作家・吉本ばななさんが手がけた初のファンタジー小説、『吹上奇譚 第一話 ミミとこだち』。そのオリジナリティーあふれる世界観や、作品を通して読者に「伝えたいこと」について、吉本さんにお話を伺いました。

井戸の深いところから汲み上げてきた言葉が、心にじわりとしみ込んでくる

吉本ばななさんの小説『吹上奇譚 第一話 ミミとこだち』。

「かつて異世界に通じていた吹上町」を舞台に、「体を分解してまた戻す」、「死人が動く」なんてことが起こる、吉本さん初のファンタジー小説です。主人公は、失踪した双子の妹を探すため、一度は逃げるように出た故郷、吹上町に戻ったミミ。住人たちと関わっていくなかで、彼女を縛っていた悲しい記憶が癒やされていく、という物語。

「自分にはわかるのに、人にはうまく伝えられないこと。なんだかわからないけれど『嫌だ』と感じること。コンプレックスや、心の中で押し殺しているプレッシャーから、読者が解放されることが、私の望みです。ミミも、少しずつ枠を外していくことで、元気になった。きっと、見た目も魅力的に変わったはずです」と、吉本さん。

吉本ばななさん©丸山涼子
吉本ばななさん©丸山涼子

時代も、年齢も、性別も、国籍も超えて、吉本さんの小説が愛されるのは、なぜなのだろう。

「人は、表面的には、個性も、善悪などの概念も違いますが、深いところまで行けば共通の場所がある、と私は思っていて。“井戸”から共通するものを汲み上げ、伝わるように翻訳をするのが、私の特技なんです」と、吉本さんは語ります。

『キッチン』で作家デビューしてから30年。でも、「言葉で伝える」方法は、ものを書き始めた3歳のころから、ずっと考えてきたのだといいます。その50年のキャリアの結晶が、この、「読んだ人の心に命の水のようにしみ込む」特別な物語。緻密に紡がれた言葉は、音楽のように潜在意識に刻まれて、ふとしたときに、はっとさせられる。まるで魔法のように。

作家、吉本ばななにとって、『吹上奇譚』は大きな起点となるに違いない連作小説。今から、第二話が待ち遠しくなるような作品です。

吉本ばななさん
作家
(よしもと ばなな)1964年生まれ。’87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版され、受賞も多数。noteにてメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」を配信中。

『吹上奇譚 第一話 ミミとこだち』

著=吉本ばなな 幻冬舎 ¥1,500(税抜)
著=吉本ばなな 幻冬舎 ¥1,500(税抜)
STORY
双子の姉妹、ミミとこだち。事故で父を亡くし、母は眠り病になってしまった。ふたりは生まれ育った吹上町を出たが、ある日、こだちが失踪。ミミも故郷に戻って、さまざまな秘密と向き合っていく。
PHOTO :
丸山涼子
EDIT&WRITING :
海渡理恵・剣持亜弥(HATSU)
RECONSTRUCT :
難波寛彦
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