かつて1万円で売られた絵が、なぜ世界的名画になったのか?

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ヨハネス・フェルメール《真珠の耳飾りの少女》1665年頃 油彩、カンヴァス マウリッツハイス美術館(C)Pictures From History/Universal Images Group via Getty Images

今や、世界的に有名な絵画が日本にやってくると、当たり前のように長蛇の列ができるほど世の中が熱狂するようになったが、「真珠の首飾りの少女」の人気がまた凄まじい。

まるで、作品に描かれた少女自身がアイドルであるかのような扱い。確かにこれは今、世界的にも「北のモナリザ」と呼ばれるほど注目度は高く、真珠の首飾りをした少女が"もう一人のモナリザ"になっているのは、間違いないのだ。

でも、なぜ今これほどまでにこの作品がもてはやされるのか? 美術の専門家に言わせると、もともとそれほど有名な作品ではなく、少なくともフェルメールの生前は全く知られていなかった。それどころか、フェルメールが亡くなってからの扱いはひどいもので、たった1万円で売られていたとの説もあるほど。

それが今世界中で最も有名な作品の1つになっている。その秘密は何なのか? 1つには、そのモデルになったのが誰であるか未だ謎であること。その辺りもモナリザとよく似ているが、もう一つ、1999年にその謎を解くような小説が書かれ、一大ベストセラーとなって、それがその後に映画化されたこと。

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2003年12月11日、カリフォルニア州ロサンゼルスのパシフィック・ガレリア・シアターにて、『バラエティ』誌主催のスクリーニング・シリーズ『真珠の耳飾りの少女』の会場で、ポスターにサインをするスカーレット・ヨハンソン。(C) Jon Kopaloff/FilmMagic via Getty Images

タイトルも同じ「真珠の耳飾りの少女」。
そして、絵のモデルを演じたのが、当時まだ19歳のスカーレット・ヨハンソンであった。その映画、見ただろうか?   様々な見方があるはずだけれど、これを見た人は皆、スカーレット・ヨハンソンがあまりに美しく神秘的で、絵のモデルとしてこれ以上の演技はなかったことが、この絵の価値を爆発的に高めたのではないかと思っているはず。私自身、そう思うのである。

フェルメールの妻を激しく嫉妬させたもの

映画の中で、絵のモデルはフェルメールの家で雇われたメイドの1人だった。その少女のとてつもない透明感が、フェルメールの目に留まる。2人の会話はほとんどなく、ただ画家は彼女の姿を描くだけ。しかし画家はいくつかの指示をした。青いターバンを巻きつけ、おそらくは妻のものと思われる真珠の耳飾りをつけさせたのだ。そして、唇を舐めてみてと言った。真珠の輝きの意味と、唇の艶めきの理由が、ここではっきりと示される。   

しかし、絵のモデルになるということが、どれだけ官能的なことなのか?   全く触れ合うことがないのに、画家との間にえも言われぬ魂の交わりがあり、それがどれだけ狂おしいことなのか?  この映画は見事に描いていて、それが絵画をある意味、奇跡的な1枚にしていったのではなかったか?

フェルメールの妻は、アトリエでは何も起きていないのに、気も狂わんばかりに嫉妬する。しかし、観客もその想いが共有できるほど。どこまでも無垢であどけない少女に漂う妖気が、気配としてまざまざと伝わってくるからだ。

“ゴージャスな女”には誰も叶わない!

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2003年12月10日、カリフォルニア州ビバリーヒルズの映画芸術科学アカデミーにて開催された、映画『真珠の耳飾りの少女』のロサンゼルス・プレミアでのスカーレット・ヨハンソン。(C)Jon Kopaloff/FilmMagi via Getty Images

それだけにこの一本で、スカーレット・ヨハンソンは21世紀のセックスシンボル登場という騒がれ方をしてしまう。弱冠19歳でゴールデングローブ賞主演女優賞ノミネートなど、演技力も絶賛される一方で、妖精のような透明感と妖しいほどの色気を合わせもつ美貌を、メディアが熱烈にもてはやすことになる。

ところが本人はその若さで、外見を賞賛されることへの抵抗を示したと言う。とりわけ自分が「ボムシェル型」、つまり男性を魅了するセクシーな美女という位置づけをされ、人間性を軽視されてしまうことへの抵抗を。その証拠に翌年、「スポンジボブ」というアニメーション映画に声だけの出演を果たし、味わい深い演技がこれまた絶賛され、若き実力派であることを確かなものにしたのだ。

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2006年1月16日、「第63回ゴールデングローブ賞」のレッドカーペットに登場したスカーレット・ヨハンソン。映画『マッチポイント』での演技により助演女優賞にノミネートされた。(C)Jeff Kravitz/FilmMagic via Getty Images

ところがこの直後に出演した「マッチポイント」と言う映画でも、既に結婚が決まっている男性の心を激しく奪い、自ら不幸を生んでしまう役で、またゴールデングローブ賞にノミネートされる。それが改めて、セックスシンボルとしての存在感を際立たせてしまうのだ。つまりそのくらい、彼女はハリウッド映画界が待っていた、女神のような存在だったのだろう。

そして40代に入った今でもスカーレット・ヨハンソンはアメリカを代表する美女として常に名前が上がる。日本以上に、本国での方が好感度も人気も高いのだ。それがなぜなのかわかるだろうか。

ずばり英語で言うところの"ゴージャス"だからである。日本語に訳してしまうと、豪華や贅沢という意味になってしまうけれど、欧米人にとっての"ゴージャス"は、少し見合いが違う。美しさだけでないその奥に非常に奥深い魅力を讃えていて、そこには才能はもちろん官能性と知性、純粋さ、強さもたおやかさも合わせもち、誰も抗えない魅力を持つことを、"ゴージャス"と言うのである。

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2026年9月25日、ニューヨーク市リンカーン・センター内のアリス・タリー・ホールにて開催された「第64回ニューヨーク映画祭」にて、映画『ペーパー・タイガー』でレッドカーペットに登場したスカーレット・ヨハンソン。(C)Dimitrios Kambouris/Getty Images for FLC

そういう意味で、スカーレット・ヨハンソンは「最もゴージャスな女性」であると言っていいのだろう。1枚の絵画を世界的な名画に押し上げるほどのゴージャス! そう言っても良い不思議な力をこの人には感じるのだ。

何重にも人だかりができる1枚の小さな絵画「真珠の耳飾りの少女」を目にするたびに、それを思う。 "ゴージャスな女"には誰も叶わないって。

この記事の執筆者
女性誌編集者を経て独立。美容ジャーナリスト、エッセイスト。女性誌において多数の連載エッセイをもつほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザー、NPO法人日本ホリスティックビューティ協会理事など幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。近著『大人の女よ!も清潔感を纏いなさい』(集英社文庫)、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)ほか、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。好きなもの:マーラー、東方神起、ベルリンフィル、トレンチコート、60年代、『ココ マドモアゼル』の香り、ケイト・ブランシェット、白と黒、映画
PHOTO :
Getty Images
WRITING :
齋藤薫