「ウイスキー、なんでもいい」
 カウンターに座った俺は、いささか乱暴に
言った。
 うなずいたバーテンダーは、バックバーか
ら一本を抜き取り、正面をこちらに向けてカ
ウンターに立て、小さなウイスキーグラスも
置いた。注ぐかなと思ったが、さらにチェイ
サーの水を添える。
 はやくしてくれないか、という気持は一連
のゆっくりした動きではぐらかされ、動作に
注目させる。バーテンダーは、まあ慌てなさ
んなというように律義にメジャーカップにと
り、逆手返しにグラスに注ぎ、ボトル口をナ
フキンで拭いてキャップを締め、ようやく、
さあどうぞと前に押し出した。
「グレンモーレンジィのオリジナルです」
 私も紳士だ、ここであおってはいけない。
ゆっくり取り上げ、白いコースターを背に透
かせて色を見る。その色は淡く、ウイスキー
の茶褐色にオレンジ色を感じる。そして、舌
先を濡らすよりは、やや多く含み、そのまま
じっくりと口の中に置いた。
 ウイスキーストレートに必要な最初の刺激
が静まると、バニラの香りがゆっくりと立っ
てきて、さらに蜂蜜のような甘さが後を追う。
この味はすぐには出てこないな。
 およそ一分も留めて飲み干した瞬間から豊
麗な余韻が口中を満たしていつまでも消えな
い。
 不機嫌な男に、女性が黙って柔らかく温か
い肌を寄せてきたような優しい抱擁感は、ゆ
っくり味わってくださればいつでも応えるわ
よ、と言っているようだ。へえ、と面を上げ
た私に、バーテンダーがにやりと笑う。その
顔は、すさんだ気持ちを鎮めるならこのウイ
スキーと言っている。
 あらためて眺めたボトルは、ややセクシー
にくびれた腰がふくよかに落着いた、いかに
も品のよいレディ。乱暴はいけませんよとき
ゅっとにらむようだ。
 俺の心はすっかりおさまっていた。


グレンモーレンジィが堪能できる今宵のおすすめバー

グレンモーレンジィ オリジナル

 きれいに撫で付けられたシルバーグレイの髪が印象的なオーナー・バーテンダーが、バックバーから選んだのはグレンモーレンジィ オリジナル。バカラのグラスに静かに注がれた淡いゴールドのウイスキーが、磨き込まれた茶褐色のバーカウンターと溶け合い、なんとも艶やかで美しい。

 1843年、スコットランドのハイランド地方の海岸沿いの小さな町、テインで生まれたグレンモーレンジィ シングルモルト・スコッチウイスキー。スコットランド産の大麦のみを使用。最高級のオーク樽で熟成、“テインの男たち”と呼ばれる熟練の職人たちの技で丁寧に仕上げられた「完璧すぎる(Unnecessarily Well Made)」ウイスキーは、伝統と最新技術を融合させるパイオニアとして高い評価を受けている。そんなグレンモーレンジィの特徴であるフルーティーでフローラルな風味は、スコットランドで最も背の高いポットスチルで生まれている。

 さて、今宵の一杯は、完璧なバランスでウイスキー初心者から愛好家まで多くの人に愛されているグレンモーレンジィ オリジナルをストレートで。

バー セブン シーズンズ

 銀座7丁目、並木通りに2014年10月にオープン。銀座らしい品格漂うオーセンティックバーでありながら、敷居の高さを感じさせず、くつろいだ時間を過ごすことができる。長いバーカウンターの向こうのバックバーにはいつもグレンモーレンジィが並べられている。

~ tonight’s bar ~

問い合わせ先

この記事の執筆者
TEXT :
太田和彦 作家
2018.11.23 更新
1946年生まれ。グラフィックデザイナー/作家。著書『日本のバーをゆく』『銀座の酒場を歩く』『みんな酒場で大きくなった』『居酒屋百名山』など多数。最新刊『酒と人生の一人作法』(亜紀書房)
PHOTO :
西山輝彦