誰の心にも、食卓と家族をめぐる思い出の風景や、一生忘れることがない味、そんなごはんにまつわる物語があるはずです。

町田そのこ著『宙ごはん』
『宙ごはん』書影

2021年本屋大賞受賞『52ヘルツのクジラたち』や2022年本屋大賞ノミネート『星を掬う』でも注目を集めた、町田そのこ氏の最新作『宙ごはん』は、そんな「ごはん」を軸に繰り広げられる物語です。

育ててくれた「ママ」と、産んでくれた「お母さん」という二人の母をもつ、主人公「宙(そら)」。宙が小学校に入るタイミングで、「ママ」は夫の海外赴任で引越しすることに。宙は日本に残ることを決め、「お母さん」と二人暮らしをはじめることになります。

待っていたのは、ごはんも作らず、宙の世話もしない、授業参観には来ないのに恋人とのデートには行く、そんな「お母さん」との生活。代わりにごはんを作ってくれたのは、商店街のビストロで働く「お母さん」の中学時代の後輩、佐伯という男性です。彼は、毎日のごはんを用意してくれて、話し相手にもなってくれました。

そんなある日、「お母さん」との生活に耐えきれず家を飛び出した宙に佐伯が作ってくれたのが、とっておきのふわふわのパンケーキ。そしてレシピまで教えてもらった宙は、その日から佐伯が教えてくれるレシピをノートに書きとめつづけますーーー。

「ほこほこにゅうめん」、「きのこのとろとろポタージュ」「ぱらぱらレタス卵チャーハン」など、ごはんをテーマにした第5話で構成された本作品。

「トラブルをどう乗り越えていくか、誰かの人生にどう寄り添っていくか。“幸せだったはずなのに、なんでだよ!”という状況の中でも、滋味を感じられるごはんのことが書きたかったんです」という町田氏。(小説丸・本書『宙ごはん』著書インタビューより)

ただただやさしくて温かいだけでは終わらない、人間の本質、奥の奥を多面的に捉えて描かれた登場人物たちも印象的。痛みを感じるときにこそ際立つ、誰かが作ってくれた温かくておいしいごはんの味わい。

それを知っている人間は、何度でも前を向いて歩いていける。そう感じ、そして、パンケーキを食べよう!と思う。少し捻れた心の紐を、ゆっくりと解きほぐしてくれる、そんな作品です。

<書籍情報>

『宙ごはん』
著:町田そのこ
定価:¥1,760(税込)
発行元:株式会社小学館
ページ数:四六判368頁
ストーリー:宙には、育ててくれている『ママ』と産んでくれた『お母さん』がいる。厳しいときもあるけれど愛情いっぱいで接してくれるママ・風海と、イラストレーターとして活躍し、大人らしくなさが魅力的なお母さん・花野だ。二人の母がいるのは「さいこーにしあわせ」だった。宙が小学校に上がるとき、夫の海外赴任に同行する風海のもとを離れ、花野と暮らし始める。待っていたのは、ごはんも作らず子どもの世話もしない、授業参観には来ないのに恋人とデートに行く母親との生活だった。代わりに手を差し伸べてくれたのは、商店街のビストロで働く佐伯だ。花野の中学時代の後輩の佐伯は、毎日のごはんを用意してくれて、話し相手にもなってくれた。ある日、花野への不満を溜め、堪えられなくなって家を飛び出した宙に、佐伯はとっておきのパンケーキを作ってくれ、レシピまで教えてくれた。その日から、宙は教わったレシピをノートに書きとめつづけた。


下記の本作の特設サイトでは、本格的なスペシャルムービーも公開されています。ぜひ併せて楽しんでみてください。

『宙ごはん』ご購入はこちらから

町田そのこさん
(まちだ そのこ)1980年生まれ。福岡県在住。2016年「カメルーンの青い魚」で第15回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。17年、同作を含む短編集『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』でデビュー。『52ヘルツのクジラたち』で2021年本屋大賞を受賞。著書に『ぎょらん』『うつくしが丘の不幸の家』『星を掬う』、「コンビニ兄弟」シリーズなどがある。  
この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
池尾園子
TAGS: