今月は、2018年11月9日公開の映画『体操しようよ』で草刈正雄さんの娘役を演じた木村文乃さんにインタビュー。映画のエピソードのこと、キャリアのこと、いろいろ聞いちゃいました。

木村文乃さん
木村文乃さん

——定年退職した父が娘にハッパをかけられながら“成長していく”姿をコメディータッチで描いた本作。木村さんはちょっと父に厳しい娘を演じています。本作に出演された理由から教えていただけますか。

ちょうどお話があったとき、「そろそろ『今日映画見に行った?』『何見た?』といった普通の会話ができる役をしたいね(笑)」と話をしていた矢先に本作のお話をいただきました。まさに「これでした!」と思いましたね。本当は撮影していたドラマが終わったらお休みをいただこうと思っていたんですが、気づいたら自分で自分を追い込んでいました(笑)。

©️2018『体操しようよ』製作委員会 
©️2018『体操しようよ』製作委員会 

——弓子役にはどのようにアプローチをされましたか。

私はちゃんと反抗期に反抗してきたタイプの人間ですが、弓子は反抗期に反抗できずに来たタイプ。だから言われた方の痛みをわかっちゃう人だろうなと思ったので、その辺から役をつくっていきました。つっけんどんな感じなので、わかりにくくはありますが、父への愛情があってそうしているのだと意識して演じていました。見終わったマネージャーさんが「すごくキツく見えたね」って言っていたので、良かったんだか悪かったんだか(笑)。でも、世の中の異性の親子関係ってこうなっちゃうんだろうなと思っています。

——共演者の方の多くが年上の方々ばかりでしたね。

そうなんです。しかも、私はAB型ですが、現場は草刈さんや監督も含めO型ばかり。だからすごく穏やかで。私にとってはとても居心地のいい現場でした。ただ、ラジオ体操のシーンは晴れたところで撮りたいという監督の思いがあったんですが、悪天候続きだったんです。それで監督がどんどん小さくなってしまい、おまけに風邪まで引き出しちゃって(笑)。だから、みんなが監督のために頑張ろうという一致団結した感がありました。監督は本当に愛されていたと思います。

©️2018『体操しようよ』製作委員会
©️2018『体操しようよ』製作委員会

——草刈さんとの共演はいかがでしたか。

初めてお会いしたのがラジオ体操の撮影の日、練習をしに行った日だったんですけど、最初から両手を広げて「待ってたよー」っておっしゃってくださったんです。そう言ってくださったらもう、胸に飛び込んで「宜しくお願いします!」と言うだけだなと。最後までそうでした。草刈さんはやはりクールでかっこいいイメージがありますので、私も強くそう思っていたのですが、現場では常に「お父さんはインするスタイルだ」とトップスをずっとパンツに入れていたんです。その姿を見てみんなで可愛い可愛いと言っていたのが印象的でしたね。余計足の長さが目立つんですよ。かっこいいお父さんでした。

——この映画から学んだことはなんですか。

撮影が終わった後も作品を見た後も、子供って親に楽しんでいてもらいたいんだなって思いました。くだらないことでも楽しそうに、生き生きやっていてくれたらそれでいいんだなと。大人になると素直な感情表現ができなくなるんです。「楽しんでくれればいいのに」ということもぶっきらぼうな言い方になってしまう。真意が伝わらなくなってしまう。だからもし、お互いが「好きに生きれば」みたいな感じになっている親子が見に行ってくれたら、「ラジオ体操して見ようかな」「何言ってんの(笑)?」みたいな会話が成立するかもしれません。それこそ草刈のお父さんと弓子みたいな関係になってもらえるんじゃないかなと思います。

©️2018『体操しようよ』製作委員会
©️2018『体操しようよ』製作委員会

——親子で喧嘩できる幸せを感じる瞬間はありますか。

喧嘩できるうちは幸せなんですけど、でも喧嘩はない方がいいと思っています(笑)。私は親の心配が重すぎて離れたタイプだったので、逆に喧嘩しなくなってから親子間の楽しさだとか、幸せを感じることが増えました。今が一番母と互いに理解している感じです。

——この映画の魅力はなんだと思いますか。また、人生をシンプルに楽しむためにどんなことが必要だと思いますか。

お父さんは一歩踏み出すことにもがいていましたけど、踏み出せるか踏み出せないかで人生大きく違ってきます。踏み出さなかったら楽しくないけど踏み出したら楽しい。それだけなんだと思いますね。それを押し付けることはできませんが。踏み出して人生悪いことはない、という代表的な作品でもあると思います。もがいている人たちのちょっと背中を押せるような映画になるのかなと思っています。

©️2018『体操しようよ』製作委員会
©️2018『体操しようよ』製作委員会

——そもそも木村さんは俳優という仕事をどのように捉えていますか。

何でしょうね。率直に言ってしまうと、働くのが嫌いじゃないんです。親が働いている姿をずっと見てきているので。働かないという生活が考えにない。だから学校行くよりもバイトして早くお金を稼ぎたかったんです。結果的に、どのバイトよりもどの仕事よりも長く続いているのがたまたまこのお仕事でした。

——演技することに魅力を感じるということですか。

というより、人ですね。私は何回もこの仕事を辞めようとして離れているんですが、その度に呼び戻してくれる人がいました。もし所属事務所が「あなたは大人だし、好きにやってみて」という放っておくようなタイプだったら長く続いていないと思うんです。今の事務所に入って初めて膝を付き合わせてなんでも話せるような人がいてくれたらから、この人を裏切っちゃいけないって思いました。この人が諦めない限り、私も諦めちゃいけないなと思っていますね。

©️2018『体操しようよ』製作委員会
©️2018『体操しようよ』製作委員会

——では、木村さんの転機は今の事務所に入ったときですか。

そうですね。私が最後にやっていたバイトが、レストランウェディングの介添えだったんです。その仕事がとても好きで、人の幸せを送り出す仕事っていいなぁと思っていました。でも、結婚式は土日がメイン。事務所から土日のレッスンを受講するように言われて、泣く泣くそのバイトをやめたんです。俳優というお仕事をしていなかったらその道でやっていたんじゃないかな。

——どのように出演作や役柄を選んでいるのですか。

そこは毎回マネージャーさんと相談するところです。ただ出演しているだけではダメだと。何の仕事でもそうだと思いますが、戦略ではないですが、ある程度レールを敷く作業は大事だと思っています。

どういうレールの敷き方をするかはマネージャーさんとよく相談します。今何が足りていないのか、どうキャリアをつくっていくかとか。それが8割くらいであと2割くらいが個人的な感情です(笑)。それこそ、この映画のように「普通の会話がしたい」とか(笑)。レールを敷く話をする時に、明確にこれが終わったらこうなっていたいという思いがあります。毎回目標を作ってそれは越えられるようにしていますね。

——木村さんなりの役に対するアプローチ方法はありますか。

役だからということに限らず、私は人の癖を見るのがすごく好きなんです。この人は食べるときにリズムをとりながら食べるんだなぁとか、喋るときにこういう癖があるんだなぁとか。そういうときは「癖見っけ」とクスクスひとりで笑って見ていますが、いろんな癖が役に出てきたら面白いな、と思いながら観察してます。

——最後に、最近購入したプレシャスなものを教えてください。

私は基本、バッグを持って歩かないんです。携帯とお財布はポケットに入れておく。そんな私が最近ショルダーバッグを買いました。

あんまり人が選ばないような球体で、ペットボトルや今まで手に持っていたものが全部入るんです。もともと違う形のものが欲しかったんですけど、携帯が入りませんでした。それならバッグを持つ意味がないなと思い諦めようとしていたときに、お店の人がそのバッグを出してきてくれました。見た瞬間「カワイイ!」と思っちゃって。でも、買うときも必死に「もう三十歳だから、三十歳だから」「もうポッケに入れて歩く年じゃないから」と自分に言い聞かせて、初めて大人な買い物をしました。

木村文乃さん
女優
(きむら ふみの)1987年10月19日、東京生まれ。映画『アダン』(2004年)のオーディションでヒロインデビュー。『風のダドゥ』(06年)で主演。主な出演映画に『ポテチ』(12年)『ニシノユキヒコの恋と冒険』(14年)『くちびるに歌を』『イニシエーション・ラブ』『ピースオブケイク』(以上15年)、『RANMARU神の舌を持つ男』『追憶』『火花』(以上17年)、18年は本作を始め『羊の木』『伊藤くんAtoE』に出演したほか、『ちいさな英雄ーカニとタマゴと透明人間ー』では声優に挑戦。19年には『ザ・ファブル』の公開が控えている。
『体操しようよ』
11月9日(金)から全国ロードショー
38年間無遅刻無欠勤で定年を迎えたシングルファザー、佐野道太郎(草刈正雄)。定年退職の日、娘弓子(木村文乃)からの置き手紙が。ドキドキしながら読むと、そこで弓子が親離れ宣言。「佐野家の新しい主夫はお父さんです!」と、弓子は父親の独立を目論み、厳しく背中を押し始める。道太郎はやがて、体操会を通じて地域デビューを果たし、初めての家事に奮闘していくが……。定年を迎えたシングルファーザーが、その後の人生を自ら切り開いていく物語。出演:草刈正雄 木村文乃 きたろう 渡辺大知(黒猫チェルシー) 和久井映見  監督:菊地健雄 脚本:和田清人、春藤忠温 音楽:野村卓史 
公式ホームページ
この記事の執筆者
生命保険会社のOLから編集者を経て、1995年からフリーランスライターに。映画をはじめ、芸能記事や人物インタビューを中心に執筆活動を行う。ミーハー視点で俳優記事を執筆することも多い。最近いちばんの興味は健康&美容。自身を実験台に体にイイコト試験中。主な媒体に『AERA』『週刊朝日』『朝日新聞』など。著書に『バラバの妻として』『佐川萌え』ほか。 好きなもの:温泉、銭湯、ルッコラ、トマト、イチゴ、桃、シャンパン、日本酒、豆腐、京都、聖書、アロマオイル、マッサージ、睡眠、クラシックバレエ、夏目漱石『門』、花見、チーズケーキ、『ゴッドファーザー』、『ギルバート・グレイプ』、海、田園風景、手紙、万年筆、カード、ぽち袋、鍛えられた筋肉