朝を丁寧に過ごすと、心が整い、それが余裕へとつながっておしゃれも暮らしも磨かれていくもの。だからこの夏は、もっと朝の心地よさを楽しみたい。雑誌『Precious』8月号では、特集「夏こそ堪能したい『朝のエレガンス』という贅沢」を展開。朝露や澄んだ光、涼しい風…マインドフルネスに朝の美しさを慈しんで。
生活と心の変化を経て、「朝」はいっそう愛おしい時間に──静謐で澄んだ空気の中、心地よくまとい過ごして、新たな美しさに出合う。
本記事では、俳優・鈴木保奈美さんによる「朝のエレガンス」に関する書き下ろしエッセイをご紹介します。
「待ち遠しい朝」(文・鈴木保奈美)
朝の待ち遠しさには二種類ある。
遠足の日の子供のように、
嬉しくて目が覚めてしまう朝。
新たな仕事が始まるとか、楽しみな旅に出かけるとか、
親しい人に会える予定があるとか。
朝食用に、とびきり美味しいコーヒー豆と
見目麗しいクロワッサンを買ってあるとか。
昨夜までに膨らんでいた朝顔の蕾が、
きっと開いているに違いない、
たったそれだけのことでも、
早く一日を始めたくてそわそわしてしまう、
そんな待ち遠しさ。
もう一種類は、
眠れぬ夜を終わらせてくれる朝への渇望だ。
来るべき困難への不安や自信のなさや、
犯したミスへの後悔に苛まれる夜は、長い。
部屋のあかりを点していても、夜はなお暗い。
二度とこの闇から抜け出せないのではないか。
せめて、せめて朝が来れば。
そうして東の空が赤紫色に光り始め、
鳥の囀さえずりが聞こえてくると、
ああ、まだ大丈夫そうだ、誰にも朝は来るのだ、と、
水面に顔を出したように息ができて、
谷川俊太郎を口ずさんでみたりする。
清々しく浮き立つ朝を迎えたいなら、
心と体を健やかに整えることだ。
その方法を、わたしは随分と学んできた。
かなりの確率で上手にできるくらいにわたしは大人だ。
こんな時、大人っていいなと思う。なのに。
あまりに穏やかに健康的だと退屈に感じることがある。
あの、焦り、怯え、悶々とした夜。
隈のできた目で白白と明けていく空を眺めるのも、
ちょっといい。
ないものねだりの、あまのじゃく。
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
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- PHOTO :
- 浅井佳代子
- STYLIST :
- 押田比呂美(ファッション)、来住昌美(インテリア)
- HAIR MAKE :
- 三澤公幸(Perle)
- MODEL :
- 太田莉菜
- EDIT&WRITING :
- 川村有布子、遠藤智子(Precious)