作家・吉本ばななさんが手がけた初のファンタジー小説、『吹上奇譚 第一話 ミミとこだち』。そのオリジナリティーあふれる世界観や、作品を通して読者に「伝えたいこと」について、吉本さんにお話を伺いました。
井戸の深いところから汲み上げてきた言葉が、心にじわりとしみ込んでくる
吉本ばななさんの小説『吹上奇譚 第一話 ミミとこだち』。
「かつて異世界に通じていた吹上町」を舞台に、「体を分解してまた戻す」、「死人が動く」なんてことが起こる、吉本さん初のファンタジー小説です。主人公は、失踪した双子の妹を探すため、一度は逃げるように出た故郷、吹上町に戻ったミミ。住人たちと関わっていくなかで、彼女を縛っていた悲しい記憶が癒やされていく、という物語。
「自分にはわかるのに、人にはうまく伝えられないこと。なんだかわからないけれど『嫌だ』と感じること。コンプレックスや、心の中で押し殺しているプレッシャーから、読者が解放されることが、私の望みです。ミミも、少しずつ枠を外していくことで、元気になった。きっと、見た目も魅力的に変わったはずです」と、吉本さん。
時代も、年齢も、性別も、国籍も超えて、吉本さんの小説が愛されるのは、なぜなのだろう。
「人は、表面的には、個性も、善悪などの概念も違いますが、深いところまで行けば共通の場所がある、と私は思っていて。“井戸”から共通するものを汲み上げ、伝わるように翻訳をするのが、私の特技なんです」と、吉本さんは語ります。
『キッチン』で作家デビューしてから30年。でも、「言葉で伝える」方法は、ものを書き始めた3歳のころから、ずっと考えてきたのだといいます。その50年のキャリアの結晶が、この、「読んだ人の心に命の水のようにしみ込む」特別な物語。緻密に紡がれた言葉は、音楽のように潜在意識に刻まれて、ふとしたときに、はっとさせられる。まるで魔法のように。
作家、吉本ばななにとって、『吹上奇譚』は大きな起点となるに違いない連作小説。今から、第二話が待ち遠しくなるような作品です。
『吹上奇譚 第一話 ミミとこだち』
- PHOTO :
- 丸山涼子
- EDIT&WRITING :
- 海渡理恵・剣持亜弥(HATSU)
- RECONSTRUCT :
- 難波寛彦