今、もっとも旬な男の“現在地”に迫る新連載「この人の『現在地』」。
『Precious』3月号では、数々の話題のドラマに出演し、一昨年のラブコメディドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』でも注目を集めた、赤楚衛二さんにスペシャルインタビュー。
端正な装いに秘めた熱い思いを聞きたい!と、その素顔に迫りました。
役者とはとても名乗れない。ずっと負い目があった
端正な顔立ちだけではなく、話す声音もきれいな人だ。そして落ち着いた話し方をする。デビューは6年前だが、一昨年、ラブコメディドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』で、同性から恋心を寄せられた青年の心情を、丁寧に繊細に演じて大きく注目された。
「なんとか認めていただけるようになって、うれしいです。でもデビューしたものの、ずっとイバラの道でした」
19歳の時、アパレルブランドのオーディションを受け、グランプリを受賞した。
「今の事務所に声をかけていただいて。この仕事にあこがれは抱いていましたけど、しっかりした決意のないまま、勢いで上京したんです。無知の強さってあるじゃないですか。怖いもの知らずで飛び込んでみようっていう」
来る日も来る日もオーディションに向かう日々。受けた作品は100をゆうに越えた。
「同じ事務所に、受けるたびに決まる先輩俳優がいて。比べられるし、かたや自分はなんで落ちてばかりなんだと。あまりに落ち続けると、自己肯定感というものが、なくなっていくんですよ。本当にこれで食べていけるようになるのかって……不安だらけで、かなり苦しかったです」
仕事が思うように決まらない日々、アルバイトで生活を賄った。「派遣でケータリングの仕事をしたり、バーや居酒屋で働いたりしました。とてもじゃないけれど、役者だなんて胸を張って言えない毎日。負い目でした」
だが、生来の負けん気の強さが赤楚を支えてきた。
「どこかで、負けてたまるかっていう貪欲さは持っていて。オーディションに行っても、この役を演じたいというより、この役を勝ち取ってやる、絶対に自分を認めさせてやる!って。いま振り返れば、よい向き合い方ではないけれど、それも若さというか、今ではああいう時期を経験してよかったと思えるんです」
幼少期。「人を楽しませることが好きな子供」だった。
「お猿さんみたいな感じの子(笑)。ふざけたり、おちゃらけたり、とにかく騒がしくって」と語る彼に、愛らしさの片鱗はあれど、今の繊細な表現力の源泉は見当たらない。だが、月に一度「家族全員が揃って、家で映画を観ていた」という時間が、豊かな感性を育てたようだ。
「王道の『ターミネーター』とか、ヒューマンな『フォレスト・ガンプ』、ホラーなら『エクソシスト』とか……たくさんの作品を観ました。非現実の世界に飛び込める感覚。あの特別なワクワク感は忘れられない……」
父親が現在、大学の学長職だと聞けば、教育的で恵まれた育ちを想像させるが、家庭環境はいたって普通だったと本人はいう。
「小学校まではアパートで暮らしていて、自分の部屋もなかったですし。中学は私立に行きましたけど、お小遣いが月に500円だったんですよ。友達とゲーム・センターに行くと、皆がお札を持っていることに衝撃を受けました。1か月間、同級生がゲームをしているのを横から見ているなんていうこともあった」
そして「欲しいものもありましたけど、なんでも与えられるわけではない。ああいう育てられ方をしてよかった、と心から思えるんです」と微笑んだ。
社会に問いかけるような作品に少しずつ出ていきたい
「父は厳しい人ですが、進路については寛容でした。僕が大学在学中、学びたいことは大学にはなくて、好きな芝居という道に進みたいです、と話したとき、『皆、悩みつつ生きがいを見つけていく。早いうちにそれを見つけられたのはよかった』と。まったく反対されなくて意外でしたけど、背中を押してもらいました」
そうして飛び込んだ世界。かくいう『イバラの道』が少しずつ開けてきたという彼が、新たに取り組んだ作品が『WOWOWオリジナルドラマ ヒル』(Season1主演)である。他人に寄生する者たち、その格差社会の闇を描く復讐サスペンスだ。
「人間って、社会という秩序に守られて生きているわけですけど、何らかの理由で追いやられて、世の中の片隅で生きざるをえない人たちがいる。僕の演じた四宮勇気(役名)も、突然、そんな環境に放り出されるんです。ひとり疎外される恐怖や怒り、悲しみ……。これまでとは違った目線で社会を見られて、学びにもなりました」
社会派の作品が好きだという。
「俳優は、さまざまな人の感情を演じるもの。これまではエンターテインメントに振り切ったものが多かったのですが、これからは、社会に問いかけるような作品も、やらせていただけるようになりたいです」
取材の最後に、人生でもっとも大切にしていること、を尋ねてみた。
「そうですね……。『対・人』として、いつどんな時、どんな人とでも真剣に向き合っていたいということです。俳優だからどうのということではなく、いつもひとりの人間として、生きていたい」
向ける目は、どこまでも純粋だ。
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
問い合わせ先
- PHOTO :
- 秦 淳司(Cyaan)
- STYLIST :
- 壽村太一
- HAIR MAKE :
- 増田加奈
- WRITING :
- 水田静子
- EDIT :
- 小林桐子(Precious)