キャリアをスタートさせた時、その人は、絶世の美女だった

たまにいる。自分の美しさに全く気づいていない人が。せっかくの美貌を、無駄にしてしまう”もったいなさ“はあるものの、自分の美しさに無頓着であることは、ある意味とてもかっこいい。少なくとも人生のテーマや自分を磨く最終ゴールが、美しさにない事は確かで、その分、人間的な厚みを感じさせるから。

この人、ケイト・ウィンスレットもその1人なのだろう。13歳から子役としてCMやドラマに出演しており、少女の頃の透明感ある美しさは息を呑むほど。やがては、グラマラスなボディを惜しげもなくさらした極めてセクシーなポートレートなども残している。
22歳で出演した『タイタニック』はあまりにも有名だけれど、じつはその2年前、20歳の頃に出演した『いつか晴れた日に』では、早々とアカデミー賞助演女優賞にノミネートされるほどの存在感と、ある種の神秘的な美しさを見せつけているのだ。

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1992年の頃のケイト・ウィンスレット。この2年後に公開される映画『乙女の祈り』でスクリーンデビュー。(C)Geoff Shields/Getty Images

この時は紛れもなく、絶世の美女というイメージ。ご存知のように『タイタニック』で演じた良家の子女役も、22歳と思えないような妖艶な美しさを放っていた。結果としてこの作品でオスカーを受賞、言うまでもなく今でも記録が破られない最大のヒット作品で圧倒的な注目を浴びたわけで、もし本人にハリウッドNo.1女優への野心があれば、おそらくすんなりそうなっていたはずだ。
しかし、世間はこう不思議がる。最大級の成功と申し分ないキャリアを叶えたのに、なぜケイト・ウィンスレットはその後わざわざ地味な映画の地味な役しか選ばなかったのか?と。

1996年、映画『いつか晴れた日に』のロンドンプレミアにて。劇中の印象とは別の大胆な衣装で登場。(C)Tom Wargacki/WireImage
1996年、映画『いつか晴れた日に』のロンドンプレミアにて。劇中の印象とは別の大胆な衣装で登場。(C)Tom Wargacki/WireImage

お腹のたるみの加工修正を拒否した人

しかしその地味な映画の地味な役で、ケイトはどんどん実力派女優としてのキャリアを積み重ねていき、結果として30代のうちにアカデミー賞ノミネート7回という記録的な快挙を成し遂げている。
それこそ、自分が華やかな美しさを持つことに気づいていないかのように、あるいはまたそれを忘れてしまったかのように、常に個性的な役を選び、それを圧倒的なリアリティを持って演じきってきた。その過程で、ますますふくよかになっていくわけで、それも自らの美への無頓着さゆえなのだろうと思っていた。外見に頓着しなければ人は大体そうなっていく。

ただ、この人がリアリティーにあくまでこだわるために、体重増加も厭わないのだということを裏付けるエピソードがある。全米が熱狂したというドラマ『メア・オブ・イーストタウン』のセックスシーンで、“腹部のたるみ”を修正されそうになった時、断固拒否したというのだ。加えて、ドラマのプロモーション用のカットでも、顔のシワやたるみも一切の加工修正を認めないと申し入れたと言う。
今や修正は当たり前。しかしそれを消費者が認めずに、化粧品広告等における修正が訴訟になったりもしている。そんな中で、ケイトはリアルなビジュアルを露出することに強くこだわった。ドラマの中の“問題ありの中年女性”、その生活や苦悩をありのままに演じることまでが自分の仕事なのだと。

ヌードにおけるお腹のたるみを隠さない……そこで普通なら、お腹にたるみがあるからヌードの仕事は受けないと、そう考えるはずで、やはりこの人は女優として、どこまでも肝が座っているのだ。

ケイト・ウィンスレットが監督総指揮・主演を務めるドラマ『メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実』。第73回エミー賞にて主演女優賞を獲得した。2021年9月ロサンゼルスにて。(C)Rich Fury/Getty Images
ケイト・ウィンスレットが監督総指揮・主演を務めるドラマ『メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実』。第73回エミー賞にて主演女優賞を獲得した。2021年9月ロサンゼルスにて。(C)Rich Fury/Getty Images

“年齢より老けて見えること”の偉大

ちなみに、この人は若い頃に体型におけるハラスメントを受けている。それもよりによって『タイタニック』のドラマチックな結末にまつわるイジメのような噂が、じつは未だにくすぶりつづけているのだ。
ケイト演じるローズは、海面に浮いた壊れた扉の上で命を繋いだものの、その板につかまっていたジャックは、結局力尽きて海の底に沈んでいってしまう。その結末がどうしても納得できないと言う声が未だにあり、その原因はローズの体重がありすぎたせいでは?という、あらぬ因縁をつける声があって、随分と傷ついたというのだ。
だからと言って、あえて痩せようとすることもなく、その時その時の、自分しか演じらない役柄に貪欲に挑んできた。『タイタニック』でジャックが描いたローズの裸婦像は、その年齢では醸し出せないほどに成熟した官能美をみせていたが、20数年後にそれがたるみとなっていても、全てひっくるめてケイト・ウィンスレットなのである。

そのせいだろうか。現在48歳、え、まだ40代?と意外に思った人もいるだろう。良い意味で老成して見える。何かもっと長く重厚なキャリアを感じさせるのだ。いかに若く見えるか?を競い合うような世界にあって、常に実年齢よりも大人に見えること、ひいては老けて見えることも意に介さない、それは見事に自分の軸を持っていることの証、そう言えるはずだ。

ディカプリオとの、魂が結ばれているような関係が美しい

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レオナルド・ディカプリオとケイト・ウインスレット。2016年2月、第88回アカデミー賞授賞式にて(C)Christopher Polk/Getty Images

ただこう書いてくると、自我が強すぎる独りよがりなイメージを持つ人もいるはずだが、もう一つ、ケイト・ウィンスレッドという人を語る上で、外せないことがある。レオナルド・ディカプリオとの深い友情である。単なる仲良しを超えた“特別な友情”で結ばれていると言ってもいい関係。コロナ禍で3年間ぶりに会った時は、涙をこぼすほど再会を喜び、彼をとても愛していると言って憚らなかったという。

説明するまでもなく、『タイタニック』で共演して以来の仲で、当然のように恋に堕ちての関係?という噂もありながら、ケイトはこの頃の恋人と間もなく結婚しているし、ご存知の通りレオナルド・ディカプリオは終始一貫、若いスーパーモデルとの恋愛遍歴を続けており、恋愛関係にあったとは考えにくい。本当に純粋な友情を育んできたと考えるべきで、ハリウッドにおいてここまで男女が深い絆で結ばれることは、ジェンダーフリーの時代にあっても、ありそうでいてなかなかないこと。愛情深いから、信頼し信頼され、依存もしないし裏切ることもない、やがてお互い尊敬しあう関係を築いていける、そこからもまた、人間的な奥行きが滲み出てくるのである。

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左/1998年1月ビバリーヒルズで開催された第55回ゴールデングローブ賞の授賞式(C)Ron Davis/Getty Images 右/第64回ゴールデングローブ賞のパーティ会場にて(C)Alexandra Wyman/WireImage)

言わば共に一つの成功を成し遂げた戦友であり同士であり、以来ずっとソウルメイトであり続けている、それがたまたま異性であったということに、猛烈に羨ましさを感じる。そういう魂の関係が持てる人を1人でも持っていることは、魂レベルの向上につながるはずだから。そしてとても単純に、人としての正しさを物語るから。

ハリウッドで常に主役を張り、オスカーの常連ともなってくれば、そのポジションを維持すするために、平常心を保つのも難しくなるのだろうし、ましてや更年期にさしかかればそれだけで理由なき不安に苛まれ、普通ならば美容医療にかかりきりになり……と、非常に難しい時代を生きているはずなのに、この人は自分軸を決してブラさない。
自分がどう見られるかではなく、自分はこうしたいということを独りよがりに押し通すのでもなく、むしろ自分が正しいと思ったことを勇気を持って貫いていく、こういう人こそ、“自分らしく生きている”といえるのだろう。

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2017年3月、ロンドンでのWE Dayイベントでスピーチするケイト・ウインスレット(C)Samir Hussein/WireImage

本当はもっと王道を歩き、もっと眩しいスポットライトを浴びれるのに、そういうことに価値を求めない、それって実は簡単ではないからこそ、強烈にかっこいい。そうか、こんなふうに生きてもいいんだと、何か新しい気づきと勇気を、もらえるはずである。

この記事の執筆者
女性誌編集者を経て独立。美容ジャーナリスト、エッセイスト。女性誌において多数の連載エッセイをもつほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザー、NPO法人日本ホリスティックビューティ協会理事など幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。近著『大人の女よ!も清潔感を纏いなさい』(集英社文庫)、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)ほか、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。好きなもの:マーラー、東方神起、ベルリンフィル、トレンチコート、60年代、『ココ マドモアゼル』の香り、ケイト・ブランシェット、白と黒、映画
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Getty Images
EDIT :
三井三奈子