【目次】

【第38回のあらすじ】

大和国主となった秀長(仲野太賀さん)ですが、国を手に入れたからといって、めでたし、めでたしとはいきません。検地によって年貢の仕組みにメスを入れたものの、大和国の財政は依然としてひっ迫したまま。「半年程で暮らしが立ちゆかなくなる」程の経済状態とは、観ているこちらもびっくりです。

そこで秀長が目をつけたのが「商い」でした。城下町・郡山を活性化させ、人と物とお金が集まる町にしようというのです。そうすれば「銭はひとりでに集まってくる」——果たして、そんなにうまくいくのでしょうか。捕らぬたぬきの何とか…にならないとよいのですが。

案の定、古くから奈良で商いを営んできた豪商たちは、そう簡単には動いてくれません。その頃の大和では、寺社が集まる奈良が商いの中心地。寺社などの保護を受けた商工業者の同業者組合『座』が、大きな力をもっていました。

そんななか、妻の慶 (吉岡里帆さん)のアドバイスもあり、秀長は娘の末(池端杏慈さん)が持っていた筆に目を留めます。つくったのは、奈良から郡山へ移ってきた筆職人・才蔵(間宮祥太朗さん)。しがらみの多い奈良を離れ、自分が納得できる筆をつくろうと郡山で店を開いたものの、商売はさっぱり。撤退を考えていた才蔵に、秀長は筆をすべて買い取るから踏みとどまってくれと頼みます。「この筆は、必ず売れる!」

(C)NHK
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ここで少々トリビアを。奈良は現在も高級毛筆「奈良筆」の産地として知られ、奈良筆は、国の「伝統的工芸品」にも指定されています。その歴史は古く、804年に空海が遣唐使として唐に渡った際に筆の製法を学び、帰国後、大和国でつくらせたのが始まりと伝えられています。

秀長は豪商・川窪清俊(カトウシンスケさん)らと話し合いますが、奈良商人の壁は厚く、なかなかうまくいきません。彼らが守りたいのは「古よりの習わし」。とうとう秀長は「ひと月で郡山を、人が集まる栄えた町にしてみせよう」と大見得を切ってしまいます。戦の次は、町おこし。秀長の、刃をもたない新たな“戦”が始まりました。

(C)NHK

大見得を切ったものの、策はなし。起死回生の策として白羽の矢を立てたのが、やはり才蔵の筆でした。「銭を生むものに銭を貸す」。今風にいえば、ベンチャー企業への「投資」ですね。

とはいえ、すぐに結果が出るはずもなく…ほとほと困った秀長が千宗易(吉岡秀隆さん)に相談すると、紹介されたのが、秀吉お抱えの天才絵師・狩野永徳(片岡鶴太郎さん)でした…あら、このお方、確か江戸時代でも絵描きさんでいらしたはず(『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の妖怪画家・鳥山石燕)…似合いすぎますね! 

(C)NHK
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永徳が才蔵に注文したのは、大きな屏風の端から端まで、一気呵成(かせい)に線を引いても墨がかすれない筆。なかなかの無理難題です。鹿、馬、リス、タヌキ、キツネ、イノシシ、…さまざまな動物の毛を組み合わせ、才蔵は試作を重ねますが、どうしてもうまくいきません。

筆をつくっていく工程に、筆者はすっかり目を奪われました。以前、テレビ番組で伝統的な筆づくりの様子を見たことがありますが、ドラマでも職人の手仕事が丁寧に描かれていました。何百年もの時を経て、今もその技が受け継がれていると思うと、感慨深いものがあります。

難航する筆の開発。突破口になったのは、またしても末でした。彼女が持っていたヤク(チベットなどに住むウシ科の動物)の毛を使うことで、ついに永徳を満足させる筆が完成します。その筆を使って永徳が描き上げたのが、ドラマではあの『唐獅子図屏風』。現在、皇居三の丸尚蔵館が収蔵する 『唐獅子図屏風』は6曲1双の大作で、右隻が狩野永徳筆。左隻は後年、狩野常信によって描かれ、国宝に指定されています(※)。

※唐獅子図屏風の画像は文化庁が運営する文化遺産オンラインで閲覧することもできます。

ちなみに永徳筆の右隻だけでも、高さ約2.2メートル、幅約4.5メートル。なるほど、端から端まで一気に線を引こうとすれば、筆にも相当な性能が求められそうです。 ただし、才蔵の筆からこの名画が生まれたというくだりは、もちろんドラマならではのお話。史実とフィクションをうまく織り交ぜた展開です。

「狩野永徳御用達」となれば宣伝効果は抜群。才蔵の筆は評判を呼び、郡山にも商人が集まり始めます。刀を振るわず、いいものをつくる職人を見つけ、その価値を世に知らしめて人を呼ぶ。なんとも秀長らしい国づくりです。兄弟が揃って「万民をことごとく豊かにする」という目標を見失わなければ、この先に訪れる悲劇はなかったはず…。

そしてもうひとつ、この回で大きな歴史が動きます。大坂では、関白となった秀吉(池松壮亮さん)が、帝の許しを得て新たな「氏(うじ)」を名乗ることに。悩んだ末に選んだのが――「豊臣」。

一般に「秀吉が『豊臣』の氏を賜った」と説明されるこの出来事には、1585(天正13)年説と1586(天正14)年説があり、史料によって記述に違いがありますが、現在は天正13年説が確かだとされています。 ちなみに、「羽柴」は名字で、「豊臣」は氏。ですから、秀吉が「羽柴」を捨てて「豊臣」に改姓した、というわけではありません。

いずれにしても、ここにようやく「豊臣秀吉」、そして「豊臣秀長」が誕生。第38回にして、ついにドラマのタイトル『豊臣兄弟!』が完成しました。


【ドラマよりずっと大胆! 秀長が行った郡山の「町おこし」】

ドラマでは、売れない筆職人・才蔵に目をつけ、「この筆は必ず売れる!」と資金を投じた秀長。筆を郡山の名物にして商人を呼び込むという、現代で言えば「地域ブランドづくり」のような作戦でした。もちろん、このエピソードはドラマの創作を含んでいます。では、史実の秀長はどのように郡山を繁栄させたのでしょうか。

■「箱本」制度の導入

実際の政策は、ドラマ以上に大胆でした。

1585(天正13)年、郡山城に入った秀長は城下町の建設を進めるとともに、奈良や堺などから商人や職人を集めました。さらに、城下を13の地区に町割りし、それぞれの町が同一の商工業者で構成されるよう差配したうえで、営業上の独占権を認めるなどの特権を与えたのです。

現在の大和郡山市にも、紺屋町、豆腐町、魚町と塩町(当時は魚塩町)、材木町、雑穀町などの町名が残っています。名前を見ただけで、どんな商売をしていた町なのか想像できますね。

こうして生まれた城下の中心が、のちに「箱本十三町」と呼ばれる13の町です。町人たちは商売上の特権を得る一方、町の警護や火事への対応、伝馬(てんま/紅葉の馬)の管理などを月替わりで担当しました。当番の町が、特権を記した重要書類を収めた「御朱印箱」を預かったことから、「箱本(はこもと)」と呼ばれたそうです。

商人を集めて儲けさせるだけでなく、町の運営まで任せる。なかなか合理的な仕組みです。

■実は秀長、「お金」にはかなりシビアだった?

ドラマの秀長は、人情味があって気前もよく、お金より人を大切にする人物として描かれています。しかし史実としての人物評には、「お金に対する執着が…」というよからぬ噂も。

興福寺の僧・英俊が記した『多聞院日記』によれば、1589(天正17)年、秀長は奈良の町々に対し、金子1枚を米4石として、総額で米1万石ほどに相当する金を貸し付けています。しかも日記には「押してかくのごとし」とあり、町人が自由に「借りたい」と申し込むような、のんびりした融資ではなかったようです。

さらに驚くのは秀長の死後。1591(天正19)年、郡山城には金子5万6000枚余り、現在の貨幣価値にして約220億円以上ともいわれる金が蓄えられ、銀は約3.6メートル四方の部屋に大量に積まれ、銭にいたってはどれほどあるのかわからないほどだったと『多聞院日記』に記されています。すごい蓄財力です。

こうした記録から、「秀長はケチだった」「高利貸しをしていた」と評されることもあります。ただし、領主による貸し付けには、町人に資金を供給して領国経済を活性化させるという側面もあったと考えられています。また、兄・秀吉が合戦や政治に惜しみなく金を使う一方、その財政を支える、いわば汚れ仕事を秀長が引き受けていたため、と見る説も。こう考えると、秀長のことを単純に「守銭奴だった」と決めつけるのは早そうです。

武将というと、戦の強さや領地の広さに目が向きがちですが、国を治めるには、お金を集め、使い、増やす能力も必要です。ドラマでは「銭を生むものに銭を貸す」と語った秀長ですが、史実の秀長もまた、かなり鋭い経済感覚をもった「商売上手な武将」だったのかもしれません。


【次回『豊臣兄弟!』第39回「茶々の本心」のあらすじ】

秀吉(池松壮亮さん)は石川数正(迫田孝也さん)を大坂城に呼び、徳川と真田の和睦を命じる。豊臣家の財力と勢いを目の当たりにした数正は家康(松下洸平さん)を説得しようとするが、家康は和睦を拒否、対豊臣の戦支度を始める。

(C)NHK
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一方、秀長(仲野太賀さん)は秀吉に、後継者となる実子をもうけるため新たに妻をめとるよう勧める。相手は織田の血を引く茶々(井上和さん)しかいないと言われた秀吉は、寧々(浜辺美波さん)の心中を慮り猛反発するが…。

※『豊臣兄弟!』第38回「知を以て、和をなす」のNHK ONE配信期間は2026年10月11日(日)午後8:44までです。

この記事の執筆者
美しいものこそ贅沢。新しい時代のラグジュアリー・ファッションマガジン『Precious』の編集部アカウントです。雑誌制作の過程で見つけた美しいもの、楽しいことをご紹介します。
WRITING :
河西真紀
参考資料: 『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /NHK 大河ドラマ『豊臣兄弟!』公式 「X」/『豊臣兄弟!完全読本』(産経新聞出版)/大和郡山市「箱本制度」(https://www.city.yamatokoriyama.lg.jp/section/rekisi/src/history_data/h_030.html?utm_source=chatgpt.com)/奈良市「奈良筆」(https://www.city.nara.lg.jp/soshiki/109/4502.html?utm_source=chatgpt.com)/皇居三の丸尚蔵館「唐獅子図屏風」(https://collection.shozokan.nich.go.jp/object/SZK002944?utm_source=chatgpt.com)/国指定文化財等データベース「唐獅子図屏風」(https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/00011962?utm_source=chatgpt.com) :