モデルとして活躍する傍ら、小説家としての顔をもつ押切もえさん。2冊目の小説にして「第29回山本周五郎賞」にノミネートされた短編集『永遠とは違う一日』(新潮社)が、文庫になって発売されました。

描いたのは、スランプの続く画家、アイドル失格の高校生、キラキラしたくない事務員、腐れ縁に悩むスタイリスト…さまざまな女性の希望と焦り、夢と曲がり角。小説の糧にもなったという、30代半ばで感じた葛藤や生きづらさ、そして書くことへの思いを、直接うかがいました。

働く女性を応援したいという思いも小説を書く力になった

もどかしい思いは、「主人公の悩み」に転換

――― 本作は、一話完結の短編集。多様な登場人物たちの大切なものがキーアイテムとして登場しますね。バッグやジュエリー、チョコレートにノートなど、それぞれがゆるやかにリンクしていきます。
最初は自分の身の周りの職業、マネージャーさんやスタイリストさんなど、エンターテインメントのお仕事に携わっている人の頑張っている姿や苦労、成し遂げたい思いを書きたいな、と思っていました。書き進めるうちに、自分とは全然違う職業や性格の人を書きたいと変化してきて。実際にそういった方々への取材を通して、だれかのひと言で、自分らしさや本当の気持ちに気づいていく、という物語になっていきました。
当時は雑誌『AneCan』の専属モデルをしていたので、読者の方々のような、働く女性を応援したい気持ちもありましたね。知人に「読んだ人から薦められたよ」という話を聞いて、すごくホッとしました。
――― 本当に、自分の気持ちを代弁してもらったかのようなリアルさがありました。文庫化にあたっては書き直されたところもあったとか。
『小説新潮』で連載させていただいて、単行本を出すときにも締切に追われて、ヘロヘロになりながら直したのでもう修正はないだろう…と思っていたのですが、読み返してみるとあれもこれも気になってしまって(笑)。この間に、結婚、出産を経験したこともありますね。取材をしたうえで書いていたので、恥ずかしくなるほどの間違いはなかったものの、ここはひと言添えたいなとか、言いたいことを強調してみようかと。生活が変わって意識が変化した部分もあり、より新しい感覚を取り入れたいなと思いました。
――― モデルのお仕事だけでなく、商品プロデュースや絵画など複数の活動を並行しながらの執筆。切り替えが難しく感じることはありませんでしたか?
私の場合はキャリアが短いので、むしろ机に座ってパソコンとにらめっこしているだけだと、アイデアが出てこないことも多くて。そういうときに、撮影やプロデュースのお仕事で、たまたまいいトレンドに触れられたり、絵を描いていて筆が止まってしまったときに、「文章だったらこんな風に伝えられるな」と気づいたり。
まわり道したからこそ、客観視できて閃くことがたくさんありました。逆にマイナスなこと、たとえば、モデルの仕事でもどかしい思いをしたら「主人公の悩み」に転換して、言われて苦しかったことは「主人公を追い詰める仕掛け」にしていましたね。
あとは、AneCanで対談連載をもっていたこともありがたかったです。お会いした方々に聞いたことをメモして、全部参考にしていました。宮藤官九郎さんが書けないときは散歩していらっしゃると聞いて、体を動かしてみたり。
子育てするようになってからも、赤ちゃんとふたりで家にいて行き詰まってしまいそうなときは、外に出て散歩するようにしています。頭がスッキリして考えが整理できますし、息子もごきげんになるので意識して続けていますね。他にも、瀬戸内寂聴さんにいただいた「気どらないであなたの言葉で書けばいい」というお言葉も大事にしています。
『永遠とは違う一日』書影

世の中には〝幸せの型〟があって、それにはまらないと生きづらい

――― 執筆時期は3年ほど前、もえさんが35歳~36歳のころ。作品からは登場人物たちの希望や焦り、葛藤が伝わってきますが、ご自身に重なる部分はあったのでしょうか?
焦りはありましたね。今なら、「働き方も生き方も人それぞれ自由でいいじゃない!」…という空気だと思うのですが、当時は、女性が堂々と世の中に対して本音を言えなかったというか。「仕事に集中したいから、今は結婚は考えていない」と言っても、強がりにとられてしまう。ちょっと不幸じゃないとオチがないぞ、というような。
――― 確かに。職場などでそんな会話を見かけたり、実際にそういう扱いを受けたことのある30代、40代の女性は少なくないと思います。
私自身、「結婚はなんとなくしたいけれどすぐではない。いくつでしてもいいじゃない」と考えていたのですが、30代半ばの女性がそれを堂々と言うと「かわいくないな」と思われる時代だったなと。こう言っておいたほうがみんな安心するんだろうか…など、周りの目をすごく気にしていたように思います。結果、あたりさわりのないことを言ってしまい、きっとつまらなかっただろうなと最近気づきました(笑)。
でも、本音を抑えていると、家に帰ってふと寂しくなってしまうんですよね。そんな自分のモヤモヤを昇華できたのが小説。小説の中なら、もっとひどい出来事にもできますから(笑)。だから、わだかまりを忘れてしまうのではなく、あえて自分の中にひと粒残しておこうと。そうすると、そのうち芽が出て、花まで咲かせてしまうことができるのも、書くことの面白さですね。
――― ご自身の中の負の部分を出すことに、怖さはなかったですか?
人にはなかなか弱音を吐けないほうなのですが、小説の中だとかっこつけていた部分を取り払って表現できるんですね。結婚したからといって無条件に幸せになるわけでもないし、独身で好きなことに邁進している人も、やっぱり素敵。幸せはどんな形であってもいいはずなのに、世の中にはなんとなく〝幸せの型〟があって、それにはまらないと生きづらいんだなと。
私は「大丈夫なフリ」をしたけれど、同じように苦しい思いをしている人がいるかもしれない。だとすれば、もっと大きな心の叫びにできるなと思いました。
かっこつけていた部分を書くことを通じて取り払うことができたという押切さん
――― かっこいい女性像を表現する機会が多かったと思いますが、ご自身ではかっこつけていた…という感覚なんですね。
「AneCanのモデル」らしくしなきゃ、という思いが強すぎたみたいで。仕事場だけでなく、日常でも、自宅を見せる企画があれば完ぺきに掃除したところを撮るとか、体にいいと聞けば同じ食材ばかり食べてたりとか(笑)。それって自分が疲れてしまうのはもちろん、見ている人も疲れていただろうな。
ポンコツな自分を見せられたら、もっとやわらかい表情も出せたのかなと。出産を経て大切な存在が増えたこともあり、自分に向ける力がいい意味で抜けて「考えすぎていたんだな~」と実感しています。
――― 3年前、35歳くらいのころは、「ゆるめるのがテーマ」とよくおっしゃっていたそうですね。
たぶん、自分で言い聞かせていないと乗り切れなかったのかも。心も体も疲れていたのに、“No”という選択が自分の中になくて、体調にも変化が。整体に行くと、先生に「力が入ってガチガチだよ」と言われていました。
「いつもの感じで!」を10年以上やり続けて、自分で正解を探すより、求められるイメージに合わせていたほうがラクだ、と思っていたところもありました。もちろんスタッフの方はみなさんプロフェッショナルですし、安心感があるのですが、その環境に頼って自分で考えることをやめてしまっていた、というか。
大人になると、メイクひとつ変えるのも怖いですよね。「どうしたの?」って言われちゃうこともある。でも、人の目を気にせず生きようと思えたのが、小説を書いていた時間でした。出会いや言葉をベースに、私自身の人生が変わるように思いを込めて書いていましたね。
――― では最後に。次なる小説の新作も楽しみですが、今後やってみたいことは?
生活のペースが落ち着いたら、ファンの方や読者の方とイベントを通じて、もっとお会いしたいですね! 今は家族との時間を大事にしながら、SNSでの発信を続けていまして。特にインスタグラムでは、フォロワーの方からコメントをいただく機会が増えてきました。「これは聞き逃せないな」という、子育て中のお母さんからの声もいただきます。
元々SNSを始めたのも、ファンの方とコミュニケーションをとりたい、みなさんを知りたいという気持ちから。こちらから一方的に発信するだけでなく、答えられる質問には、できるだけ答えていきたいなと。ネガティブな情報や意見に対してネットって怖いよね…というひと言で終わらせるのではなく、つながれる奇跡に目を向けていけたらと思っています。
SNSを通じたコミュニケーションに可能性を見出していると語る押切さん

プライベートでは2016年に結婚し、現在は一児の母となった押切もえさん。すらりと伸びた手足に、透き通るような美肌――爽やかな白のワンピースで取材場所に現れたもえさんの姿は、母となった今もトップモデルとしての美しさそのまま。優しさあふれる笑顔に、スタッフ一同癒されながらの取材となりました。

『永遠とは違う一日』
新潮文庫 590円(税別)
「誰かに認められたいなら、もっと全力でやって」。東山路代はマネジメントを担当するモデルの咲子に不満を抱いていた。今日こそは言う。そう決意した矢先、収録現場に遅刻し、咲子を怒らせてしまう。憧れのバンド 7BOYS の傍で働くために上京して早四年、夢見ていた場所は遠すぎる――。華美な世界に生きながら決して特別ではない女性たちを描く6編を収録した作品集。第 29 回(2016 年)の山本周五郎賞ノミネートでも話題になった傑作が、ついに文庫化!
押切もえ 『永遠とは違う一日』 | 新潮社
押切もえさん
モデル・小説家
(おしきり もえ)1979年千葉県生まれ。10代で読者モデルとして活動を始め、2001年から2007年までファッション誌「CanCam」の専属モデル、2007年から2016年まで「AneCan」の専属モデルを務める。絵画が趣味で、二科展絵画部門では3年連続入選。おもな著書に『モデル失格』『浅き夢見し』『永遠とは違う一日』『わたしからわらうよ』など。
押切もえオフィシャルブログ
この記事の執筆者
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PHOTO :
相馬ミナ
EDIT&WRITING :
佐藤久美子