ハイジュエリーコレクションに秘められた「カルティエ」の歴史的デザインコードを読み解く

「カルティエ」のハイジュエリーコレクション『シジエム サンス パル カルティエ』─その驚きに満ちたクリエイションにひそむメゾンのデザインコードを、コレクションの作品を例に解説。創業から170年以上にわたる、創造の歴史と共にひもといてみましょう。

デザイン、配色、細工のいずれにも物語が秘められている「カルティエ」のクリエイション。だからこそ、私たちはその輝きに特別な思いを抱くのです。

Code1:タイガー、パンテール─様式化されたアニマルモチーフ

「カルティエ」の自然主義の伝統を継承する動物モチーフ。なかでもパンテールとタイガーはメゾンを象徴する特別なものにほかなりません。1910年代、女性用腕時計を飾るパターンとして誕生したパンテールは、1930年代に立体的な姿に。一方、タイガーは写実的なモチーフとして登場し、のちにパターン化されました。

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リング¥103,620,000/参考価格[WG×サファイア(センター16.32ct)×ダイヤモンド×オニキス](カルティエ) Maxime Govet(C)Cartier

ホワイトタイガーの姿が様式化されて、縞模様のモダンなパターンに。オニキスを使った縞の周りには、精緻な金細工の技巧で毛並みが再現されている。中央のサファイアは、個性的なシュガーローフカット。

Code2:ロシアバレエの影響から生まれた鮮麗なピーコックパターン

1910年代、セルゲイ・ディアギレフ率いるバレエリュス(ロシアバレエ)の公演に、パリの人々は熱狂。舞台を覆った大胆な色彩や異国趣味は「カルティエ」の宝飾芸術にも影響を与えました。それまで悪趣味とされた青と緑の配色は、「ピーコックパターン」として洗練を極め、メゾンの新たなカラーパレットとなったのです。

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リング¥118,140,000/参考価格[WG×サファイア(センター7.89ct)×エメラルド×ダイヤモンド](カルティエ)(C)Cartier

構築的なデザインのリングを華麗に彩る「ピーコックパターン」。デザインに合わせて惜しみなくカスタムカットされたキューブ状のエメラルドとダイヤモンドが、鮮麗なブルーの光彩を放つサファイアを取り巻く。

Code3:レアダイヤモンドをはじめとする世界中の希少な宝石を主役に

宝飾史に名を残すダイヤモンドを数多く扱ってきた「カルティエ」。現在、アメリカのスミソニアン博物館に収蔵されている伝説のブルーダイヤモンド「ホープ」も、1910年に「カルティエ」が購入し、世に送り出しました。そうした伝統は今も受け継がれ、メゾンには希少なカラーダイヤモンドのコレクションが充実しています。

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リング¥493,680,000/参考価格[WG×ブルーダイヤモンド1.18ct×ダイヤモンド](カルティエ)

多彩なカットのダイヤモンドを組み合わせた壮麗なリング。中央のブルーダイヤモンドは、色の最高ランクを示す「ファンシービビッドブルー」。ペアシェイプのミクストカットが、色と輝きの絶妙なバランスを生み出す。

Code4:常識や価値にとらわれない革新的な宝石のコンビネーション

「カルティエ」はアールデコ様式に異国趣味を融合し、世に先駆けてハイジュエリーにオニキス、コーラル、翡翠、ターコイズなどの天然石を取り入れてきました。ダイヤモンドやエメラルドなどのプレシャスストーンと一見不釣り合いに思えるコンビネーションは、常識にとらわれないメゾンの革新性の証でもあったのです。

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イヤリング[PT×エメラルド×ターコイズ×ダイヤモンド]¥71,940,000/参考価格(カルティエ) Maxime Govet(C)Cartier

エメラルドとダイヤモンドの王道のコンビネーションにターコイズを加えることで、デザインが軽やかに。また、直線と曲線、ビーズとスタッズのリズミカルなコントラストが、視覚効果によってデザインに躍動感をもたらす。

Code5:宝石の新たな魅力を引き出す独創的なカットとセッティング技術

19世紀後半、プラチナという宝飾界にとって未知の素材に初めて挑んだ歴史をもつ「カルティエ」。ハイジュエリー制作においても、新しい素材や技巧を積極的に取り入れてきました。例えば、研磨技術の進歩によって宝石のカットは驚くほど多彩に…。それに伴い、ジェムセッティングの技術も飛躍的に進化を遂げています。

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イヤリング[WG×YG×イエローダイヤモンド×ダイヤモンド]参考商品(カルティエ) Maxime Govet(C)Cartier

左右のイヤリング、それぞれの中央にセッティングされたダイヤモンドは、個性的な形状が魅力のロゼンジシェイプ(菱形)。ファセットをつけない非常に珍しいカットが施されている。その上のビーズの宝石はイエローダイヤモンド。

Code6:「アールデコの先駆者」ならではの一歩先をゆく幾何学的デザイン

“アールデコの先駆者”と評された「カルティエ」は1920年代、まだ多くのジュエラーが直線で構成されたデザインを発表していた頃、すでに曲線を取り入れた幾何学パターンを追求していました。連続する曲線から生まれるコンテンポラリーでいて優美なデザインは、色彩のリズムや効果までも考慮され、さらなる次元へ。

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イヤリング¥57,288,000/参考価格[PT×ルビー×ダイヤモンド](カルティエ)Maxime Govet(C)Cartier

大胆に、ルビーを半月形にカット! ラインの美しさが際立つ幾何学的なデザインは、半円を等間隔で連ねることで回転しているかのような錯覚を起こさせる。左右のイヤリングの宝石の配置は、ヨーロッパ宝飾の伝統を継承してアシメトリーに。

 

※掲載した商品の価格は、すべて税込みです。

※文中の表記は、PT=プラチナ、WG=ホワイトゴールド、YG=イエローゴールドを表します。

問い合わせ先

カルティエ カスタマー サービスセンター

TEL:0120-301-757

PHOTO :
唐澤光也(RED POINT)
EDIT&WRITING :
福田詞子(英国宝石学協会 FGA)