宮古島のサガリバナにしかできないことがある
宮古島で生まれ育った人々は「この島には、『おばあの知恵』が無限に詰まっていて、神秘の植物の宝庫なんです」と口を揃えます。例えば、産後は青パパイヤを食べると母乳がよく出るとか、月桃の葉を煎じて飲むと呼吸がすっきりするとか。健やかさや美しさの後押しをしたり、よりよく生きるための助けになったりする「自然の神秘なる力」が存在し、昔から言い伝えられているのだと。
ところが、「サガリバナ? もちろん、存在は皆知っているけれど……」。聞けば、宮古島でサガリバナが注目を浴び始めたのは、ごく最近のことなのだといいます。
サガリバナとは、方言名「舞香花:もうかはな」。熱帯・亜熱帯に自生し、日本では石垣島や西表島など、奄美大島以南の琉球列島、マングローブの川など湿地帯に育つとされている植物。ごく限られた時期に開花し、その最大の特徴は、夜、花を咲かせ、翌朝には散る「一夜限りの花」であること。
その希少さから「幻の花」とも呼ばれているサガリバナ。に目をつけたのが、原料から自社で作り上げることに終始一貫、こだわり続けている、アルビオンです。
アルビオンは、国内に白神研究所、東日本橋研究所、沖縄研究所を、そして国境を超えて、スリランカ伝統植物研究所を構え、素材探索や製品研究に力を入れています。特に、沖縄研究所では、つねに沖縄由来のユニークな植物や海洋資源に目を向けていて、そんな中、たまたま出合ったのが、このサガリバナだというのです。
アルビオンの素材探索スペシャリスト、鈴木章悟研究員は語ります。
「サガリバナの存在を知ったとき、研究者として勘が働いて、気になって仕方がなかったんです。夜に艶やかに咲き誇り、妖艶な香りを漂わせ、夜明けとともにたったひと晩で散ってしまう……、とても幻想的でしょう? きっととてつもない力を秘めているに違いないと、さまざまな角度から素材として研究することにしました」
「最初は、石垣島など他の島で手に入れることを検討していたんです。ただ、そもそも一夜しか咲かず、採取のチャンスそのものが少ないのに加え、なかなか綺麗な状態で採取できない、素材としての品質を保てないという難しさがありました」
「そんなとき、宮古島では平良地区添道に、サガリバナの群生地があると聞き、早速訪ねたところ、およそ600本ものサガリバナの木が立ち並び、花が咲き乱れ、周囲に甘く華やかな香りを振りまいていて……。その強い香りに引き寄せられるように、蜂がたくさん集まっていた。『やっと出合えた』と思いました」
「しかも、宮古島では、サガリバナが綺麗なまま川や湿地ではなく、地面にぽとりと落ちるため、花のクオリティが保たれる。ここなら、最大の力を秘めたサガリバナを理想的な状態で採取できるのです。アルビオンが宮古島にこだわる理由はここにあります」
たったひと晩、だからこそ宿る特別な力
7月初旬。この日は、2009年から始まったという、サガリバナの開花シーズンに合わせて期間限定でライトアップがなされる「添道サガリバナ~夜のお花見」の最中。日が暮れるのを待って、サガリバナを見に、添道に向かいました。
澄んだ星空のもと、歩いていると、花との距離が測れるほどに、近づくにつれ、華々しい香りが強く漂ってきました。その香りに導かれるように進むと……、星が瞬く濃紺の夜空を背景に月明かりのスポットライトを浴びて美しく浮かび上がる花、花、花。たくさんの花が上から降り注いでくるように咲き、それは息をのむほど美しい光景でした。
実はこの香り、夜間にもっとも強く放たれるのだそうです。バニラのような濃密な甘さ、その奥の奥にグリーンの爽やかさを感じるような。香りに包まれていると、知らず知らずのうちに呼吸が深まっていることに気づかされました。この香りの類稀なる力強さに、目に見えない「オーラ」や「フェロモン」といった言葉が浮かんで、きっと「何か」があるはずと確信させられたのです。
そして、翌朝。添道に行ってみると、眩しさと静けさの中で、花が地面に広がっていて、これもまた幻想的な光景。すでにそこを訪れていたアルビオンの研究員の方々が、サガリバナをひとつひとつ愛でるように、丁寧に拾い集めていました。時間も手間も惜しまず、素材研究に勤しむ姿を目の当たりにして、アルビオンの化粧品は私たちに見えないところでこうして誠実に作られていくのだと胸が熱くなりました。
島民のひとりの女性が、こう語ってくれました。「宮古島にまだ、こんな『宝物』があったなんて! 誇らしい気持ちでいっぱいです。神秘の力を見つけ、引き出してくださるアルビオンの方に感謝したいですね」。
「幸福が訪れる」という花言葉を持つサガリバナ。その神秘の力は、どんなふうに私たちに届くのか。化粧品の、そして肌の未来が、楽しみで仕方ないのです。
- TEXT :
- 松本 千登世 さん エディター・ライター
- PHOTO :
- 長谷川潤
- WRITING :
- 松本千登世

















