俳優・伊藤英明さん
シャツ¥880,000・Tシャツ¥57,200・パンツ¥862,400・靴¥187,000(ボッテガ・ヴェネタ ジャパン〈ボッテガ・ヴェネタ〉) その他/スタイリスト私物
伊藤英明さん
俳優
いとう・ひであき/1975年岐阜県生まれ。1997年にドラマ『デッサン』で俳優デビュー。2000年に『YASHA―夜叉―』でドラマ初主演、同年に『Blister』で映画初主演とキャリアを重ねる。そして、2004年主演映画『海猿 ウミザル』が大ヒットしシリーズ化。テレビドラマなども話題に。以降、話題作への出演を続け、最近は2023年『レジェンド&バタフライ』に出演。海外作品には2021年『エイジ・オブ・サムライ:天下統一への戦い』(Netflix)などがある。岐阜県応援大使に就任。9月2日より自ら企画・演出・出演するバラエティ『岐阜英明』(ぎふチャン)が放送開始予定。
公式サイト公式SNS

「強い苦手意識のある舞台。自分の中では乗り越えていない壁」(伊藤英明さん)

「今と若い頃の大きな違いは、自分の心の置き方だと思います。かつては自分のやりたいこと、や思うことを前に押し出していました。そして、目的が叶うと満足感を覚えていたんですよね。でも、年齢を重ねるにつれ、自分の達成感よりも人が喜んでくれるほうが嬉しくなりました。
仕事においても、観てくださる人や一緒に仕事をしてくれる人が”いい作品だった”と喜んでくださることを考えます。僕は本質的に、人を喜ばせるのが好き。それを意識する機会が、最近は特に増えました。」

俳優・伊藤英明さん
「観てくださる人や一緒に仕事をしてくれる人が”いい作品だった”と喜んでくださることを考えるように」(伊藤英明さん)

――舞台は、お客さんの反応がダイレクトに伝わるのが醍醐味です。映像作品とくらべてどのような印象がありますか?

「実は、舞台には強い苦手意識があるんです。初めての舞台は『MIDSUMMER CAROL ガマ王子 vs ザリガニ魔人』(2004年・G2プロデュース)でした。初日、2幕の幕が上がりスポットライトが当たったら、セリフが飛んで頭が真っ白に。僕のセリフから物語が始まるのに、何も出てこない。同じく初の舞台出演である共演の長谷川京子さんが目の前にいて、僕のセリフを待っている」

「客席は満席で、お客さんも物語が動くのを待っているのに、何も出てこない。そういうときって、体が勝手に動いてしまうんでしょうね。『どうしたらいいんだ、俺は』と口に出していたんです。長谷川さんを見ると、『どうしちゃったの?』みたいな表情を浮かべていました。しばらくキャラクターとも台本とも関係がないことをしゃべっているうちに、セリフが奇跡的に戻って来た。なんとか、その場面を終えて、舞台袖に引いたら、共演者総出で『助けに行こうと思っていた…!』と出迎えてくれたんです。あれは、これまで生きてきた中で、一番の恐怖体験でした…」

「そうなってしまった原因は明らかで、当時の僕は“気にしすぎていた”というか、本筋とは関係ないところに気持ちが散っていたんです。例えば『あそこに空席がある』とか『あそこでお客さんが寝ている』とか。舞台は期間中に何度も上演するので、『昨日はここでウケたのに、今日はリアクションがない』とかね」

「2作目『ジャンヌ・ダルク』(2010年)のときは、それなりに経験も積み、『こういう芝居をやってみよう』とか『この言い回しはどうだろうか』などと考えもしたんですけれど、チャレンジできなかったんです。

それは、自分の中で“気おくれ”があったから。怖いとか苦手だと思うことで殻ができてしまい、それが破れなかった。今、これまでの舞台経験を思い出しても、緊張したとか、お客さんがたくさん入っていたとか、演技や作品作り以外のことしか覚えていないんです」

俳優・伊藤英明さん
「“気にしすぎていた”というか、本筋とは関係ないところに気持ちが散っていたんです」(伊藤英明さん)

「いい時期に俳優としての転機となる作品に出会えた喜び」(伊藤英明さん)

――そんな苦手意識があることに、キャリアを重ねた今挑むというのは、ハードルが高いと思います。

「そうですね。でも、ここ数年、これからのキャリアのことを考えていると『このままこれまでの実績を食いつぶして生きるのか』という閉塞感があったんです。そんなときに『橋からの眺め』のオファーをいただいた。1950年のアメリカという全く知らない世界であり、セリフを重ねて物語が進んでいくという、僕が演じたことがない作品です。
あまりにも未知すぎるこの作品に、挑戦してみようという気になるまで時間はかかりませんでした。『この作品で、きっと何かが生まれる』と確信し、お受けすることにしたんです。演出家が海外の方(ジョー・ヒル=ギビンズ)というのも初めての経験です。いい時期に俳優としての転機となる作品と出会えて、幸せに思っています」

「今、お話していて思いましたが、僕は小さい頃から『逃げずに立ち向かえ』、『今日できないことは、明日もできない』など教えられて育ったんです。ずっと後ろめたさがあった舞台に、今回本格的な舞台経験を得ることで、運や縁をもっと自分のものにできる気がしていますし、さらにストレートに仕事に向き合うこともできます。それもまた、楽しみなことのひとつです」


これまで重ねてきたキャリアに甘えることなく、苦手なことに挑みつづける伊藤さん。私たちも、自分を信じて前に進んで行こうという気持ちになります。インタビュー第2回目は演技と役作り、そして家族のお話を伺いました。次回もぜひチェックしてみてください。

■PARCO PRODUCE 2023「橋からの眺め」

 

1950年代のアメリカを舞台に、イタリアからアメリカへと渡った移民の一家を描いた物語。港湾労働者のエディ(伊藤英明)は、妻・ビアトリス(坂井真紀)と最愛の姪・キャサリン(福地桃子)とともに暮らし、家族のために懸命に働いていた。そんなある日、違法移民として、妻の従兄弟のロドルフォ(松島庄汰)とマルコ(和田正人)がやってくる。キャサリンとロドルフォはやがて惹かれ合うようになる。我が子のようにキャサリンを育ててきたエディはそこで何を思うのか。“男性らしさ”に固執するエディが選んだ選択肢はとは? ひたむきに生きる男の悲劇を描いた社会派ドラマ。

作:アーサー・ミラー
翻訳:広田敦郎
演出:ジョー・ヒル=ギビンズ
出演:伊藤英明、坂井真紀、福地桃子、松島庄汰、和田正人、高橋克実

■PARCO PRODUCE 2023「橋からの眺め」
2023年9月2日(土)~24日(日)
東京都/東京芸術劇場 プレイハウス
2023年10月1日(日)
福岡県/J:COM北九州芸術劇場 大ホール
2023年10月4日(水)
広島県/JMSアステールプラザ 大ホール
2023年10月14日(土)・15日(日)
京都府/京都劇場

問い合わせ先

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
PHOTO :
トヨダリョウ
STYLIST :
根岸 豪
HAIR MAKE :
今野富紀子
WRITING :
前川亜紀