私生活よりも、作品中で役を演じているときこそ『生きている』という実感がもてる(横浜流星さん)
一度、自分で決めたことは負けずに貫きたかった
そこに立っているだけで、美しい存在感を放つ。今、話題作に欠かせない俳優となった横浜流星。どこか翳りのある青年を繊細に演じ、観る人の心に語りかけてくる。そう伝えると、「ああ、ありがとうございます!」と謙虚な笑みを浮かべた。
その彼が現在、全力で挑んでいるのが、ドラマ『DCU』(TBS系)である。海や河川における水中の未解決事件に立ち向かう、潜水特殊捜査隊(架空の組織)の天才潜水士。
「『日曜劇場』はずっとあこがれでしたし、これまでになかった形の題材に、強く惹かれました。隊長役の阿部寛さんとご一緒できることも光栄で、俳優としての在り方を、一心に学ばせていただいています」
喜びは、本作が海外の制作会社との共同製作で、世界配信を見据えた展望にもある。
「日本発のエンターテインメントが世界に広がっていく流れにあって、挑戦的な作品。参加できて幸せですし、やりがいがあります」
しかし撮影前、横浜には決定的な課題があったという。以前、サーファー役を演じた際の練習で、高波にのまれて溺れかけ、恐怖心が強く残った。
「今回、スキューバ・ダイビングの資格を習得するのに必死で……。水中から見上げるきれいな光や、魚の群れに癒やされながら、なんとか克服できたと思います。でも、いざ撮影に入ると、僕のなかにあるトラウマが役と重なる面もあって、これはむしろ生かせるな、と」
転んでも、ただでは起きない人らしい。10年前にデビューし、まもなく『戦隊ヒーローもの』の良役を得るが、その後の紆余曲折も、乗り越えてきた強さがあった。
「戦隊ものが終わって、ピタッと仕事がなくなったんです。オーディションに行っても落ち続けて、同世代で活躍している人を見ると、羨ましくて悔しかった。そのうち、『どうせまた落ちるな』と思うようになって……自分を見失っていきました」
しかし投げ出さなかったのは、「小学一年生から習っていた極真空手のお陰です」と話す。中学2年生で世界チャンピオンにまで昇りつめた。
「弱くて泣き虫で、ボコボコにされていたけれど、一度、自分でやると決めたことは貫きたかったんです。幼いながらもプライドがあったんでしょうね。空手をやっていなかったら、きっとどっかで折れていた。今に見ていろよ!と思えたし、結局、自分は自分だと思えるようになっていきました。『継続は力なり』という言葉、好きなんです。やめずに続けていれば、絶対に何かが自分の身に返ってくると、信じています」
外見の雰囲気とは違う。かなりの硬派だ。
「きっと父の影響もあると思います。大工をやっていて、職人気質(かたぎ)なんです。寡黙な人で、そんな背中を見て育ちました。僕の作品を観て、ひと言だけ『よかった』と言ってくれるタイプ。性格的に嘘はつけないから、本当によかったときだけ(笑)。僕も、いつかああいう親になりたいと思っています」
芝居を心から楽しめた瞬間、周囲の雑音が消えた
焦りを抱える一方、演技のワークショップなどで自らを磨き続け、20歳になる少し前、映画『青の帰り道』のオーディションで藤井道人監督に見出された。今、横浜が「戦友です」と語る藤井は、横浜演ずる、生きづらさを抱えた青年の怒りや純粋さを、瑞々しく引き出した。
「あれこれ考えずに、今その瞬間を役として生きればいい、と学んで、楽になった。周りの雑音が一切気にならなくなって、変われたな、と思えた作品でした」
やがて年上の教師に恋する『初めて恋をした日に読む話』で、ブレイク。今度は自身を取り巻く周囲の環境が一変し、恐怖を感じたという。
「ここから振り落とされてはいけない。人として役者として、しっかり地に足をつけて生きていこうと、改めて決意したときです」
そして、ドラマ・映画と常に出演作の公開を多数控える人気俳優となった。
この場所から振り落とされてはいけない。しっかり地に足をつけて生きていかなければ、と覚悟しています
「僕は、なぜか親のいない家庭で育った役などが多いんです。よくある日常を過ごしてきていない人物……なぜでしょうね」と、愁いを帯びた目で笑う。真摯に受け答えをする強いまなざしと、優しく微笑んだときの差が激しい。自身の内側に、熱情と静けさとを抱えもっている人のようだ。
「器用に見られがちだけど、本当はすごく不器用なんだと思います。だから、撮影中はずっと作品、役だけに時間を費やして、友達と会うこともなくなる。私生活では自分を抑えてしまう部分があるみたいで、心が動きづらいというのか……役を演じて身を削っているときこそが、『生きている』実感をもてる。ようやく名前を知っていただけて、役がもらえるようになった今、ここからが本番だ、という気持ちでいます」
役者デビューから10年目、横浜は新たな地平に立ち、再び駆け始めた。
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