長い歴史を誇る日本の温泉文化において、近年はただ伝統を受け継ぐだけでなく、そこにコンテンポラリーな要素を融合した個性的な湯宿が続々とオープンしています。老舗旅館の鄙びた風情も味わい深い一方、建築家が手掛けたスタイリッシュな空間も気分が上がるものです。

そこで、温泉で日頃の疲れを癒すと共に、趣に満ちた建築美に触れて感性まで磨かれそうな湯宿を、温泉ジャーナリストの植竹深雪さんにピックアップしてもらいました。今回ご紹介するのは、神奈川県足柄下郡・湯河原温泉にある「三輪 湯河原」です。

植竹深雪さん
温泉ジャーナリスト
(うえたけ みゆき)全国各地の2500スポット以上を巡っている温泉愛好家。フリーアナウンサー、温泉ジャーナリストとして、テレビ番組をはじめ、さまざまなメディアで活躍中。著書に『からだがよろこぶ! ぬる湯温泉ナビ』(辰巳出版)がある。
公式サイト

モダン建築と自然が融合した湯宿で非日常ステイを実現

東京駅から約1時間。関東で最も古い温泉地のひとつである湯河原温泉には、多彩な湯宿が点在しますが、なかでもひときわ強い存在感を発揮しているのが今回ご紹介する「三輪 湯河原」。JR湯河原駅より車で10分弱の緑豊かな高台に佇む建物は、温泉旅館というより、まるでアートミュージアムかのよう。

「老舗の風格漂う湯宿が立ち並ぶ湯河原にて、『三輪 湯河原』は外観からしてインパクト大。黒い壁面に金のエントランスというスタイリッシュな建物は圧巻で、別世界を訪れたような旅の非日常気分が盛り上がります」(植竹さん)

まるで美術館のようなエントランス。設計は内田デザイン研究所。(C)Kenzo Kosuge
まるで美術館のようなエントランス。設計は内田デザイン研究所。(C)Kenzo Kosuge

「金色のエントランスから館内に一歩足を踏み入れると空気がまた一変。建物外観は黒を基調とした厳かな佇まいであるのに対し、館内は大きな窓から自然光が差し込み、木のぬくもりを感じられる柔らかな雰囲気で、そのコントラストも素敵です」(植竹さん)

眺めもよくほっと寛げるロビー。(C)Kenzo Kosuge
眺めもよくほっと寛げるロビー。(C)Kenzo Kosuge
水盤とバーカウンターからの眺め。(C)Kenzo Kosuge
水盤とバーカウンターからの眺め。(C)Kenzo Kosuge

「ロビーに併設するバーカウンターも見どころのひとつ。手前に設置されている6m×2mの水盤は、天井から落ちてくる水滴が水音を奏でると共に、水面に波紋を描き、目と耳の両方を楽しませてくれます。そして、バーカウンターは正面がガラス張りで森のパノラマビューが広がる絶景スポット。スタイリッシュな館内にいながら自然と一体化するような不思議な感覚に浸れるのが『三輪 湯河原』ならではです」(植竹さん)

日中とはまた違った表情を見せるバーカウンター。(C)Kenzo Kosuge
日中とはまた違った表情を見せるバーカウンター。(C)Kenzo Kosuge

全室に露天風呂付き!大人のための上質空間で心ゆくまで寛ぐ

全17室の客室のタイプは「木立のツイン」、「山水のツイン」、「三輪のスイート」の3つ。まず、「木立のツイン」、「山水のツイン」は、それぞれ40平米ほどの広さがあり、ソファやベッドなどの家具は手触りや心地よさにこだわったものばかり。大きな窓からは湯河原の自然を望むことができ、リラックス時間を提供してくれます。

「木立のツイン」の室内。(C)Kenzo Kosuge
「木立のツイン」の室内。(C)Kenzo Kosuge

「『三輪 湯河原』は小学生以下は宿泊不可ということもあり、静かな落ち着いた空間で心身を癒したい人にぴったりです。そして、何と言っても全室に湯河原温泉かけ流しの露天風呂付きで、誰にも邪魔されずに好きなときに湯浴みできるのが最高。泉質は三大美人の湯のひとつとされる硫酸塩泉で、美肌にもしっかり導いてくれます。

ちなみに、ここの露天風呂では湯温の調整ができるシステムが完備されているのが特徴的。そのときの季節、時間帯、気分に応じてお好みの湯温にできるのは、かゆいところに手が届くサービスだと思います。ここにも、大人の上質な休日を追求するお宿の精神が感じられました」(植竹さん)

「山水のツイン」の露天風呂。(C)Kenzo Kosuge
「山水のツイン」の露天風呂。(C)Kenzo Kosuge

そして、「三輪のスイート」は、建物最上階の角部屋に設けられた一室限りの特別ルーム。寝室とリビングスペース、客室露天風呂で構成され80平米の広さがあります。照明デザイナーのコーディネートによる柔らかな光に包まれた空間は、日常の煩わしさを忘れて、心身の疲れを解きほぐすのにもってこい。また、露天風呂の浴槽はこの部屋のためだけに焼き上げた釉薬タイルを用いた特別仕様で、湯河原の鹿や草花をイメージしたという絵付けがアーティスティックです。

三輪のスイートの露天風呂。(C)Kenzo Kosuge
三輪のスイートの露天風呂。(C)Kenzo Kosuge
浴槽に使われている釉薬タイル
浴槽に使われている釉薬タイル。(C)Kenzo Kosuge
アメニティはナチュラルスキンケアブランド「THANN」製
アメニティは「THANN」製。(C)Kenzo Kosuge

自然を感じられる空間で創作イタリアンに舌鼓

天井でシルクの布が波打つのがユニーク
天井でシルクの布が波打つのがユニーク。(C)Kenzo Kosuge

「三輪 湯河原」は、レストランもモダンでおしゃれ。客室数17に対し、レストランは40席とゆとりがあるうえ、チェアの大きな背もたれが仕切りのようになって、個室感覚で食事を楽しむことができます。そして、天井からシルクの布が波打つようにかかっているのが独創的。風の動きを視覚化したアートで、季節や時間帯による光の加減で見え方が異なるなど、自然との一体感を重視するお宿のコンセプトが食事処でも見事に表現されています。

精緻な創作イタリアンは目でも楽しめる
精緻な創作イタリアンは目でも楽しめる。(C)Arigato Design Consulting

「印象に残っているのは、竹炭を練り込んだという真っ黒なパン。しっとりした食感で、オリーブオイルとの相性が抜群でした。そのほか、シェフが目の前でトリュフを削ってくれる芳醇なトリュフご飯、お夜食としていただいた木箱入りの押し寿司など、食事もひとつひとつのメニューが五感で味わえるように細部まで趣向が凝らされています」(植竹さん)

植竹さん推しの竹炭を練り込んだパンは、残念ながら現在は提供を終了しているとのことですが、「三輪 湯河原」では、地元湯河原の旬の食材をふんだんに用いた和とイタリアンの創作コースを味わえます。メニューは月毎に変わりますので、詳細は事前にご確認を。

芳醇な香りがたまらないトリュフご飯
芳醇なトリュフご飯。(C)Arigato Design Consulting
女子旅プラン限定の「特製デザート」も好評
女子旅プラン限定デザート。(C)Arigato Design Consulting

以上、「三輪 湯河原」をご紹介しました。スタイリッシュな空間で湯河原の自然を感じながら、心身をリフレッシュさせたい人は、次の旅先候補のひとつに加えてみてはいかがでしょうか。

※外出時には新型コロナウィルスの感染対策を十分に講じ、最新情報は公式HPなどでご確認ください。

問い合わせ先

  • 三輪 湯河原
  • 住所/神奈川県足柄下郡湯河原町宮上206
  • 客室数/全17室
  • 料金/1名 ¥35,000〜(税・サービス料込、入湯税別) 
  • TEL:0465-46-6111

WRITING :
中田綾美
EDIT :
谷 花生