いつものバーで、作り終えて差し出しながら
バーテンダーが言った。
「アプリコット・ブランデー、ペルノー、シ
ャルトリューズイエロー。イエローパロット
=黄色いオウムです」
そっと持ち上げた紳士は、少し眺めて口に。
「これは良いことのある味だな」
よくここで会う上等なスーツのこの人は現
役を引退。それでもたまにはきちんとした身なり
で外に出たいけれど、しかし映画や美術館は勤務中
にサボっているように見える。結局夜のバー
が手ごろで、そうなると色々なカクテルを知
りたくなり試しているそうだ。「めったに出
ないものは、私の勉強にもなるんです」とバ
ーテンダーが言葉を添える。
若い俺は安いものしか飲めないが、男同士
は仕事の話になる。某国出張でいろいろ困っ
たと言うと、そういう時はここを訪ねると良
いと、名前だけの名刺に大使館あて紹介状を
書いた。
自分はお堅い官庁にいたのでバーもあまり
通えず、まして髭なんて伸ばせなかったと苦
笑し、ここはこれができるのもいいんだとパ
イプを口からはずした。
親子ほども歳の違う人とは素直に話せ、仕
事の豊かな経験や、男の子供がほしかったと
いう口ぶりに、次第に人間的な尊敬をもつよ
うになった。
「遅れてごめんなさい」
入ってきた若い女性がためらわずその人の
隣に座り、さらに「これ、娘」と言われて立
ち上がり「父がいつもお世話になっておりま
す」と挨拶されあわてた。
驚いた。娘がいるなど聞いたことがなかっ
た。いかにも清潔なお嬢さんだ。これは行儀
よくしないと。
「男同士、バーの友達なんていいですね」
父娘でそんな話をしていたのか。「いえ、
ぼくこそいろいろ勉強させていただいてます」
と父を見ると、にやにやパイプを吹かしてい
る。
〝黄色いオウム〟はこの娘のことだったか。
イエローパロット Yellow Parrot
リキュール・ベースのカクテルは数多くあるが、イエローパロットはかなりのカクテル通がたのむ粋な一杯。レシピは、同量のアプリコット・ブランデー、シャルトリューズイエロー、そしてペルノー(アブサン)をミキシンググラスでステア。オウムをイメージさせる曲線が個性的なグラスに注がれたその仕上がりは、クリアながらも深みのあるイエローが美しい。そんな見た目とは裏腹に、アルコール度数は高め。しかも、ハーブの芳香で深い甘さを包んだような香りが独特。舌の上で転がすようにして、ゆっくりとその風味を楽しみたい。バーテンダー/ BAR GOYA 山﨑 剛
- TEXT :
- 太田和彦 作家
- PHOTO :
- 西山輝彦
- EDIT :
- 堀 けいこ