけないわけではないんです。拾ってきた貝殻の山に挿してみたり、ワインクーラーにボトルと一緒に生けてみたり。もっと自由でいいのでは」
半谷さんのHouse DATA
●間取り…2LDK
●住んで何年?…27年
- PHOTO :
- 川上輝明(bean)、長谷川 潤
- EDIT&WRITING :
- 田中美保、古里典子(Precious)