大人の幸せを感じられる瞬間のひとつとして、シャンパンを嗜んでいる皆様。そのおいしさを感覚だけでなく、さらに深く理解してみませんか? 今回はモエ・エ・シャンドンの醸造最高責任者であるブノワ・ゴエズさんに、シャンパンをより楽しむ為の「ペアリング」に関する疑問の数々をお答えいただきました。

夏の昼下がりのカフェやプールサイドなど、今年も日差しの下でシャンパンを楽しんだ人は多いのではないでしょうか。シャンパンは「祝い事の乾杯の席で飲むためのもの」なんてセオリーはもはや過去のもの。いまやシャンパンはとても身近な飲み物になっています。

だからこそ、シャンパンとひと言でいっても、ヴィンテージやロゼなど、たくさんの種類にも恵まれています。そこで、モエ・エ・シャンドンの醸造最高責任者のブノワ・ゴエズさんが来日されたのを機に、もっとシャンパンを味わうためのお話を伺うとともに、長野県松本市の山間にある温泉旅館「扉温泉 明神館」にて、日本の郷土料理とシャンパンのペアリングを体験してきました。

旅館「扉温泉 明神館」
取材およびペアリングディナーの舞台となったのは、国内外からゲストが訪れる長野県松本市の旅館「扉温泉 明神館」

「マリアージュ」ではなく「アコード」または「ペアリング」と言うべし

食事と一緒にシャンパンをいただく際、その組み合わせの「マリアージュ」というものを考えた際に、守らなくてはならない基本的なセオリーはあるのでしょうか。その疑問から始まったインタビューでしたが、衝撃的な言葉が返ってきました。

「『マリアージュ』という表現をしているのは、日本でしか聞いたことがないことをお伝えしなくてはならないですね。フランスでは『ACCORD(アコード)』といっています」

なんと! 「マリアージュ」という表現はフランス語だから、フランスでよく使われていると思っていました。マリアージュというのは日本国内だと通じますが、相手によっては通じないようなので、ペアリングと言ったほうがいいようです。

「これは私個人の考え方ですが、完璧なペアリングというのは単なる飲み物と料理の関係だけではなく、そのときの場所や誰と一緒にいたのかなども含めて「ああ、あのときのあのワインと料理が最高のペアリングだった」となると思います。それを同じように再現できるかというと、不可能です。素晴らしいペアリングというのは、もっと超越したところにあると思っています」

モエ・エ・シャンドン醸造最高責任者 ブノワ・ゴエズさん
モエ・エ・シャンドン醸造最高責任者 ブノワ・ゴエズさん
ラウンジの様子
テーブルに着く前のラウンジでの時間も、「最高のペアリング」への気分を高めてくれる要素として大切に

シャンパンと料理の相性を高めるための「守るべき4つの原則」

最高のペアリングはさまざまな要因がからみあった結果生まれるもの。しかし、それを導き出すための原則があるとブノワさんは教えてくれました。

その4つの原則はこちら。

■1:デリケートなワインには、新鮮で繊細なお料理を合わせる

「シャンパンのように繊細なワインでは、新鮮かつ同じように繊細なお料理と合わせること」

■2:塩味やミネラルなどを含むメニューを合わせる

「シャンパンのなかの味の要素には、酸味、甘味、そして旨味があります。では、“五味”といわれる人間の味覚のなかで、シャンパンのなかに含まれていないものはなにか。それは塩味なんですね。だからこそ、このシャンパンのブリュットを飲んだときに、自分の口が欲するものはなにか。その五味のバランスをとることができる塩味のある料理や、ミネラル、海洋性のものを含むもの。それで五味が完成されて、いいペアリングになります」

■3:あまり調理過程で素材に火を入れ過ぎないものを合わせる

「シャンパンという飲み物は、軽やかで風味豊かなもの。その魅力を損なわないためには、材料を軽やかに仕上げた、火が通りすぎてドライになっていないもの。素材を生かしたあまり調理をしすぎないものがいいと思います」

■4:カリッとクランチーな食のアクセントがあるものを合わせる

「4つ目は、これだけの繊細で泡のあるシャンパンの魅力のために。食感がやわらかくマイルドなものだと、せっかくのはじけた形が損なわれてしまうので、カリッとクランチーなアクセントや、シャリッとした繊細な食感があったほうがいいと思います」

もちろん、すべての条件を満たしたメニューだけを食べろというわけではありません。でも、なんとなくシャンパンに合わせて食べるものとしてイメージできますよね? 料理のコースのはじめにフィンガーフードやコールドプレートとともにシャンパンをいただくことは、その点からも非常に理にかなっているといえます。

モエ・エ・シャンドンの「モエ アンぺリアル」と料理
モエ・エ・シャンドンの「モエ アンぺリアル」と合わせたのは季菜「山女酒浸し/腰油浸し/もずく/楓豌豆/黄味酢」。フルーティな「モエ アンペリアル」とバランスの整った酸味あふれるお料理とペアリング

シャンパンの飲み方に合わせて生産者側も柔軟に

Precious.jpでもシャンパンを楽しむシーンをさまざまな記事でご紹介していますが、日本での消費傾向の変化をこの数年はまざまざと感じています。それについて、ブノワさんは「日本の市場は成熟している」と評しています。

「日本のように成熟した市場では、シャンパンというものは非常に贅沢なものとまではいいませんが、モダンでよいライフスタイルを楽しむための一部になっています。シャンパンをかしこまって飲むのではなく、自分が心地よくシャンパンを飲みたいから飲む、そういった形に変わってきています」

その影響は、ブノワさんたち生産者側にも大きな影響を与えています。ひとつは、以前はNGスタイルとされていた、シャンパンに氷を入れて飲むこと。モエ・エ・シャンドンでは、氷を入れて初めて完成するシャンパン「モエ・エ・シャンドン アイス アンぺリアル」を創り上げ、夏のパーティーや、太陽の下で冷えたまま楽しめるドリンクとして新たな層を獲得することにつながっています。

「モエ・エ・シャンドンとしても、近年ロゼへの関心が高まる中でもっとロゼ シャンパンを広めていくとか、アイス アンぺリアルのような時代のニーズにあわせた革新性のある商品を創っていくこと。みなさまのいろいろな状況でいろいろなものをもっと楽しみたい、というリクエストに応えていくこと。そのような多様なスタイルのシャンパンがあることを提示しているのに対し、消費者の方たちもその変化に気づいている。そのため、こういったときだったらこういったものを飲みたいという選択ができるようになっている。それぞれのスタイルの違いもわかって、そのシチュエーションに合わせた洗練された飲み方ができるようになってきたということです」

モエ・エ・シャンドン グラン ヴィンテージ ロゼ 2009
モエ・エ・シャンドン グラン ヴィンテージ ロゼ 2009もペアリングディナーに登場
モエ・エ・シャンドンの専用グラス
アイス アンぺリアルはホテルやバーラウンジ、開放的なテラスラウンジなどでは専用のグラスで提供されることも。一般的なシャンパングラスとは異なる、ワイングラスサイズ。大きな氷が入るころっとしたフォルムが特徴的

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この記事の執筆者
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WRITING :
北本祐子