人生の後半戦を見据えて──40代からの決断と「キャリアの舵取り」
かの有名な中国の思想家・孔子は『論語』にて「四十にして惑はず」と述べたそうですが…、いやいや現代の40代は「不惑」どころか、迷うことばかり。そんな迷える私たちに、ひと筋の光を与えてくれる先輩たちの言葉には、これからを生きるヒントがぎゅっと詰まっています。
輝く先輩女性たちに、無我夢中で走り抜けてきた一周目が一段落した今、これから先の二周目、三周目はどんな未来を描きたいか?根掘り、葉掘り、お話しをお聞きしました。
今回は、TBSアナウンサーとしてのキャリアを経て、現在は兵庫県姫路市教育長として活躍する久保田智子(くぼた ともこ)さんにお話しをうかがいました。
「与えられた20代の変化と違って40代はすべて自分が選んだ道。その決断を正解にするのは自分しだいです」──姫路市教育長・久保田智子さん
2000年にTBSへ入社。明るい笑顔と落ち着いた語り口で『どうぶつ奇想天外!』『はなまるマーケット』といったバラエティから『news23』『Nスタ』などの王道の報道番組まで幅広く担当、老若男女問わず親しまれていた久保田智子さん。2013年からは報道局兼務となり、NY特派員や政治部記者として活躍した。
「ありがたいことに、さまざまな分野の番組を担当させていただきました。もともと変化への耐性は強く、新しいことも楽しんで挑戦するタイプ。20代、30代はどんな壁も突破するエネルギーがあり、経験から得られるリターンも大きかった。一方で、30代半ばを過ぎた頃、自分の強みってなんだろう? と考えるように。与えられた環境でコンスタントに平均点を出すことはできるけれど、100点以上を叩き出すような、爆発力と、私だけの強みとは? なんでもこなせる器用貧乏な自分に迷いが生じてきたんです」
38歳で結婚。すぐに夫のNY赴任が決まり、1年後にTBSを退社し、NYへ。
「タイミングですね。何をするかはまったく決めていませんでした。ただ、会社の外へ出て、自分の視野を広げたい。何かひとつの分野を深く掘り下げたい。そんな思いから、世界各地を旅すること、大学院で学ぶことは漠然と考えていました」
海外で暮らし、世界を旅することで、広島出身の自らのアイデンティティについて考えさせられたと久保田さん。
「改めてヒロシマや戦争について見つめ直しました。NYには国連の会議等で被爆者の方がいらっしゃいます。その声と思いを残すために、何かお手伝いできることはないか調べていました」
そんなある日、Facebookにコロンビア大学大学院の「オーラルヒストリー専攻」の広告がポップアップされる。
「気になって調べてみたら、これだ!と。オーラルヒストリー(口述歴史)とは、文献ではなく関係者に直接話を聞き、それを歴史的な記録として残す学問です。アナウンサーや記者としてのインタビュー経験も生かせると思いました」
ところが実際に学び始めると、対等な立場で、自分のバイアスを外して話を聞くことの重要性が身に沁みたという。
「これまでのインタビューの手法とはまったく違いました。フラットな対話によって自分のなかの常識が変容したりアップデートしたり。対話の根幹を知り、なにより本当の意味での多様性を学びました」
大学院を卒業後、41歳で帰国。ここでもうひとつ、大きな決断をする。特別養子縁組に登録し、翌年、女児を迎えたのだ。
「20代前半に、医師から将来妊娠することは難しいかもしれないと告げられました。当時は仕事も忙しく結婚や出産の実感もあまりなかった。でもどこかで人とは違う自分を感じながら、時間をかけて妊娠以外の子供をもつ選択肢を考えていたのかもしれません。その後、養子縁組について知り、制度も意識も日本より進んでいるNYで暮らしたこともあって、特別養子縁組を決断しました」
子育てをしながら、ジョブリターン制度を利用してTBSに報道記者として復帰。さらに、姫路市内の高校で非常勤講師として、オーラルヒストリーを通じて、阪神・淡路大震災について学ぶクラスを担当する。この縁が、姫路市教育長のオファーへとつながった。
「本当に私でいいのか。葛藤はありましたが、子育てを通して実感する教育の重要性や、子育て世代や先生たちの働き方の未来を考えたとき、現場経験のない “宇宙人” のような存在の私が投入されることにより、大きな変化が起きるかもしれない。子どものためにという気持ちは同じ。精一杯取り組みたいと思いました」
2024年1月付で姫路市教育長に就任(任期は3年)。TBSを退職し、現在は娘と姫路市に暮らす。
「これまでの経験のすべてが、やっとつながって今の自分の人生、仕事に生きていると感じます」
「20代の変化は、会社や周りからもたらされたものが多かったけれど、40代はすべて自分で選んだ道です。その決断を正解にするのも自分しだい。鍛えてきた変化への耐性と、子育ての経験、オーラルヒストリーで学んだ対話の手法。すべてが今の自分の仕事に生きていると実感します。子どもにも上司にも部下にも常に対等であること、否定しないこと、相手に裁量をもたせること、こうでなくちゃを取り払うこと。そして、当たり前すぎて忘れがちだけれどよく寝ること(笑)。特に教育現場においてはできるところは効率化して、先生たちも親御さんたちも “休んで、休んで、休んで” ほしい。体の余裕は心の余裕につながりますから。アナウンサーや記者として言葉を扱う仕事をしてきたからこそ、そんなメッセージやビジョンを、わかりやすくビビッドに伝えていきたいと思っています」
〈久保田智子さんのHistory〉
23歳:東京外国語大学卒業後、TBSに入社。アナウンサーとして『どうぶつ奇想天外!』『筑紫哲也 NEWS 23』『報道特集』などを担当
38歳:結婚。翌年、TBSを退社して渡米
40歳:コロンビア大学大学院にて修士号を取得
41歳:帰国後、特別養子縁組に登録
42歳:1月、女児を迎える
43歳:ジョブリターン制度を利用し、報道記者としてTBSに復帰
45歳:姫路市内の高校で非常勤講師に
47歳:TBSを退社、姫路市教育長に就任
直感で一問一答!
◉好きな言葉は?「レス・イズ・モア(Less is more)。少ないほど豊かであるという意味」
◉生まれ変わったら何になりたい?「男性」
◉動物に例えると?「猫。マイペースだから」
◉最近観たおすすめの番組は?「コメディドラマ『ヤング・シェルドン』(Netflix)。『ビッグバン★セオリー』のスピンオフドラマで、ちょっと変わった子、シェルドンとその周囲の人とのハートフルな物語」
◉推しは?「推しではないですが、推しポッドキャストは『コテンラジオ』。ここで知る歴史や人物がとにかく愛おしい。毎日聴いています」
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- PHOTO :
- 篠原宏明
- EDIT&WRITING :
- 田中美保、木村 晶(Precious)

















