今月のMs.Precious……大田区在住58歳。都立私大の都内私立大学の観光学部で学んだ後、旅行代理店に就職。国内のツアーコーディネートから、海外観光客のアテンドまでを扱う。出産を機に退社、家業を手伝っていたものの、30代中盤までは慌ただしく過ごす。現在では子育ても一段落して、仕事復帰を果たしている。運転は決してスピードは出し過ぎずに、ジェントルな加速がモットー。好きな交差点は古川橋、好きな道は芝・増上寺界隈。ゴルフの行き帰りには誰よりも運転上手と、友人からは絶大な信頼が寄せられているが、実はそれには理由があって…。

今月のクルマ……【マクラーレン アルトゥーラ】
マクラーレンは英国生まれのスーパーカーブランドです。1963年にブルース・マクラーレンが興したレーシングチームは、F1をはじめ世界のトップカテゴリーで栄冠に輝き続けてきた名門。モータースポーツで磨いた知見を背景に作られたスーパーカーは、カーボンファイバーによる軽量設計、先進のエアロダイナミクス、そして何よりドライバーとの一体感あるフィーリングを追求しています。華美な装飾より、機能そのものを美しさへ昇華させるのがマクラーレン流デザイン。つまりは、速さを誇示するのではなく、速さに理由があるということ。このブランドの車は、単なる高級品ではなく、身に纏うエンジニアリングの結晶と言えます。今回紹介するアルトゥーラは33kmのEV走行もできるハイブリッド。たとえばクラシカルホテルのエントランスに、エンジン音を響かせずにそっと滑り込む……なんて良識ある振る舞いも可能なのです。

松任谷正隆が選ぶ「いま、このクルマで聴きたい音楽」……無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV 1007: I. プレリュード(ヨハン・セバスティアン・バッハ)

「第一印象は、“歌わないエンジン”に驚き。最初の数十メートルは不安だった記憶が……」──松任谷

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「マクラーレンと言えば、F1!スポーツカーのイメージです。都内でもオレンジ色のマクラーレン見かけますよね」(Ms.P)

松任谷 久しぶりにマクラーレン乗りました。

Ms.Precious 番組で乗られてなかったですか?

松任谷 乗りましたけどね。だいぶ前のことだから……。

Ms.Precious いろいろ乗られると訳が分からなくなっちゃうでしょう。

松任谷 そうなんですよ。クルマ好きの人からは羨ましい、なんて言われますけど、頭の中を整理するのが精一杯で、しかもだいぶ記憶力がヤバくなってきているので大変なんです。

Ms.Precious そんな時になんですが、アルトゥーラの第一印象って覚えていらっしゃいますか?

松任谷 厳しい質問ですね。あれは雨でしたね。雨の箱根です。

Ms.Precious はあ……そういうところから思い出される訳ですね。

松任谷 いろいろ面倒ですみません。

Ms.Precious 私も記憶力はだんだん怪しくなってきているので理解出来ます。

松任谷 そして、ボディは黒っぽかった記憶があるんですよね。乗り始めた場所ははっきりと覚えてますね。有料道路の脇のじゃりになっているスペースから走り出しました。

Ms.Precious 全然記憶力大丈夫じゃないですか。

松任谷 そう、その個体はたぶん初期ロットのもので、ディスプレイの調子がいまいちだったらしく、僕が乗り始めた時にはほぼブラックアウトした状態で、恐る恐る動かしたんですよね。じゃりのスペースを出て右に曲がり、峠道を下り始めました。モーターで走り始めるのがなんとも奇妙な感覚で……というのも、マクラーレン独特の感覚って僕の中ではエンジンとセットになっていたんですね。いわゆる歌わないエンジンというか、演出の少ない本物感たっぷりのエンジンの振動とか、音とか、それがないので、最初の数十メートルは不安だった記憶が蘇ってきました。

Ms.Precious それだけでも充分だと思います。松任谷さんにとってマクラーレンはどういう存在ですか?

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「後ろ姿もただのブラック…じゃなくて、F1でも使われているカーボン素材なのね。レースのDNAを感じます」(Ms.P)

「マクラーレンはどこか唯一無二。レース発想の基本がどのメーカーよりもフィードバッグされている。」──松任谷

松任谷 何だか変ですね。このページは僕がゲストの方にいろいろとお聞きするコーナーなのに……これでいいんでしょうか。

Ms.Precious いいんです。答えていただけますか?

松任谷 マクラーレンはどこか唯一無二ですよね。やはりレースで培った発想というものが基本にあって、それが他のどのメーカーよりも強くフィードバックされているクルマたちだと思いますね。それがインテリアにもよく表れているな、と。

Ms.Precious というと?

松任谷 走るということに特化していて、走るための操作系スイッチ類はとにかく使いやすい。その代りエンターテイメント性は重量とのトレードオフということでしょうか。レースでは軽いのが正義ですからね。でもエアコンとかナビとかはちゃんと付いてますけど。

Ms.Precious なるほど、事前情報ありがとうございます。ではクルマを見に行こうかしら。

松任谷 はい、この裏に停めてあるので。

Ms.Precious うわー、こんなボディカラー初めて見ました。

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「マクラーレンのイメージは私たちの世代はF1、そしてアイルトン・セナ。でもこの車はあのマルボロの赤×白じゃなくて、いったい何色と呼べばいいのかしら…」(Ms.P)

松任谷 実を言うと僕もなんです。すごいですよね。他のエキゾチックカーメーカーにも似た色はあるらしいです。なんでもそっちでは1000万近くのオプションだとか……。

Ms.Precious なるほど、でもこの塗装ならそれもあり得ますね。これは派手なんでしょうか地味なんでしょうか?

松任谷 こればかりは街中などで他の人が乗っているところを見ないと分かりませんよね。でもやっぱり派手なのかなあ。ちなみにこのボディーカラーはカラーストリームと言うらしいです。慣れるとなんだかしっくりきそうな気もしますけど。

Ms.Precious 私は好きかもしれません。

松任谷 ドアはこうやって開きます。

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「そうそう…この上に開くドア。“スーパーカー”って感じで、男の子はワクワクですわよね。きっと」(Ms.P)

Ms.Precious 知ってました。だいたい今のマクラーレンはこうですよね?

松任谷 ……たぶん……

Ms.Precious 乗り込むためにはこうやってちょっとかがむ必要があるんですね。

松任谷 そういえば最初の頃はドアノブがどこにあるのか分からなくて苦労したことがありました。

Ms.Precious どこにあったんですか?

松任谷 確かこのボディサイドのくぼみに何かセンサーのようなものがあって、そこを何かが通過すると開いたような……。

Ms.Precious それは分かりませんよね。

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「シートはやっぱりスポーツカーな感じ。キュッと包み込まれるような感じの低いシートに高揚感を覚えます」(Ms.P)

松任谷 あと、シート調整が電動なんですけど、これまた異常にわかりにくくて、思ったように調整出来るようになるまでずいぶん時間が掛かりました。

Ms.Precious このアルトゥーラは普通そうですね。

松任谷 そうですね。ずっと普通です。でも前後のスライドだけは手動ですよ。

Ms.Precious あら……。

松任谷 運転してみましょう。座ってください。

「思ったより乗り込みやすい!見晴しも素晴らしくいい」──Ms.Precious

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「こんな低い車高のクルマは久しぶり。低くて狭いのかしら…と思いきや、運転席からの視界が広く感じます」(Ms.P)

Ms.Precious 思ったより乗り込みやすいわ。びっくり。

松任谷 そうなんですよ。シートの形状とかサイドシルの位置とかがよく出来ていて、スッと乗り込めますよね。

Ms.Precious 低いですね。手を伸ばすと道路に手が触れます。

松任谷 そう、でも案外ロードクリアランスはしっかりととられていて、どこかを擦るようなことはあまりないです。

Ms.Precious 見晴しも素晴らしくいいわ。

松任谷 これもマクラーレンの美点ですよね。直前の路面が見えますからね。それに走ると分かりますが、生理的にも落ち着くんですよ、このポジションが。そしてクルマが小さく感じられるようになるんです。幅が2メートル超あるのに、狭い道でバスとすれ違うのも楽々でした。これはマジックだと思いましたね。

Ms.Precious ではスタートします。この赤いボタンを押せばいいのかしら。

「ボタンがシンプルなのも今の“スポーツカー”って感じ。そぎ落とされたデザインがかっこよくてワクワクします」(Ms.P)

松任谷 そうですね。そしてその下のDを押せば前進、Rで後退、それだけです。

Ms.Precious では行きます。あっ、エンジンはかからないのね。

松任谷 そう、このデフォルトのコンフォートモードになっていれば、そしてバッテリーにある程度電気が溜まっていればエンジンはかからずモーターだけで静かに走りだします。深夜、早朝、こっそりと出て行けます。モードを電気モードにすれば、エンジンはかからずに、フル充電されていれば30キロ程度の距離ならモーターだけで走れるそうです。

Ms.Precious 印象は重厚、です。

松任谷 ああ、そうですね。僕もそう思いました。でもこのクルマが1400kg弱というのはそうとう軽いと言うことなんですけどね。

Ms.Precious 四隅がガッチリしている感じなんでしょうか。すごく踏ん張っている感じがしますね。あとペダル類が重いですね。特にブレーキは最初効かないのかと思ってびっくりしちゃった。

松任谷 レース由来の操作感ですね。このくらいの重さがないと限界付近で走る時に変な動きをしちゃいますから。それにアクセルとブレーキの高さが同じなのもレースカー的。バックする時に踏み間違い要注意だけど。

Ms.Precious でもハンドルは軽いですね。

松任谷 絶妙にいい感覚ですよね。フェラーリの感触と似ているなあ、と思いました。軽くて正確。路面からのフィードバック量も適正。

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「高速でも頼もしい…アクセルを踏み込んだらちゃんと感覚が伝わってくる感じ。運転好きにはたまりません」(Ms.P)

Ms.Precious 高速に乗りますね。

松任谷 踏んでみましょう。

Ms.Precious あ、エンジンかかった……。

松任谷 そうですね。ちょっと気分が上がりますよね

Ms.Precious ところで、これ、乗り心地いいですよね?

「街中でも毎日使いたくなるくらいの乗り心地」──松任谷

松任谷 そうなんですよ。このコンフォートモードではライバル達よりはずっと乗り心地がいいです。街中でも毎日使いたくなるくらいの乗り心地ですかね。

Ms.Precious 高速では安定してますね。

松任谷 そうですね。今日は試せませんが、以前、箱根で乗った時には、とにかく安心感があったことを思い出しました。

Ms.Precious ところで私の運転は何点くらいですか?

松任谷 実を言えば走り始めてハンドルを切った瞬間に上手な人だと思いました。こんなことを言うと嫌われちゃうんですけど、最初のハンドルさばきだけでその人がどの程度の技量の持ち主かすぐに分かるんですよ。

Ms.Precious まあ、怖い。

松任谷 職業病ですね。でもご心配なく、素晴らしいです。

Ms.Precious では私の職業はお分かりかしら?

松任谷 そういえばお聞きしてなかったですね。

Ms.Precious タクシードライバーです。

松任谷 えっ、うそですよね?

Ms.Precious いえ、普段タクシードライバーやってます。

松任谷 で、マクラーレンですか?

Ms.Precious 不思議だと思われますか? だって運転好きなもので……。

松任谷 会社を経営されているとか?

Ms.Precious 主人が親会社をやってますが、同僚はそのことは誰も知りません。

松任谷 なんだか映画みたいですね。バレたら大変じゃないですか?

Ms.Precious 大丈夫です。ここでも名前は出ないし、シフトの関係で会社ではクルマを洗っている時に少し話をするくらいですから。

松任谷 へえ、そんな話があるんだ。びっくりしました。

Ms.Precious いつか偶然お会い出来るといいですね。

松任谷 いや、これからタクシーに乗る時はもっとちゃんとしなきゃ、と思いました。

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今月のクルマ
【マクラーレン アルトゥーラ】
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,539×2,080×1,193mm
車輛重量:1,395kg
車両本体価格:¥34,289,156(ベース価格)

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

問い合わせ先

マクラーレン・オートモーティブ

この記事の執筆者
1951年、東京都生まれ。1974年 慶應義塾大学・文学部卒。4歳からクラシックピアノを習い始め、14歳の頃にバンド活動を始める。20歳でプロのスタジオプレイヤー活動を開始し、バンド「キャラメル・ママ」「ティン・パン・アレイ」を経て、数多くのセッションに参加。その後アレンジャー、プロデューサーとして松任谷由実、松田聖子、ゆず、いきものがかりなど多くのアーティストの作品に携わる。1986年には音楽学校「MICA MUSIC LABORATORY」を開校。ジュニアクラスも設け、子供の育成にも力を入れている。松任谷由実のコンサートをはじめ、JUJU、平原綾香など様々なアーティストのコンサートやイベントを演出、映画、舞台音楽も多数手掛ける。2021年よりバンド「SKYE」に参加。日本自動車ジャーナリスト協会に所属し、長年にわたり『CAR GRAPHIC TV』(BS朝日・毎週木曜23:00~)のキャスターを務める他、『日本カー・オブ・ザ・イヤー』の選考委員でもある。ラジオ『松任谷正隆のちょっと変なこと聞いてもいいですか?』(TOKYO FM・毎週金曜17:30~)にも出演。好きなもの:朝のお茶の時間、夜の昼寝。
PHOTO :
小倉雄一郎(小学館)
WRITING :
松任谷正隆
EDIT :
三井組