人生を重ねた大人だからこそ見えてくる、豊かな暮らしとは?をテーマに、雑誌『Precious』編集部が総力取材する連載「IE Precious」。

今回は、建築家の半谷仁子さんのご自宅をご紹介します。

半谷 仁子さん
建築家
(はんがい じんこ)「モンスーンカフェ」ほか、話題の店舗や著名人・個人の住宅など多く手掛ける。海外リゾートを思わせる、光と風と緑を大切にした大胆かつ繊細な設計が人気。現在は「ギャラリーサロン 守破離」を主宰。花の投げ入れレッスンや籠編み・陶芸体験など『季節を大切にする日本の気持ちいい暮らし』をテーマに、その道のプロを呼んで不定期でワークショップを開催。

「変化する葉、切った枝、朽ちた花びら。どんな状態でも、どう扱い、どう楽しむかで植物との暮らしはぐっと豊かになります」

玄関のレモンの木が目印。27年前、家を建てたときに植えた苗木は今、3階に届くほど成長し、季節になると鮮やかな黄色の実でいっぱいに。

「植物は生き物ですから、日々変化します。その成長を一緒に楽しめることが醍醐味です。若い頃は切り花や枝ものを市場で大量に購入していましたが、歳を重ねるにつれ、植物の『自然のあるがまま』の姿を楽しみたいと思うようになりました」(半谷仁子さん、以下同様)

「ジャングルみたいだね、と子供たちに言われています」と笑う建築家の半谷仁子さん。部屋中に眩しいほどグリーンがあふれ、まるでリゾートのよう。

建築家の半谷仁子さんのご自宅
天井高4.2mのダイニングとリビングをつなぐバルコニーはサンルーム仕立てで、窓を開け放てばテラス席に。日当たりがよいせいか、植物が育つスピードが違うとか。たくさんのグリーンに、ひとつひとつ声をかけながら水やりを。手前の丸い石のテーブルは、インド・ジャイプールでひと目惚れしたもの。イタリアから取り寄せたテラコッタの床タイルや大きな窓の木枠と共に、鮮やかなグリーンがよく映える。

6年前、屋上を本格的なガーデンに改造。もともとあった天窓を出入り口にして階段を取り付け、信州の造園業の方から送ってもらった苗木を中心に数十種類の植物を搬入。

「別荘が欲しいと思っていたこともあり、屋上に小さな小さな森ができればと(笑)。デイベッドに寝転んで、月明かりに照らされた植物を眺めながら飲む、冷えた水とワインは最高です」

建築家の半谷仁子さんのご自宅
テラスで茶箱を広げて一服。優しい風を感じながら家にいながら野の点だてを楽しむ。棗(なつめ)に映るグリーンの姿も美しい。

ダイニングには、そこかしこにガラスの花器を使った涼しげなハンギンググリーンが。

建築家の半谷仁子さんのご自宅
 

「吊るして育てているものもありますが、部屋の観葉植物の葉をカットしてそのまま入れたり、自由にアレンジしています」

建築家の半谷仁子さんのご自宅
 

「育てたり増やしたり。自らの手を使って『扱う』楽しさを実感しています」

また、家を建てた当時は事務所だった1階は、ギャラリーに改装。

「北側に小さな庭をつくりました。ムベの木と南天とハラン、昔あった桜の木の枝を置いて、静かにグリーンを楽しむ場所に。翳りのある北の光の中、雨音を聞いていると落ち着きます。燦々と光が降り注ぐ明るい2階のテラスとはまた違った趣が」

建築家の半谷仁子さんのご自宅
ギャラリースペースには立礼(りゅうれい)でお茶が楽しめるスペースも設置。幼少期、学生時代と習っていたお茶も再び習い始め、「植物や自然の捉え方がまた新たに」と半谷さん。

時間の余裕ができた今、植物との付き合い方は変化中、と半谷さん。

「飾ってただ愛でるのではなく、育てたり増やしたり、自らの手を使って『扱う』楽しさを実感しています。

変化する葉や切った枝から根が生える姿には生命力を感じますし、朽ちた花びらもガラスの器に入れればほのかに香りが残っていて驚きます。どんな状態でも、どう扱い、どう楽しむかで植物との暮らしはぐっと豊かになる。奥深き世界です」

建築家の半谷仁子さんのご自宅
ダイニング奥、床の間に見立てたスペース。奥原晴湖の南画の四曲屏風を4枚に分けたうちの1枚。

「夜のライトによって、晴湖の勢いある墨絵に緑の影が重なりなんとも幻想的。陽の光の中でいきいきと輝く緑はもちろん素敵ですが、植物の描く緑のシルエットも絵画のような美しさがあります」

建築家の半谷仁子さんのご自宅
流木のオブジェに南天の枝を。

「グリーンは花器に飾らなきゃいけないわけではないんです。拾ってきた貝殻の山に挿してみたり、ワインクーラーにボトルと一緒に生けてみたり。もっと自由でいいのでは」

半谷仁子さんのご自宅
リビングには3mを越える大きなエバーフレッシュが。その下に横たわり、柔らかな葉の間から降り注ぐ光に包まれる瞬間は至福のとき。
建築家の半谷仁子さんのご自宅
エントランスの花器には家の中のグリーンの枝を日替わりで。「『大きくなったね』『今日はちょっと元気ないんじゃない?』などと、日々植物たちとコミュニケーションをとっています」

半谷さんのHouse DATA

●間取り…2LDK
●住んで何年?…27年

PHOTO :
川上輝明(bean)、長谷川 潤
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)