――大人のファンが多いお二人に、音楽についてお伺いしたいと思います。今回は〈BAR編〉として、洋楽を中心にお話をいただきたいです。

ところでお二人は、BARでは何を飲んでます?

小野瀬雅生さん(以下・小野瀬)シンプルにギムレットやウォッカトニックなど、作る人によって味に違いが出るものを頼んでいます。

野宮真貴さん(以下・野宮) 私はシャンパンが好きです。カクテルなら「お任せ」が多いかな。

小野瀬 BARって都会のものですよね。人がいないと研ぎ澄まされないという……。

――秋のBAR音楽といえば?

小野瀬 秋はピアノの音色が染みますね。ピアノソロが流れていると、つい、飲み過ぎてしまう。いい曲がいっぱいありますが、『コパカバーナ』で知られるバリー・マニロウ(米国のミュージシャン)のピアノ曲がいいんですよ。以前はしっとりとした弾き語り曲を歌う人で、よく聴いていました。だから今でもピアノを弾いて歌う人を聴くと、グッときちゃう。

野宮 でもどうしてギターなの?

小野瀬 ピアノを習えなかったんですよ(笑)。もちろん弾けるんですけれど、本職にはかないません。

野宮 音楽は、お酒と同じくらい大切。レコード好きのオーナーのお店は、いい曲がかかっていることが多いです。

小野瀬 僕が神戸で行くお店は、お客さん同士で音楽の話をしていると、その曲を探してかけてくれる。音楽は思い出と直結しているから、話も弾みますよね。

野宮 音楽ってタイムマシンみたい。曲を聴くと、そのとき何をしていたかがよみがえってきます。今日の小野瀬さんの格好がミッシェル・ポルナレフに見えたんですけれど、私、初めて買ってもらったシングルが『シェリーに口づけ』だったのね。あの曲を聴くと、その時代に戻るんです。

小野瀬 野宮さんと知り合ったばかりのころ、「KISSが好きなロック少女だった」と聞き驚きました。

野宮 今日、これからエース・フレーリー(KISSのギタリスト)のソロライブに行きます。『Shock Me』を聴きたいがために行くんですが、大人になるっていいですよね。昔は追っかけなんてできなかったけれど、今ならできる(笑)。私、KISSのフェアウェルツアー、全部行きましたもの。

小野瀬 今、’70年代に活躍したミュージシャンの来日も多いですよね。そういうライブに行ってみるのも楽しいものです。

――最近、どんな曲に注目していますか?

小野瀬 僕は今、’90年代の自由な空気が詰まっている、スチャダラパーや電気グルーヴといったグループの初期の曲を聴いています。そこには、自分がやりたかったことの素みたいなものがあるから、面白いんです。

野宮 あの頃は渋谷系以外にも面楽が出て来ましたよね。 あと壁を取っ払おう空気も流れていた。ブラジミュージシャンのカエターノ・ヴェローゾとジルベルト・ジルがボサノバではない『トロピカリア2』というサンバの未来版というゴキゲンなアルバムを作ったんですが、そういう質の自由さもまた、いいよね。

野宮 でも私、この時代、忙しすぎて他の人の音楽を聴けていないんです。

小野瀬 僕もそう。先日、ある人に「パール・ジャム好きでしょ」と言われたのですが、あれだけ流行っていたグランジロックバンドの曲を知らなかったという。

野宮 だから、当時の曲を聴いていく楽しみもありますよね。

――最近のミュージシャンの曲は聴くのでしょうか。

小野瀬 テクノとメタルについては、新しい曲を聴きます。年末にその年に出た曲のベスト50などを試聴していると、すごく面白いものが見つかるんですよ。

野宮 一緒にラジオ番組「渋谷のラジオの渋谷系」のパーソナリティをしている、カジヒデキ君が、世界中の新しい音楽をピックアップしてくれているので、教えてもらっています。若くて才能がある人がいっぱい出てきているし、勉強させてもらうこともあります。若手で言えば、グリムスパンキー(日本のロックユニット)が好きですね。

小野瀬 僕も好き。ライブに行くと、若い人が多いんですけれど、年配のファンも少なくない。

野宮 音楽ファンの年代をつないでいますよね。'70年代のロックやブルースの雰囲気と、ボーカルの松尾レミちゃんのハスキーな声が相まっており、大人の心もつかんでしまう。彼女は渋谷系も好きだけれど、自分の声にはロックが合うと言っていました。私と真逆なんですよ。

小野瀬 確かに野宮さんの声とロックは結びつきにくいですね。

野宮 '80年代初期に、ニューウェイブ、テクノポップが出てきました。プラスチックス(日本のテクノポップグループ)がすごく好きで影響を受けました。このとき、やっと自分の歌える音楽に出会って、それまでロック少女だった私は、長髪をバッサリ切ってベリーショートに。ファッションも一新しました。

小野瀬 僕の’80年代はハワード・ジョーンズみたいに前髪を垂らした刈り上げヘアにしていました。当時は今の体重の半分だったんですよ。

――小野瀬さんはメタルにも詳しいそうですが、最新シーンの特徴は?

小野瀬 ヨーロッパのメタルの最新曲の特徴は、どれだけバスドラムを打ち込むことよりも速く踏むかが特徴的で、いつも驚きます。

野宮 ヨーロッパってメタルの人気が根強いですよね。

小野瀬 2018年の夏、ドイツのお年寄り2人が介護施設を抜け出し、ヘヴィメタル音楽祭に行ったというニュースがありました。

野宮 熱いですね。私の若い頃からの夢のひとつにロック養老院を作るというものがあります。一芸あれば入れて、毎日リビングでセッションをするという。

小野瀬 毎月1日はKISSの日とかね(笑)。

――今、野宮さんは渋谷系のルーツとなる曲を歌っています。

野宮 渋谷系のアーティストがリスペクトする、バート・バカラック(米国のミュージシャン)やロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ(米国のポップスグループ)の過去の名曲をカバーしています。自分を介して、多くの人にいい音楽を聴いてもらいたいという気持ちが強くなってきているかな。

小野瀬 音楽ってパーソナルなものですよね。自分のルーツとなる曲を聴いて、そこから広げていくという聴き方もいいですよね。

野宮 好きな音楽を聴くと、細胞が活性化して若返ると思います。

小野瀬 あえてのジャケ買いで、カンを磨くというのもアリ。

野宮 あ、私、そろそろライブに行かなくちゃ。

次回の居酒屋編もお楽しみください。

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TEXT :
MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2018年秋号より
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
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撮影/相賀公伺 協力/アマランス ラウンジ 構成/前川亜紀