ようやく自由に海外旅行が楽しめるようになった今、旅慣れた達人たちの「空港スタイル」が気になります。長いフライトに耐えうる心地よさはもちろんのこと、ラウンジで浮かない華やぎや今の時代にふさわしい軽やかさも必要不可欠。
雑誌『Precious』7月号では【大人のための「空港ラグジュアリー」】と題し、世界を飛び回るジェットセッターをお手本に、その理想形にフォーカスしました。今回はその中から、漫画家のヤマザキ マリさんによる空港を舞台にしたエッセイをご紹介。併せて、「ボッテガ・ヴェネタ」のウエアを中心とした空港スタイルもお届けします。
「トランジットとダイヤモンド」ヤマザキ マリ・文
今から20年程前、シリアのダマスカスに留学していた夫を訪れたあと、日本へ戻るのにトランジットをしたのがドバイの空港だった。東京行きのフライトを待つ決して短くはない時間をどう潰そうかと、煌びやかなドバイ国際空港の中を歩き回ったが、疲れてしまったので東京行きのゲートの椅子に落ち着き、本を読みながら時間を潰すことにした。
突然私にひとりの男性が流暢な英語で声をかけてきた。シリアの人で、ダマスカスからドバイまで私と一緒の飛行機だったという。男性はおもむろに「カナダでの留学中に出会った日本人女性に、これからプロポーズをしに行くのですが」と切り出した。「婚約指輪を見ていただきたいのです。日本人女性の好みがわからなくて」と、男性は背広のポケットから深紅の小箱を取り出し、蓋を開いて私に差し出した。中にはダイヤが散りばめられたパヴェのリングが収まっていた。アラブの大富豪の奥様が付けているようなゴージャスさで、一般的な若い日本人女性の嗜好とは言い難い。しかし、心配そうな面持ちの男性に対して本心を告げることができず「綺麗!」とだけ反応した。男性の表情はたちまち明るくなり、私はいたく感謝された。
それからしばらくして、ダマスカス滞在中の私にあの男性から電話があった。プロポーズした女性とめでたく結婚できたので妻に会ってほしいという。指定された市内のレストランへ足を運ぶと、ドバイの空港では悩まし気な様子だった男性が、すっかり自信溢れる様子で私たち夫婦を迎えてくれた。紹介された日本人女性は、結婚のために潔く仕事を辞め、ダマスカスに越してきたばかりだという。シリアでの暮らしがどうなるか見当もつかないが「彼の勇気と、この指輪に感動したんです」と答える女性の左手の薬指に光るパヴェのリングは、思いがけない自分の運命を全身全霊で受け入れた力強い彼女の雰囲気に、すでに難なく溶け込んでいた。
そして、搭乗の最終アナウンスが…。
肩の凝らないニットジャケットは、淡いグリーンとイエローのメランジ状の質感が印象的。クロップド丈のTシャツと合わせ、今年らしいバランスで軽やかに着こなしたい。
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
問い合わせ先
- ボッテガ・ヴェネタ ジャパン TEL:0120-60-1966
- ケリング アイウエア ジャパン カスタマーサービス TEL:0800-600-5024
- グローブ・トロッター 銀座 TEL:03-6161-1897
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- PHOTO :
- 曽根将樹 (PEACE MONKEY)
- STYLIST :
- 大西真理子
- HAIR MAKE :
- 野田智子
- MODEL :
- 立野リカ(Precious専属)
- WRITING :
- ヤマザキ マリ
- EDIT&WRITING :
- 竹市莉子(HATSU)、兼信実加子、喜多容子(Precious)