ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』の上演間近の小池徹平さんに、オンラインでお話をうかがった後編。柔らかな表情で穏やかにコメントしてくれた小池さん。今回の上演に際して、決断するきっかけが必要だったことも明かしてくれました。
キャスト同士で“想い”をシェアしあったとき、心がぶわーっとあたたかくなりました
―2022年版の『キンキーブーツ』上演にあたって、小池さんが3回目をやろうと判断したきっかけになった出来事があったとお聞きしました。
「はい。3回目を予定通り上演したいというお話をプロデューサーから最初にうかがったのは、まだコロナ禍のさなかでした。そのときは世の中的にも、自分の気持ち的にも、判断することは難しいと感じました。僕たちカンパニーがすごく愛した作品ですが、どうしたっていろいろなことが頭をよぎります。まず、この状況下で来てくださる方が楽しめる公演が実現できるのかどうか。はたして同じメンバーが集まってくれるのかどうか。これまで一緒につくりあげてきたものを、あいつをぬきにしてできるものなのかどうか、など。根本的なところが自分では見えない、そんな感じでした。
そこで、プロデューサーの想いを1対1でじっくりとうかがいました。そこから時間の経過を経ながら、自分の中でも少しづつ考えが整理されるようになり、前を向けるようになり、上を向けるようになりました。この作品がここで終わってしまうのはもったいない。この舞台はやはり受け継がれていくべきものであるし、そのことは(日本初演・再演でローラを演じた三浦)春馬自身が強く望んでいたことでもありました。
プロデューサーの熱い想いを受けながら、まず僕が動かなければ誰も動いてくれないだろうと思い、考えた末にやってみようと判断しました。次に思いをめぐらせたのは、上演に参加するキャスト全員が、それぞれ自分で乗り越えなければならないものがあることでした。僕が見えない圧になってはいけないので、自分から「やろうよ」という言葉は言わないと決めました。キャストひとりひとりが自分で判断して選択することが何よりも大切だと。そうでなければこの舞台を乗り切ることは難しいと考えたのです。自分自身は、一度やると決めたからには誰が参加しようとしまいと“絶対に最高の舞台にするんだ”という想いだけは絶対にぶれてはいけないと思っていました。しかし、いざフタを開けてみたらみんな集まってくれたんですよ、オリジナルキャストたちが。想いは同じでした。そのことが非常にうれしかったです。
顔合わせの初日は、キャストみんなで“自分はこういう想いでここにいます”と、今の気持ちを話してシェアしあいました。そのとき、なんてあたたかくて家族みたいなチームなんだろうと思ったんです。それこそ『キンキーブーツ』の物語のように、ほかの人の多様な想いを自分の中に受け入れながら、新たな道を切り開いていく。そんな一歩を踏み出すことができて本当に良かったと思っています。今まで皆で集まって話し合う場もつくれなかったので、みんなの気持ちを知ることができたことにものすごくほっとしました。心の中が、一気にぶわーっとあたためられた思いがしました」
ミュージカルは歌が命。チャーリーの想いを乗せて歌っています
―小池さんがミュージカルで大切にされていることを教えてください。
「歌詞やセリフが、きちんと聞こえるように歌うことですね。もちろん上手に歌うことも大切ではあるのですが、やっぱり歌詞が聞きとれないと、お客様をおいてけぼりにしてしまうことになってしまいます。ミュージカルの歌はセリフの役目もありますから、しっかりと伝えきる意識をもって歌うことを大切にしています」
―『キンキーブーツ』の楽曲には、シンディ・ローパーさんによる魅力的なナンバーがそろっています。おすすめの曲があったら、ぜひ教えてください。
「全部好きなので、どれかひとつを選ぶとなると非常に難しいですね。自分で歌う曲だったら、チャーリーの葛藤する胸のうちを歌った「Soul of a Man」がすごく好きだし、ローラなら「Hold Me in Your Heart」がむちゃくちゃイイです。歌に気持ちを込めて自分の想いを吐き出す。この2曲はチャーリーやローラが自分の気持ちを歌い上げる見どころのひとつでもあると思いますので、ぜひ注目してみてください。歌唱指導の福井さんにも “(城田さんとの)声の相性も良いね”と言ってもらえていますので、どうぞお楽しみに」
舞台『キンキ―ブーツ』10月1日より再々上演!
ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』 英国の田舎町ノーサンプトンにある老舗靴工場の4代目として生まれたチャーリー。フィアンセとロンドンで生活しようとしていた矢先に父が急死し、家業を継ぐことになった彼は、工場が倒産寸前であることを知り……。
脚本/ハーヴェイ・ファイアスタイン 音楽・作詞/シンディ・ローパー 演出・振付/ジェリー・ミッチェル
日本版演出協力・上演台本/岸谷五朗 訳詞/森雪之丞
出演/小池徹平、城田優、ソニン、玉置成実、勝矢、ひのあらた ほか
10月1日~11月3日/東京・東急シアターオーブ 11月10日~20日/大阪・オリックス劇場
- PHOTO :
- トヨダリョウ
- STYLIST :
- 松下洋介
- HAIR MAKE :
- 加藤ゆい
- WRITING :
- 谷畑まゆみ