アルフォンス・ドーデの短編といえば「最後の授業」が有名だが、同じ短編集の「レ・プティ・パテ」の方が、小生の好みにあう。日曜日にプティ・パテ(ミートパイのようなもの)を家族と共に食べることを、25年来の楽しみにするボニカール氏の物語だ。ある日曜、その配達が来ないのに耐えられず町に出て、パリ=コミューンの騒動に巻き込まれる…。今日も読み継がれるその人物像への共感は、幸福な人間に共通なものだ。そこには毎週変わらない楽しみがあり、その週が月、季節、年へと重なっていく。パテック フィリップ「カラトラバ・ウィークリー・カレンダー」は、そんな肯定的な人生観へ寄り添う腕時計である。

1年を魅力的に刻む唯一無二の時計

手書き書体を転写した文字盤、貴金属でないケースの採用など、「カラトラバ」としては異例づくしのニューモデル。それだけに注目度も極めて高い。●自動巻き ●ステンレススティール ●ケース径40mm ●シースルーバック ●防水30m ¥3,650,000(税抜、今秋発売予定)

 まず目を引くのは、なみ外れて大きい曜日の表示だ。先端を赤いハンマー型にした針をセンターにおいて、短針が届くほどまで拡大した曜日表示を指す。スモールダイヤルならいざ知らず、円形の文字盤全体を内側から7等分してしまっているわけで、これほど曜日のダイナミズムを押し出したデザインは滅多にない。いま何時だろうというのと等価に、今日は何曜日なのかが目に飛び込むのである。

搭載されるのは新ムーブメント「キャリバー26-330 S C J SE」。パテック フィリップの将来を担う自動巻の基幹ムーブメントと目される。名前の由来である直径26.6mm、厚さ3.3mmのベースに、ユニークなウィークリー・カレンダー機構を組み合わせている。

 そして外周には、同じように指針で示す“週番号”と月を表示。海外ブランドの手帳によくある“今日が1年の何週目か”を時計でおこなうのは珍しいが、慣れると便利。あっという間に過ぎる1年を、魅力的に分節する仕掛けだ。そしてデザイナーの手書きをベースにしたという、数字を含めた書体にはなんともいえない雰囲気がある。カフェの手書きの勘定書で何度も目にしたような、Fを鏡文字にしたような横棒をひく“7”など、小生はとくに気に入っている。

スマートに手元を魅せるケースデザイン

カーブしたラグ形状などフォルムの特徴は、パテック フィリップ・ミュージアム所蔵の1955年製モデル「2512」譲り。モデルナンバーも組み合わせを変えて継承されている。ラグを含めた厚さは11.18mmで、着用感は抜群。

 ケースのデザインは、1955年製のミュージアムピースがもとになっていて、ラグのデザイン等にヒストリカルな味わいがある。今回のモデルが40mmなのも、往時の大きめなユニークピースを踏襲したものだ。つまりこの時計には、過去の時間も内蔵されている。しかも現行のカラトラバで、この「ウィークリー・カレンダー」は、たった1つだけ貴金属ではなく、ステンレススティール製モデルであることも見逃せない。眺めてしまっておくのではなく、52週あるいは53週間を使い続け、人生を楽しむためにある時計なのだ。

 幸せな曜日が巡り来て、幸せな週が続き、一年は繰り返す。幸福で楽観的な時間観念に似合う腕時計として「カラトラバ・ウィークリー・カレンダー」はふさわしい。ちなみに件の愛すべき食いしん坊は、兵士に押し込められた建物で同じ目に遭った配達人と遭遇し、いつものプティ・パテを受け取ることができた。収載されている短編集は、当初、月曜日の新聞に連載されていたことから「月曜物語」と名付けられている。

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この記事の執筆者
桐蔭横浜大学教授、博士(学術)、京都造形芸術大学大学院博士課程修了。著書『腕時計一生もの』(光文社)、『腕時計のこだわり』(ソフトバンク新書)がある。早稲田大学エクステンションセンター八丁堀校・学習院さくらアカデミーでは、一般受講可能な時計の文化論講座を開講。