2015年、『サラバ!』で直木賞を受賞した作家の西 加奈子さん。しかし、作家人生には自分の作品に自信をもつことができない時期もあったのだといいます。そんな西さんが上梓した『おまじない』は、「生きづらさ」を抱えた女性たちへ贈る珠玉の短編集。物語のキーを握る「おじさん」との出会いを通し、背中を押される女性たちの姿を描いた感動作です。
居場所のない女性たちと「おじさん」との心模様を描く感動作
8作からなる短編集は、1作目『燃やす』から引き込まれる。8人の主人公は、みな「世間と折り合いをつけづらい」若い女性たちです。
「私自身がいくつになっても世の中に戸惑っている。女の子たちの、生きづらさを応援するものを書きたかったんです。初めは、女性が女性の力になる形を考えました。でも小説にひとつ“枷(かせ)”をつくりたいと思って、嫌われがちなおじさん(笑)を登場させたらどうだろうかと。おじさんという存在に、女の子が救われてもいいのではないかって」と、西さんは執筆のきっかけを語ります。
主人公たちは学校で、職場で、旅先で…見知らぬおじさんと出会い、彼らのなにげない言葉が「おまじない」のようになって、背中を押される。なかでも、キャバクラ嬢と、店にやってきた売れないみすぼらしい芸人とのやりとりを描いた『あねご』は圧巻。せつなさがあふれ出ます。
「自分含め弱い人間を肯定したい、そんな思いがあります。弱い人が生きていけるのが成熟した社会。ひとつの価値観に縛られず、それぞれの自由、生き方があっていい」
30歳ごろまで「自分の作品が文学作品ではないのではないかと自信がもてず、作家だと名乗ることに抵抗がある時期もありました」と、西さん。初の本格的な短編集を書き上げる作業は難しく、「絞り出す苦しみ」があったといいます。
「まだ腕力がなく、しんどいだろうと避けていて。でも、今やらなくてはと」
書ききったことで新境地を拓いた感も。じわりと癒やされる、まさに「おまじない」のような珠玉の一冊が誕生しました。
『おまじない』
STORY
少女、ファッション・モデル、キャバ嬢、レズビアン、劇団の広報員…、生きることが上手ではない8人の女性たち。あるとき出会った「おじさん」たちとの会話から、少しずつ自分を認め、前に歩き始める。本作の表紙も西さんが描いた。
- PHOTO :
- よねくらりょう
- EDIT&WRITING :
- 水田静子
- RECONSTRUCT :
- 難波寛彦