【目次】
【第33回のあらすじ】
天正11(1583)年4月21日、賤ヶ岳の戦いで羽柴秀吉(池松壮亮さん)に敗れた柴田勝家(山口馬木也さん)は、越前・北庄(きたのしょう)城へと敗走。妻・市(宮﨑あおいさん)と共に籠城します。小一郎(仲野太賀さん)は、勝家に降伏を促すべきだと秀吉に進言しますが、秀吉は聞く耳をもたず、前田利家(大東駿介さん)に先鋒を命じるのでした。勝家からの利家の「その願いは別の者と果たせ」という言葉が、早くも現実となったのです。
羽柴軍が北庄城を取り囲むなか、浅井長政と市との娘・茶々(井上和さん)、初(田牧そらさん)、江(西川愛莉さん)の三姉妹は城から逃がれ、秀吉のもとへ。市は勝家と運命を共にする覚悟を固めます。やがて羽柴軍による総攻撃が始まり、北庄城は炎に包まれ…。
市が初めてつくった(たぶん美味しくない)料理を「美味しゅうござる」と言って食べた勝家。嘘がつけない勝家。そして、市の自害を止め、市の手をとったまま敵と戦い、天守への階段を共にのぼった勝家…。
宮崎あおいさんは「美術展ナビ」のインタビューで、「勝家さんは少女漫画のヒーローみたいいかっこよくて、本当にキュンとさせてくれる存在です」と話していますが、「市だけに見せるかわいい勝家」にキュンとしていたのは、きっと宮﨑さんだけではないはず。「長政殿もあなたさまも、私にはもったいないないお人でした。私はよい夫に恵まれました。もう十分でございます」。こう言い切れた市は、ある意味、幸せな女性だったのかもしれません。
天守の最上階まで自分たちを追い詰めた武士たちに「頼もしいのう。みなよい顔をしておる」と声をかけた市の気持ちをくみ取ったのでしょう。勝家は「よう見ておけ、これが戦じゃ」と口にすると、ふたり手を携えて天守から身を投じるという、なんとも斬新な最期に…。まるで次の世代にバトンを渡すかのような幕引きでした。
一方、ふたりの最期を見届けた小一郎は、衝撃に耐えきれず大徳寺にこもります。そこで出会った茶人が…のちの千利休となる千宗易(吉岡秀隆さん)でした。
いやー、くせの強い利休ですね。しかもまさかの”お茶嫌い”。彼の「甘い菓子があると思えば、苦い茶も楽し」という発想に「立ち直った」と小一郎。筆者は「え、そんな軽い展開でえーの?」と突っ込んでしまいましたよ。SNSでは「抹茶ラテをつくりそうな利休」などの感想で盛り上がっていました。いや本当に似合いますよね、抹茶ラテが…。千利休は豊臣兄弟に、新たな価値観、新たな世界を見せてくれるに違いありません!
最後の場面では、秀吉と小一郎兄弟が「月代」姿になって登場。「百姓も侍も共に笑って生きられる世をつくる」と、天下人を目指すことを宣言します。人たらしの陽キャなお猿だった秀吉は、今や貧しき者のために立ち上がる、立派な為政者としての道を歩み始めたのですね! そして小一郎は秀吉を支える調整役としての道を究めていくのでしょう。
「これよりわれらが進む道は、遠く険しく楽しき道じゃ」。ドラマはいよいよ終盤戦へ。われらも必ずや見届けましょうぞ、ふたりの行く末を!
【第33回をもっと味わうために知っておきたい「4つのトリビア」】
■北庄城の廻り縁からダイブしたら…のリアルな話
勝家が築いた北庄城は、安土城をもしのぐほどの、内部9階という巨大天守(最も高い物見やぐら)を擁した城でした。天守最上階には、廻り縁(まわりえん)と呼ばれるベランダのようなものがついていたと推測されています。
今回、北庄城天守からのダイブによって幕を下ろした勝家と市の最期には、SNSでも驚きの声が上がりました。「まさか、手を取り合って飛び降りるとは。斬新!」という声がある一方、「さすがに荒唐無稽すぎる」といった反応も。そんななか、さらりと考証に基づいた「まさかの解釈」を自身のXで披露していたのが、NHK『歴史探偵』で北庄城の解説を務めた、城郭考古学者の千田嘉博氏でした。
(以下引用)
「…天守最上階のテラスの手すりから飛び降りた場合、すぐ下の大入母屋屋根に落ちます。見事に下層の屋根に着地した勝家とお市は、屋根伝いに城を脱出して、幸せに暮らしたに違いありません。たぶん。」
(ここまで)
うんうん。本当に。ドラマなんだから楽しく観たいですよね。勝家と市。違う世界線では仲睦まじい夫婦として、穏やかで幸せな日々を過ごしていてほしいものです!
ちなみに、現在では「天守閣」と呼ぶことが多いのですが、この呼称は明治時代以降のもの。史料用語としては「天守」が正しく、「天守閣」は俗称です。
■2匹の蝶が象徴していたものは…?
戦国の戦を描くシーンでは、各陣営がそれぞれの旗を掲げて戦う様子がよく描かれていますね。複数の武士団が入り乱れる戦場では、敵味方を区別するための目印が必要でした。そこで使われたのが、武将の家の紋をあしらった旗や幟(のぼり)です。
家紋はもともと公家の専有物だったのに対し、武家の家紋は旗紋から始まったといわれています。家紋は「地位の象徴」として位置付けられていましたが、武家の旗印は戦場で敵味方を識別する役割を担うようになったのです。さらに、軍勢の所在を示す「馬印」と呼ばれる軍陣の標識が登場したのは、一説には元亀年間(1570〜73年)といわれています。まさに、織田信長が天下統一への戦いを開始した時代です!
「本能寺の変」では、明智光秀軍が掲げた、鮮やかな水色に桔梗を描いた旗がひらめいていましたね。そして今回、目を引いたのは、羽柴軍で多用されていた「金」色。もともと織田家の重臣の馬印が金で統一されていたことから、信長の後継者であることを意識していた秀吉が「金」を天下人の象徴と意識していたのでは、ともいわれています。陣地の周りに張り巡らせた「陣幕(じんまく)」や飾り、瓢箪(ひょうたん)の意匠までがキラッキラ! 赤地に、おそらく信長から賜った桐(太閤桐)を染め抜いた陣旗とのコントラストも美しく、遠くから見ても「あれは秀吉軍」とすぐにわかりそうです。
そして、強面な外見に反して可愛らしい家紋と陣旗だったのが、柴田勝家の「二つ雁金(ふたつかりがね)」。渡り鳥である雁を図案化したもので、縦に2羽配されたうちの上の1羽が口を開いているのが特徴です。
今回、勝家と市の生まれ変わりのように現れたのが、2匹の蝶でしたね。織田信長の家紋としては「織田木瓜(おだもっこう)」がよく知られていますが、信長は揚羽蝶(織田蝶)も使用していました。
勝家と市は、共に織田家を守るために戦ったふたり。ふたりの最期に現れた蝶は、そんなふたりの魂を象徴しているかのようでした。
■「月代」は新たな時代到来の象徴か?
今回のドラマの最後では、兄弟揃って頭頂部を剃りあげた「月代」姿になっていましたね。
「月代」は「さかやき」と読みます。平安時代以降、男性の頭頂部は烏帽子(えぼし)を着用するのが一般的でした。鎌倉時代になると、兜を着用したときに頭部が蒸れるのを防ぐため、月代を剃るようになったとされています。確かに、鉄でできた兜は通気性が悪そうです! しかも、当時はカミソリで剃るのではなく、実は毛を1本1本抜いていたそうですよ。想像するだけで痛そうです…。
戦国時代に入るとヨーロッパ人が日本を訪れ、さまざまなものがもたらされました。実は織田信長は、鉄砲だけでなく、初めてカミソリ(西洋剃刀)を使った人物ともいわれています。信長がカミソリを使ったことをきっかけに、武士階級もカミソリを使用するのが主流になったとか。
戦国時代の「月代」は「大月代茶筅(おおさかやきちゃせん)」と呼ばれたスタイル。大きく月代を剃り、髷(まげ)の先が切りっぱなしで折り曲げられておらず、茶の湯で使う茶筅に似ていることから、こう呼ばれていたようです。
『豊臣兄弟!』では、信長も月代スタイルを披露せずに退場してしまいましたので、筆者は「いったい、いつから?」と気をもんでいました(実は月代好き)。それがここに来て、ついに登場! 秀吉が家臣たちを前に「天下人になる」と宣言する場面での月代姿は、まさに「新しき世の到来」を感じさせるものでした。
■勝家敗戦後の勢力図をおさらい
北庄城陥落後、秀吉が小早川隆景に宛てた書状(「毛利家文書」)には、こんな気になる一文があります。
「東国は氏政、北国は景勝まで、筑前(秀吉)の覚悟に任せ候」
つまり、東国では北条氏政、北国では上杉景勝までが、秀吉の考えに従う状況になったというのです。さらに秀吉は、毛利輝元が自分の考えに従うなら、「日本治、頼朝以来これには争か可増候哉」──つまり、「日本が治まり、頼朝以来の武家政権にも勝るものになるのではないか」とまで記しています。この書状からは、秀吉が天下統一への自信を深めていたことがうかがえます。
しかも、これは単なる「夢」ではありません。秀吉は北庄城落城から約1か月後の天正11(1583)年5月25日、近江坂本城に帰陣し、織田方諸将に対する領知再配分を行っています。一方、織田家当主の信雄は5月19日に安土城に入り、21日には本国の尾張へ帰国。これによって秀吉は織田家諸将の領地を決める権限を得て、事実上、皆にとっての主君として存在するようになったのです。
もちろん、秀吉は依然として形式上は織田家の家臣です。しかし、信長亡きあと、領地を家臣たちの誰に与えるのかを決めるのは、主君としての大きな権限。織田家当主・信雄をいただきながらも、実質的には天下人としての地位を築きつつあったといえるでしょう。
京都を中心とした畿内を掌握し、東国の北条氏政、北国の上杉景勝、そして西国の毛利輝元にまで自らの意向を示す秀吉。その視線は、もはや織田家内部の主導権争いだけに向けられてはいませんでした。
さて、次回第34回で描かれる「最強のライバル」とは、いったい誰なのでしょう? みなさんは、もうおわかりですね!?
【次回 『豊臣兄弟!』第34回「最強のライバル」あらすじ】
自ら政治を動かすようになった秀吉(池松壮亮さん)は、その権威の象徴として絢爛豪華な大坂城を築城。諸国の有力大名が挨拶に訪れるなか、家康(松下洸平さん)だけは関東平定を理由に姿を現さず、小一郎(仲野太賀さん)はその動向を危ぶむ。
懸念どおり、信雄(山脇辰哉さん)が家康に接近、秀吉を倒そうと持ち掛ける。誘いを断る家康だったが、脳裏にはかつて今川家の人質だったころの苦境、そして信長の命で妻子を処刑した苦渋の決断がよぎり…。
※『豊臣兄弟!』第33回「北庄城の別れ」のNHK ONE配信期間は2026年9月6日(日)午後8:44までです。
※宮崎あおいさんの【崎】は「たつさき」が正式表記です。
- TEXT :
- Precious編集部
- WRITING :
- 河西真紀
- 参考資料: 『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /駿河台大学 学部・研究レポート(https://www.surugadai.ac.jp//『秀吉政権を支えた天下の柱石』(戎光祥出版)/日本エステティック評議会「日本の美容と脱毛の歴史 その3」(https://jac-web.org/)/福井市公式観光サイト「福井の礎を築いた戦国時代の猛将・柴田勝家の生涯をたどる」/『家紋・旗・馬印 FILE』(Gakken)/NHK 大河ドラマ『豊臣兄弟!』公式 「X」/『秀吉と秀長』(NHK出版新書) /『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟! 後編』(NHK出版) /NHK公式X 大河ドラマ『豊臣兄弟!』 「鬼柴田」勝家の実像」 /福井県史「織豊統下一の両国」/『日本髪の描き方』(エクスナレッジ) :

















