【目次】

【そもそも「除夜」とは何?】

■「除夜」の「意味」

「除夜」は「大晦日(おお晦日)の夜」を意味し、一年の最後の晩、「除夕(じょせき)」とも呼ばれます。

「除」という文字には「取り除く」「払い清める」といった意味があります。「除夜」は「旧年を除く夜」という意味で、仏教では「一年の煩悩や穢れを払い、新年を迎えるための夜」を指します。この夜に撞かれるのが「除夜の鐘」。煩悩の数にちなみ、108回鐘を撞くことで心を清めるとされています。また、神社では大祓(おおはらえ)と呼ばれる、人形(ひとがた)に託して罪穢を流す行事が行われます。

■「大晦日」との「違い」は?

「大晦日」は「一年の最後の日(12月31日)」を指す、暦上の呼び名です。「晦日」は「月の最後の日」を表し、これに「大」が付く「大晦日」は「一年でいちばん大きな晦日」という意味になります。「大晦日」に昼夜の概念はなく、12月31日は一日中「大晦日」です。

「除夜」と「大晦日」の違いは、昼夜の概念の有無のほか、前者が宗教的・精神的なニュアンスをもつ言葉であるのに対し、「大晦日」は暦の上の呼称であり、日常的な行事を示す言葉であることです。


【いつから「除夜の鐘問題」と言われるようになった?】

■そもそも「除夜の鐘問題」とは何か

「除夜の鐘問題」とは、「『除夜の鐘の音がうるさくて眠れない』と近隣住民からクレームがあったために、除夜の鐘を撞くのをやめたという寺院がある」というニュースの内容を指す言葉で、SNSなどでも広く拡散されました。2019年ごろから頻繁に取り上げられるようになりましたが、実際には2016年ごろにはすでに報じられていたようです。

日本経済新聞は2018年12月に、そして「excite.ニュース」は2019年12月に、それぞれ近隣からのクレームで、「時間を前倒しして夕方に鐘を撞くことにした寺院もある」と報じています。

また、それ以前からも「除夜の鐘がうるさい」といったクレームは起きていました。たとえば、静岡県の牧之原市にある歴史ある大澤寺(だいたくじ)は、2004年から深夜に鐘を撞くことに対して寄せられていたクレームにより、2006年に大晦日に鐘を撞くのをやめています。


【除夜の鐘が「うるさい」と感じられる理由】

■実際に「除夜の鐘」は「うるさい」のか?

音の大きさは、デシベル(dB)という単位で測定します。「除夜の鐘」への苦情が話題になったとき、鐘の音量をいろいろなお寺で測定したテレビ番組があり、鐘から5メートルの至近距離で測定すると80dB程度、100メートル離れた地点では60dB程度の音量だったそうです。これは地下鉄の車内に相当する音量です。

私たちの通常の会話は60dB程度の大きさです。それよりも大きな85~100 dBの音は、6~8時間連続して聞くと耳を傷める可能性が高くなります。そしてこの「60デシベル」という数字は人が「うるさい」と感じる境目の数字だとされています。

鐘の音の余韻には、一般的に「心地よい」とされる音が含まれているため、「鐘の音は心に響く」「気持ちが穏やかになる」と感じる人がいるのは確かですが、単純に「音の大きさ」という視点だけで考えた場合、うるさいと思う人がいるのも自然な数字ではあるようです。

■「除夜の鐘」を撞く時間に問題があるのでは?

「除夜の鐘」は、各地の寺院で大晦日の深夜に始まります。108回撞くのが決まりなので、年が改まった1月1日の午前2~3時ごろまで続くこともあります。深夜という時間帯が「高齢者が眠れない」「赤ちゃんや子どもが起きてしまう」といったクレームにつながっている可能性は高いのではないでしょうか。


【除夜の鐘を中止・時間変更する寺院が増えている理由とは?】

■生活スタイルの変化・多様化

以前は深夜に鐘が鳴っても問題になりにくかったものが、都市部の住宅密集化やライフスタイルの変化により、一部住民にとっては「不快」と捉えられるようになったのでは、という指摘があります。生活スタイルが多様化している現代では、「年末年始関係なくリモートで仕事をしている」「仕事で朝早いのにうるさくて眠れない」などさまざまな理由で、深夜に響き渡る鐘の音を不快に感じる人が増えているようです。

■「騒音」に対する意識の変化

現代人の騒音に対する意識が変わり、「除夜の鐘」に限らず、例えばピアノの音など、生活環境で聞こえる音に対して厳しいクレームが出やすくなったという社会的背景もあります。

なかには「音に敏感な人」もいるでしょう。さらに昔ならば「少々の不便については、波風立てずに我慢しましょう」とする人が多かったものが、個人の価値観や意見が重要視される現代では、「ひとつの意見としてクレームを入れる」ことのハードル自体が下がっています。実際、除夜の鐘を止めたり時間を変えた寺院のなかには、かなり強い言動を伴ったクレームを受けたところも多かったようです。

■実はそもそも「除夜の鐘は深夜」という決まりはなかった

そもそも除夜の鐘は「人間に百八つある煩悩を追い祓う」ために一年間の締めくくりである「大晦日の夜」に撞くもの。その時間に関しては「日付が変わる直前(深夜)でなくてはならない」といった決まりはないそうです。深夜に行うようになったのは戦後、新年の初詣客を呼び込もうと「特別なイベント感」を盛り上げるための演出であり、『ゆく年くる年』(NHK)が広く定着させた一因とされています。だとしたら、厳しいクレームを受けてまで「深夜の鐘」にこだわる必要はないのかもしれません。


【それでも除夜の鐘がもつ「意味」とは?】

「除夜の鐘」は、日本に渡ってきた中国仏教の影響を受けたと考えられています。日本における除夜の鐘の歴史は鎌倉時代から始まったとされ、江戸時代にはすでに多くの寺院で鐘が撞かれるようになったそうです。現代を生きる私たちにとっては「年末年始の風物詩」として定着していますね。

そもそも「除夜の鐘」は仏教的な行事として伝えられた伝統行事です。鐘の音は仏の清らかな声、あるいは仏の教えとされ、清らかな除夜の鐘の音を聞きながら、1年を振り返って、その年の自分の行いを改めて省みて、その至らなさ、愚かさをしみじみ反省し、懺悔し、新たな思いで新年を迎える。除夜の鐘は、そんな行事とされています。


【除夜の鐘問題に、正解はあるのか――これからの年越しのかたち】

■除夜の鐘を不快だと思う人は、実際にはそれ程多くない

一部で話題になることはあるものの、除夜の鐘を「迷惑だ」と感じている人は、実際には少数派だとする調査結果もあります。

あるアンケートでは、回答者のうち「除夜の鐘を迷惑だと感じたことがある」と答えた人はごくわずかで、大多数は特に否定的な印象をもっていないことが示されました。 また、「迷惑だと感じたことがある」と答えた人のなかでも、その多くは「状況によってはそう感じることがある」「一時的にそう思ったことがある」という程度にとどまっており、常に不快に感じているという人はさらに少数だったとされています。

こうした結果から見ると、除夜の鐘に対して強い否定的意見をもつ人は一部に限られており、多くの人にとっては年末年始の風物詩として、比較的穏やかに受け止められている行事だといえるのではないでしょうか。

こうした傾向は、『Precious.jp世代の声からも感じられます。実際に話を聞いてみると、「子どものころから当たり前のように耳にしてきた音なので、むしろ年末を実感する」「多少眠りを妨げられることがあっても、年に一度のことだから気にならない」といった声が多く聞かれました。

一方で、「若いころは気にならなかったが、年齢を重ねてからは眠りを優先したいという人の気持ちはわかる」といった現実的な声もあります。それでも、「だからといって、除夜の鐘がなくなってしまうのは少し寂しい」「時間を工夫するなど、折り合いのつけ方があればいいのでは」という意見が多く聞かれました。

■「除夜の鐘の音は不快」と声を上げるのは悪いこと?

「ひと際声が大きい少数派の意見に従うのは、大多数の人の気持ちをなしがしろにしているのでは?」という意見もあります。アンケートには、「昔からの伝統行事に目くじらを立てる方が心が狭い」とする意見も寄せられていたそうです。

■「除夜の鐘」の前倒しには、案外メリットも多い

あくまで一例として、前述した静岡県の大澤寺は、2006年に除夜の鐘を撞くのを中止していましたが、その後、開始時刻を12月31日の午後2時に前倒しして再開。2015年からはさらに同日正午に早めたところ、参拝客が倍増したそうです。昼間ならば小さなお子さんがいる家庭でも足を運びやすいですし、寒さも厳しくないので気軽に立ち寄ることができます。また、酔客がほぼゼロになり厳かな雰囲気も高まりますね。すべての地域に当てはまるわけではありませんが、除夜の鐘の時間を前倒しする、という選択肢が新たな可能性を生む場合もあることは確かでしょう。

除夜の鐘は日本に昔から受け継がれている伝統文化です。除夜の鐘を撞いている寺社は古くから地域に根付いていたところも多く、価値観の違いが生じやすくなっているとも言えるでしょう。ですから、一部の強い意見だけを理由に、取りやめにする必要はありません。とはいえ、「新年を前に鐘の音と共に皆で喜びを分かち合おう」という思いは、時間が昼であっても夜であっても変わらないはず。穢れを払うための行事が「誰かに我慢を強いる行事」になってはいけません。地域ごとに、抱える事情は異なるのですから、生活環境や住民の声を考慮し、「どうしたら大切な伝統行事を守れるか」を考えていくことが、最も重要なのではないでしょうか。

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「除夜の鐘」は、1年を振り返って自分の行いを反省したり、思い出をしみじみとかみしめつつ、新たな思いで新年を迎える節目の行事です。「除夜の鐘の音を聞いていると心が静まる。穏やかな気持ちになれる」という人も多いのでは? さまざまな立場があることを前提に、地域ごとに騒音の問題に取り組み、日本の素晴らしい伝統文化を上手に受け継いでいきたいものですね。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /新選漢和辞典 Web版(小学館) /『世界大百科事典』(平凡社) /一隅を照らす天台宗「年中行事・歳時記」(https://www.tendai.or.jp/nenjyuu/?utm_source=chatgpt.com) /一般社団法人日本寺社宗教者協会「以前問題になった「除夜の鐘騒動」について その1」(https://jtsra.org/column/column049?utm_source=chatgpt.com) /excite.ニュース「大晦日の「除夜の鐘」がうるさいと苦情……夕方に鐘を撞く「除夕の鐘」に変える寺院も」(https://www.excite.co.jp/news/article/Japaaan_110923/?utm_source=chatgpt.com) /日本経済新聞「昼間に響く「除夜の鐘」 参拝者減や「騒音」苦情で」(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39397220W8A221C1CC0000/) /signia「余韻が響く「除夜の鐘」の音色の秘密は?耳を傷める騒音になるのか」(https://www.signia.net/ja-jp/blog/local/ja-jp/jyoyanokane/) :