【目次】
【第25回のあらすじ】
2026年大河ドラマ『豊臣兄弟!』も折り返し地点を過ぎ、いよいよ中盤の大きな山場である「本能寺の変」に向けてのカウントダウンとなりました! 前回「軍師官兵衛!」のラストでは、緊張感漂う織田信長(小栗旬さん)と明智光秀(要潤さん)の描写に続き、突然「本能寺の変まで、あと2年—」のテロップが。
そして今回のサブタイトルはズバリ「変事の予兆」。歴史の勉強をまじめにやってきた方々にはおわかりの通り、「本能寺の変」は天正10(1582)年ですから、ドラマの舞台は天正8(1580)年ということに。播磨平定に目処をつけたのと同時期に、本願寺との和睦も成立させた織田信長は、ついに畿内を制覇。天下統一へと大きく近づきます。そしてそれに伴い、羽柴家の領国も播磨・但馬のほぼすべてに拡大しておりました。
冒頭、映し出されたのは、秀吉(池松壮亮さん)の居城・長浜城で行われた蜂須賀正勝(高橋努さん)の城持ち大名昇格を祝うサプライズパーティ。「3年後には城持ちにする」という秀吉との約束から15年。念願成就を心から祝福しあう小一郎(仲野太賀さん)や前野長康(渋谷謙人さん)、黒田官兵衛(倉悠貴さん)たちの笑顔にほっこりします。それにしても、誰が紙吹雪を用意していたのでしょうか…どこまで仲がいいのよ、あなたたち…。
さて、舞台は一転。信長の新たな居城・安土城では、城の完成を祝う盛大な宴が開かれておりました。功労者発表のあとには、艶やかな舞いの披露も。そして能楽師かと思われた人物が面を外すと…その正体は土佐国主・長宗我部元親(ちょうそかべもとちか)でした。四国統一をもくろむ元親は、かねてより信長へのお目通りを願っており、今回、明智光秀を通じてこれが叶えられたのでした。
「四国の切り取り(領土を奪うこと)は存分に進められよ」。このとき、信長はたしかにこう言ったのです。
さて、お祝いムードを凍り付かせたのは、「相撲で負けたら即退場」という、ブラック企業・織田家らしいリストラ劇でした。まず最初に指名されたのは、古参の重臣・林秀貞(諏訪太朗さん)と、信長の小姓・「森乱」です。森乱を演じるのは、市川中車こと香川照之さんの息子・市川團子さん。言わずと知れた名門・澤瀉(おもだか)屋の若きスターです。美丈夫ぶりが、さすが板についています。
若い森乱に高齢の林秀貞が勝てるわけもなく…あっけなく投げ飛ばされると、信長は突如、「一族もろとも消えよ!」と命じます。続いて指名を受けた、佐久間信盛(菅原大吉さん)と安藤守就(田中哲司さん)も森乱に敗れ、追放を命じられます。
追放を相撲で決めたのはもちろんフィクションですが、信長が安土城を会場に相撲大会を好んで催していたことは史実であり、この時期に大量リストラを行ったのも史実です。
織田方に寝返り家臣となった安藤守就はともかくとして、佐久間信盛と林秀貞といえば、信長の父・信秀にも仕えた譜代の重臣。信長家臣団のツートップ。織田家においてはパワハラまがいの解雇なんて日常茶飯事…と片付けるのは簡単ですが、勤続年数が長いゆえに、実質窓際族となっても高い年俸を払わざるを得ないベテラン社員たちの処遇に頭を悩ませるのは、現代の経営者も同じこと。ましてやドラマでは「実は裏切り者」との情報も光秀から伝えられているのですから、危険な芽は早めに摘んでおくのが常道といえるのかもしれません。
でも実は、このとき光秀の年齢は66歳(諸説あり)。追放された古参と比べても、そう若くはないのです。光秀自身、内心ではかなりドキドキしていたのではないでしょうか。
あまりに理不尽とも言える、信長の真意を解いて見せたのは、市(宮崎あおいさん)でした。裏切りの予兆がある家臣を粛清せず、追放で済ますのは信長の恩情だと言うのです。もしかして、血も涙もないと言われがちな小栗・信長は、実は心優しく繊細な人物なのかもしれません。
ドラマのラストでは、信長が明智光秀に、長宗我部による四国切り取りは認めないと言い放つシーンが描かれました。理由はひと言「気が変わった」。絶望する光秀の気持ちに追い打ちをかけるように、そこへ一通の密書が届きます。
「可討取信長候也」。
差出人は、かつての主君・足利義昭。天正元(1573)年に信長から京を追われ、室町幕府が事実上滅亡したあとも、義昭は毛利輝元の庇護のもと、各地の大名に信長包囲網を形成するよう働きかけるなど、活発に政治活動を続けていました。一方の光秀は、いまや織田家の重臣です。
かつては義昭への忠義と、リアル上司である信長への畏怖の間での板挟み状態に苦しんでいた光秀。8年もの間、遠く離れていたにもかかわらず、「さらっと送られてきた元彼(義昭)からのLINE」に心の底から動揺してしてしまうのは、今彼(信長)を信じ切れないから…。筆者はこんなストーリーを連想してしまいました…さてさて、義昭からの手紙は、果たして本能寺へのトリガーとなってしまうのでしょうか?
【長宗我部元親こそが「本能寺の変」のキーパーソン?】
1年間という長尺で放送される大河ドラマでは、新たなキャストの発表も楽しみのひとつですが、今回、注目を集めたのは、土佐(高知県)の武将・長宗我部元親に扮した磯部寛之さんでした。磯部さんはロックバンド「Alexandros(アレキサンドロス)」のベーシスト。上品な佇まいに大河ドラマ初出演とは思えない自然な演技、心地よい声。土佐弁の長台詞も違和感なしと、威風堂々とした登場に、ネットも大盛りあがり。
実はこの長宗我部元親という人物は、かつての戦国武将ブームを支えた人気武将のひとり。大河ドラマへの登場は珍しいのですが、今回の『豊臣兄弟!』では「事変の予兆」を語るうえで外せない、重要なキーマンのひとりとなっているのです。
■長宗我部元親ってどんな武将?
天文7(1538)年に土佐の武将・長宗我部国親の嫡男として生まれた元親は、子どものころには「姫若子(ひめわこ)」と呼ばれる程、おとなしく、色白な男子でした。ところが、いざ初陣を飾ると勇猛果敢な働きで周囲を驚かせ、「鬼若子」と称されたとか。
父の跡目を継いだあとは天正3(1575)年に土佐を統一。その後も阿波(徳島県)や伊予(愛媛県)に兵を進め、四国統一を目指します。これが今回、信長が口にした「四国の切り取り」です。阿波の三好氏と戦うために織田信長と手を結び、いったんは四国の支配を認められますが、元親の勢力拡大を受け、信長は方針を転換したとする説があります。今回のドラマで描かれていたのは、このくだりですね。
さらに天正10(1582)年、信長は長宗我部討伐を図り、四国に軍勢を送ろうと画策しますが、その直前に光秀の謀反により本能寺に倒れ、元親はピンチを切り抜けることになるのです。そして天正13(1585)年春、元親はついに四国統一を果たします。その後は秀吉と対立し、羽柴秀長(小一郎)と一戦交えることになるのですが…それについては、いずれまた。
■ドラマでの元親は…?
天正9(1581)年に京都で行われた「馬揃え」(軍事パレード)の場面。1年振りに小一郎と再会した元親は、なよやかな肩のラインも美しい、艶やかな女物の装束姿。「このような姿でおると、なぜか穏やかな心持ちになれるがじゃ」と胸の内を明かしつつ、「戦は、好きか嫌いかでやるもんじゃない」と、武将としての覚悟を語ります。「戦嫌い」を公言し、令和の価値観を体現する小一郎に対し、このひと言は強烈なカウンターパンチだったのではないでしょうか。
■元親と光秀との関係は…
詳細不明ながら、美濃(岐阜県)の生まれとされる明智光秀と、土佐で生まれ育った元親には、一見、接点がなさそうにも見えるのですが…実は、光秀の重臣・斎藤利三と、元親の重臣であり義理の兄でもある石谷頼辰とは、兄弟です。そして元親の正室(石谷氏)は明智光秀の従姉妹。想像以上に近くないですか? 光秀は元親の四国支配を巡り、信長との交渉役を果たしていたのです。
■「本能寺の変」はなぜ起こったのか?
歴史にさほど詳しくなくても誰もが名前くらいは知っている「本能寺の変」。ですが、実は「明智光秀はなぜ主君である織田信長を急襲したのか?」という疑問については、現在に至るまで、決定打となる一次史料は見つかっていません。いつくかの通説が存在します。
・怨恨説(単独犯行説)
信長からのたび重なる折檻(せっかん)に耐えかねたこと、家康の饗応役を突如解任されたことなど、信長に対して積もり積もった鬱憤を爆発させた結果が「本能寺の変」というわけ。ドラマの展開からも「さもありなん」という印象ですね。
・“黒幕”の存在
光秀単独の犯行ではなく、背後に糸を引く存在がいたとする説も根強く存在します。信長追放を画策し続けた将軍「足利義昭」をはじめ、信長の急進的な天下布武や神格化を恐れた「朝廷(公家層)」、あるいは海外勢力である「イエズス会」などが関与していたとする仮説です。
そして近年、有力な学説のひとつとされているのが、織田家の外交方針の転換に伴う「政策不一致」説。光秀は、長年、元親と織田家を結ぶ取次役を務めていましたが、信長が突如方針を転換し、長宗我部氏の討伐を決定。これにより、それまでの外交努力が水の泡となり、面目を潰された光秀が追い詰められた、とする説です。今回の大河ドラマは、どうやらこの学説を物語の軸に据えているようです。
■信澄を巡る複雑な人間関係にも注目
ドラマの最後、「信長を討て!」という足利義昭からの密書を受け取った光秀。彼に密書を手渡したのが、信長の甥・信澄(緒形敦さん)だったことにも注目です。信澄はかつて兄・信長に謀反を起こし討たれた弟・信勝の忘れ形見。信長は本来ならば殺されてもおかしくなかった彼を助け、柴田勝家(山口馬木也さん)に養育させました。そして今では明智光秀の娘婿となっています。柴田勝家といえば…ドラマでは信長の命で信勝を討った張本人です。
この複雑な人間関係からは、「本能寺の変」は実は「お家騒動だったのでは?」という考えることもできるのです。
【次回 『豊臣兄弟!』第26回「信長を笑わせろ!」あらすじ】
信長(小栗旬さん)は、長宗我部元親(磯部寛之さん)との約束を翻し、労せずして四国を手中に収める。元親は激怒し、間を取り持った光秀(要潤さん)は苦しい立場に陥る。
そんななか、信長は甥の信澄(緒形敦さん)が長宗我部と内通して謀反を企てていると疑い、蟄居(ちっきょ/閉門し、自宅の一室に謹慎させる罰)を命じる。光秀からことの顛末を聞き、信長の苦しみを察した小一郎(仲野太賀さん)と秀吉(池松壮亮さん)。羽柴家一同である計画を立て、信長と市(宮﨑あおいさん)を長浜城に招く。
※『豊臣兄弟!』第25回「変事の予兆」のNHK ONE配信期間は2026年7月5日(日)午後8:44までです。
※宮崎あおいさんの【崎】は「たつさき」が正式表記です。
- TEXT :
- Precious編集部
- WRITING :
- 河西真紀
- 参考資料: 『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『世界大百科事典』(平凡社) /『秀吉と秀長』(NHK出版新書) /『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟! 後編』(NHK出版)/ 『戦国武将 群雄ビジュアル百科』(ポプラ社)/NHK公式X 大河ドラマ『豊臣兄弟!』 /北近江豊臣博覧会実行委員会「戦国を攻略せよ」 /福知山光秀ミュージアム公式ホームページ :

















