気になるあの人は、「マニッシュファム」

 

ときに女らしさをも引き立てる、メンズアイテムを取り入れたマニッシュファムは、もはや大人の女性たちの定番に。ここでは、その装いをさらに洒脱に格上げさせるため、長い時間を経て進化したそのスタイルの軌跡をたどります。


マニッシュファムを切り拓いたパイオニアたち|【1930 ’s】マニッシュファムの系譜は彼女から始まる

Marlene Dietrich(マレーネ・ディートリッヒ)
Marlene Dietrich(マレーネ・ディートリッヒ)

名作映画『モロッコ』で華麗なタキシードスタイルを見せた元祖「男装の麗人」は、銀幕の外でも紳士用のグレースーツを颯爽と着こなし、手袋や靴などの小物までもが完璧。写真はハリウッドの一角で、1933年にスナップされたもの。

【1967】Yves Saint Laurent(イヴ サンローラン)|女性のための“スモーキング”を発明

イヴ  サンローランの「スモーキング」ルック
 

イヴ・サンローランの名を歴史に刻むルックとなった「スモーキング」。男性的な装いが女性らしさを如実に際立たせることを証明してみせた革命的なスタイル。

【1981】Ralph Lauren(ラルフ ローレン)|ジェンツの伝統をたおやかにフェミナイズ

ラルフ ローレンのカントリールック
 

アメリカ東部のエスタブリッシュメントが憧れる英国スタイルを、カントリーやプレッピールックで表現。ツイードやフランネルなどの紳士用素材を多く用いたことも斬新。

【1990】Giorgio Armani(ジョルジオ アルマーニ)|ソフトスーツで性差を超えたモードの帝王

ジョルジオ アルマーニのスーツスタイル
 

紳士用のスーツを完璧なカットで再構築することで、男女の性差の融合をも果たしたアルマーニ。アンコン、グレージュといった現代に連なる普遍性も、1990年代にはほぼ完成形に。

【2022】進化系マニッシュファムは“凛としてノンシャラン”

Caroline de Maigret(カロリーヌ・ド・メグレ)
Caroline de Maigret(カロリーヌ・ド・メグレ)

現代のマニッシュファムは「気負わない」のがポイント。テーラードコートは、ボーイフレンドのクローゼットから拝借してきたようなオーバーサイズ。全体を淡いトーンでまとめ、小物でパンチを効かせる着こなしはまさに達人級。


女性の権利と選択の自由で勝ち取った「男前」な装い

身にまとった瞬間に背筋が伸びるパンツスーツ、スポーティなハンティングジャケットやミリタリーブルゾンなど、メンズ由来のアイテムはスタイリングに絶妙なアクセントを添える立役者です。ワードローブの常連であるそれらのアイテムが、つい100年前までは「女性が着るなどありえない」と見なされていたとは、今ではとても信じられないこと。

女性がパンツをはくことが法律で禁じられた1800年代フランスでは、パンツは男性の権力的シンボルであり、社会・道徳的に男女の性を分けるためものでした。そんななか、慣例を打破するきっかけとなったのが、ジャケットとパンツ姿で権利の平等を訴えた作家のジョルジュ・サンドや、銀幕で華麗な男装を披露したマレーネ・ディートリッヒといった、先駆者たちの勇気ある第一歩です。

その後、二度の世界大戦下での労働力の必要性と共に女性のパンツスタイルは容認されていくものの、それはあくまで実用性を重んじてのことでした。その殻を破り、女性のためのパンツスタイルを発表したのが、若き日のイヴ・サンローランです。1967年に発表したタキシードルック「スモーキング」は、ハンサムなパンツスーツがエレガントな女性らしさをいっそう際立たせることを証明してみせた革新的なルックとして支持され、マニッシュなスタイルに市民権を与えました。

そして1980年代には、ジョルジオ・アルマーニが柔らかく再構築した男性用スーツを女性にも着せることで一大ブームを巻き起こし、同時期のラルフ・ローレンもまた、女性がハンティングジャケットやブレザーを着こなすマニッシュルックで、ファッションの多様性を拡大。その後の1990年代のミニマリズム全盛期、ジル・サンダーが洗練されたシルエットでマニッシュスタイルをアップデートし、強くモダンで美しいハンサムウーマンなスタイルを普遍的なものとして定着させました。

メンズアイテムが定番となった現代は、ジェンダーフリーやオーバーサイズといったトレンドの後押しもあり、着こなしも多種多様に進化しています。現代のマニッシュファムが強く輝いて見えるのは、女性の権利と選択の自由が勝ち取ったリアルなスタイルであるからこそなのです。

PHOTO :
Getty Images
EDIT&WRITING :
畠山里子、安村 徹(Precious)
参考文献 :
『FASHIONー20世紀のファッションデザイナー』シャルロッテ・ゼーリング著 クーネマン出版社、『ジョルジオ・アルマーニ 帝王の美学』レナータ・モルホ著 目時能理子・関口英子訳 日本経済新聞出版社、『イヴ・サンローラン 喝采と孤独の間で』アリス・ローソーン著 深井晃子監訳 日之出出版、『永遠のマレーネ・ディートリッヒ』和久本みさ子編著 河出書房新社