ディーン・フジオカさんスペシャルインタビュー|6月に『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』が公開
10代から広い世界を見たくて、日本を飛び出した
ある時、彗星のごとく現れた俳優、という印象があった。知的で涼やかなまなざし。何気ない立ち姿でさえ美しい人だ。NHK連続テレビ小説『あさが来た』での五代友厚役で全国区となり、多くの女性たちをときめかせた。以降、幅広い役柄を演じ、どの作品の中でも“その人”として生きている。そしてどんな役柄であっても品性が漂う。
「役に対しては、自分のこだわりを持ち過ぎず、監督が描きたい、求めている画、世界観にどう近づけていくかだけですね。ですから演じるうえでのセオリーのようなものは、自分にはまったくないんです。1本、1本が違うので、常に柔軟に対応していたい。そして、大勢のスタッフの中での、ひとりの俳優という仕事、カメラの前でパスを渡し合うという責務を、いつも全力で果たすだけです」
民族の違う環境での挑戦では、適応力を身につけるしかなくて。破壊と再生の繰り返しで、鍛えられた
その柔軟な姿勢を、どう身につけてきたのかと尋ねると、「そういうふうにしないと、やってこられなかったから」と、真剣な目で答えた。
「自分の場合は、言語も文化も違う国々で、いわゆる“新人”というものを何回も経験してきているので、適応力をつけるしかなかったんです。いわば破壊と再生の繰り返しだったと思う。相当に鍛えられました。若い頃は適応する力なんてなかったですけど、そういう生き方になったものだから結果として、です。初めから、こんな非効率な生き方をしようと思っていたわけではなかったですよ(笑)。でもそれらの経験が、自分の演技をしていくうえでの、スパイスになっていると思っています」
ディーンは、俳優、またミュージシャンとしての活動を、約16年前、25歳で香港や台湾をベースに始めている。その稀な形のスタートは、高校卒業後、アメリカ・シアトルに留学したことがきっかけとなった。
「10代の頃、人生がつまらなくて、鬱積していたものがあったんです。社会的なことへの憤りもあったし、とにかく今いる場所から飛び出して、もっと広い世界を見てみたかった」
シアトルを「雨が多かった街ですね」と、懐かしみながら、人生観が変わったと話す。
「教室を見渡すと、戦時下にある国や、社会主義国から来ている人がいたりとか、かと思うと、石油王の息子がいたり……と、面白いやつらがいっぱいいました。いろんな人種、宗教、イデオロギーに触れることができて、これが世界の現実なのだと。大いに刺激を受けました」
卒業後は「帰国したくなくて」、バックパッカーとして、世界各地を巡って、自分の生きる道を探していた。
「香港に落ち着いたのは、無い知恵を絞りながら、ここなら何とかやっていけるかもしれないと、思えたからなんです。それと食事の美味しさもありました。冗談ではなくて、自分の人生にとって“食”ってすごく大切なもので。やはりアジアめしは、いちばんレベルが高くて美味いです(笑)」
探し続けた、自分と社会との接点。エンターテインメントの仕事は、唯一にして奇跡の出合いだったと思う
俳優としてのニーズは、ひとつの“奇跡”
初めから「俳優を目指していたわけではまったくなかった」と言う。
「芸能とは関係のない、デザインの仕事など、いろいろやりました。生きていくためにどうすべきか。社会との接点を探し続けていたんです。最終的に形となったのが、このエンターテインメントの仕事だったということですね。結局、自分が社会から求められた、唯一のものだったんです」
そして同時に、「自分はこの仕事が好きなんだと、気づけたことが大きかった」と語る。道が定まって、アジア各国で新人として挑戦、キャリアを広げてきた。
「自分はこうしたい、ああしたいというだけで、ものごとが進むほど世の中は甘くなくて、切り拓くしかありませんでした。国籍がない場所で多民族と仕事をする厳しさは、身に沁みてわかっています」
それゆえか、俳優業に留まらず、映画プロデューサー、モデルなど活躍の場を広げ、日本で人気が沸騰している状況も、冷静に受け止めている。
「時代の要請のようなものに、たまたまハマったのかもしれませんし、何かしらのニーズがあって、依頼していただいているということ。すごくありがたい。ひとつの奇跡みたいだと思っています」
6月に『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』が公開
この6月、人気ドラマ『シャーロック』が映画化され、『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』が公開される。ディーン演じる名探偵、誉 獅子雄(ほまれ・ししお)が、バディの若宮(岩田剛典)と共に、難事件の謎解きに乗り出すが、二転三転していく驚くべき心理劇は、スピーディーで、上質なエンタメ作品に仕立てられている。
「人間の業の深さ、愛の深さゆえにボタンをかけ違って始まった、復讐劇といいますか。完全無欠な誉さえ、一瞬の判断が遅れてしまう……。推理ものですが、それぞれの人生の悲哀が描かれた人間ドラマです」
インタビュー中は、終始クレバーなビジネスマンのような落ち着いた雰囲気があり、そこに時折、清潔なセクシーさが入り混じる。不思議な魅力を湛える人だ。
「感動というものを扱う生業、というんでしょうか。これからも立ち止まりたくはない。心に響く物語を、届け続けていきたいと思います」
『Precious』読者のみなさまにディーンさんから動画メッセージが届きました!
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- PHOTO :
- 生田昌士(hannah)
- STYLIST :
- 金光英行(CEKAI)
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- Chisato Mori(VRAI)
- EDIT :
- 小林桐子(Precious)
- 取材・文 :
- 水田静子