優れたモノが生まれる背景は、製作に携わる、つくり手のエネルギーが大事だ。ものづくりの現場がどうなっているのかを観察するのが、取材する者にとって、やはり醍醐味なのである。
靴の工房は、リズミカルな音が心地よく鳴り響く。この音が靴をたくましい形につくり上げる。コンコンコン、コンコンコン……。木型を覆った革を木槌で叩き、革をなじませる音。
ジョンロブのビスポークシューズに男が人生を託せるたくましさを見た!
ザクッザク、シュッシュッ……。ナタのような大きな刃物で木のかたまりを切り出す荒々しい音や、足型になじませるヤスリ掛けの音も耳に届く。世界最高峰のオーダーメイドの靴をつくるジョンロブのアトリエは、その音がより力強く感じるのだ。ジョンロブ最初の海外工房は、フランス・パリに開かれた。
1902年、フォーブル・サントノレ通りにオープンし、何度か移転を重ね、2009年にパリ9区の現在の地に落ち着いた。オペラ座やモガドール劇場が近くにある文化の香りに満ちた一画に、静かにたたずむ工房とサロン。歴史のうえでも、職人のものづくりに対する姿勢からも、ビスポークの靴ならジョンロブへの信頼は絶大である。
たくましい靴づくりの背景に繊細な技の積み重ねがあってこそ、一生を託せる靴となる!
靴づくりに携わって32年。ラストメーカー(木型職人)として、キャリアの半分の年月を費やしてきたベテランの職人、フランソワ・マドニーニ氏は、靴づくりでいつも気に掛けていることがある。「もちろん、クライアントの足を正確に採寸し、望んでいる靴をつくらなければなりません。それには、選んだ革の特性を熟知し、いかに心地よく足にフィットさせるかを考えます。
ビスポークで大切なことは、クライアントとの会話です。既製靴のように現物を見ながら、靴を試着できるわけではありません。注文した靴を想像できるように、具体的に細部まで確認していくことです」
注文してから4か月後に仮縫い。まるで注文した靴のように仕上がった仮縫いの靴をはいたとき、最初の品定めとなる。「心地いいはき心地を、ミリ単位で隅々まで検証します。不具合や違和感のある部分は、即座に革をカットして調べ、クライアントが思い描いたデザインやスタイルになっているかを確認します」
たくましさが備わる靴をつくるには、その対極ともいえる繊細なデータの積み重ねがある。力強く感じられる靴のフォルムの裏側には、実は、緻密な仕事が繰り返されているのだ。大切なボールジョイントの位置、つま先のフォルムに対してバランスのいい捨て寸、ヒールカップとかかととのなじみ具合……。チェックデータを挙げればまだまだあるが、すべてを完璧につくり込んでいく。
そして、仮縫いから納品までの4か月。注文した靴を楽しみに、じっくりと待つのである。一生を託せる唯一無二の、たくましい靴を想像しながら。
ジョンロブ アトリエ シュール ムジュール
- 住所/32 rue de Mogador75009 Paris
TEL:+33( 0 )1-43-47-89-29
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2019年春号
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- クレジット :
- 撮影/小野祐次(取材)構成/矢部克已(UFFIZI MEDIA)